序章04:奴隷二日目
「うっ……」
眩しさに思わず私はうめいた。
日の光が瞼を透かして目に響く。
「やぁ、起きたかい?」
優しげな声の方へ顔を向けると、昨日私を買った身なりの良い男がそこに居た。
馬車の中だったけど、屈んで私と目線の高さを合わせている。
青い眼に、私の顔が映っている。
「あ、あの、えぇっと!」
やっぱりこの人ちょっとカッコいいよぉ…。
真正面から見られると目に悪い。慌ててしまう。
「よく眠っていたようだね?」
「あ、あっすいません!奴隷なのに失礼な事!」
「あ、あぁ良いよ。そんなにかしこまらないで。寝ていた事を叱ろうとしたワケじゃないから。
…礼儀正しい子だね、良い子だ」
そう言って、男の人は私の頭を優しく撫でる。
恥ずかしいやら嬉しいやらで、顔から火が出そうに熱い。
「あっ、えっと……な、名前!お名前をお伺いして…あっ、わ、私の名前ばっ!」
…噛んだ。思いっきり噛んでしまった。
「……」
「………」
沈黙。
ガタゴトガタゴト。馬車が道を進んで行く。
朝日が徐々に上り、窓から漏れる光量が増える。
沈黙が、続く。
「……えっと。私の名前は、ユリシスと言います」
「…あ、あぁ。フェル=レゾナスだ。よろしく」
フェル=レゾナスさん。か。
こういう横文字の名前は姓が後に来るから…。
「えっと、じゃあレゾナス様…とお呼びすれば宜しいですか?」
「あぁ、それで構わないよ」
良いらしい。ここで無礼討ち!とか言われないで良かった。
私の奴隷生活はまだ始まったばかりだ!
「えっと……レゾナス様」
「ん?なんだい?」
レゾニス様は、またしても正面から私を見据える。
思わず顔をそらす。
だから、そのイケメン顔心臓に悪いんだって……!
「えっと、ですね。どうして私達を買ったので…?」
「あ、あー……
それはウチに着いてからで良いかい?」
「……はい」
何で隠すの!?
やましいの?やましいアレなの!?
お嫁に行けない的なベクトルなアレなの!?
でも、ユリシスって今10歳…はっ、もしかしてこの人ロリコン!?
イケメンなのにロリコン!?残念イケメン!?
「んっ……」
と、私の隣のミリーがもぞりと動いた。
ミリーちゃんも、私と同じように寝ていたようだ。
それにしても可愛いなぁミリーちゃん……。
私、生前は一人っ子だったから分からないけど、妹が居たらこんな感じなのかなぁ。ユリシスとは幼馴染みで同い年だったけど、元々私は16歳だったから妹みたいに見えるんだよねぇ。
はっ、いけない!目の前に居るのはロリコンだ!
私がミリーちゃんを守ってあげないと!
「……どうして睨むんだい?」
「あ、いや、そういうつもりでは…」
いつの間にか目つきが厳しくなってしまっていたみたい。
いけないいけない。私はあくまでこの人の奴隷…。
うぅっ…先が思いやられるなぁ……。
「っと、そろそろ着くみたいだね」
「え?」
ふと窓をのぞいてみると、
「うわぁ……」
視界いっぱいに見えるのは、広大な農園地帯。
麦なのかな?まだ青々とした作物が、窓からの景色を埋め尽くし、朝の日差しを受けて輝く。
麦でできた絨毯は、風を受け穏やかにウェーブのような起伏を繰り返し、風の形を幻視させられる。
そして、その農作物とは用水路の溝を挟んで、まっすぐに馬車が余裕をもって通れる道がまっすぐと続いている。土でできているが、目立つ石の無いその道はよく整備されている様子が伺えた。
その道の先に、ドンと大きな屋敷と、その周りに集まるように幾つかの小さい民家が見えた。
「…あのお屋敷、ですか?」
「あぁそうだよ。
ここはレゾナス領。ま、僕が領主をしているんだ」
私達を買ったレゾナス様は御領主様であらせられましたようです。
……
馬車がお屋敷の門をくぐり抜け、広い庭の中に止まる。
「さ、着いたよ」
「あ、は、はい!
ほら、ミリーちゃん。着いたよ?」
「うぅん……」
レゾナス様が馬車から降りたので、私もそれに追従するべくミリーちゃんを起こす。
昨日は疲れたのか夢見が良かったのかどうもぐっすり寝ていたらしく、ミリーちゃんは少し寝起きが悪くちょっとぐずっている。まぁ、この馬車の座席気持ち良いからね。多分ミリーちゃんの家のベッドよりずっと寝心地良いからなぁ。
うーん…。可愛いんだけど、流石に奴隷でこれはまずいんじゃないかなぁ。
仕方ないので思いっきり揺り動かすと、目をこすりながらも起き上がった。
「うーん…ユリシス?」
「おはようミリー。もう着いたから、早く行こ?」
「う、うん!」
私達は急いで馬車から飛び降りると、レゾナス様は待っていてくれていたようだ。
「す、すいません!遅れました!」
「ハハハ。気持ち良かったかい?もう少し寝ててもよかったよ?」
「あぅ……」
ミリーちゃんは、恥ずかしいのか俯いて赤面してしまった。
何か、うーん…。凄い優しいなぁレゾナス様……。奴隷ってこんなに扱い良くされて良いのかなぁ?いや、でも商人は人権クソクラエみたいに乱暴にしてたし…、この世界での奴隷の立ち位置ってどのくらい…。
「もしかして、失礼したら殺されるとか言われてたのかい?」
「っころ!?」
やっぱりそういうイメージで良いの!?人生真っ暗なの!?
私もミリーちゃんも、顔の血の気がどんどん引いていく。
「あ、あの、す、すいません…っ」
「あぁ、いやいや気にしないで良いよ。僕はそういう事を言うつもり無いから。
むしろ、もう少し気楽にしてくれて構わないよ」
「は、はぁ……」
僕『は』かぁ……。って事は、そういう事を言うのが普通でデフォルトで常識なんだろうなぁ…。
やっぱり人権剥奪状態なのかぁ…。国に守ってもらうとか、そういう望みはゼロなんだろうなぁ。
領主様は私のご主人様。
領主様は私の命。
領主様が白と言えばカラスも白。
領主様が黒と言えば即処刑。
うぅ…。せめて優しくしてください……。
「どうしたんだい?ほら、こっちだよ」
「は、ハイ!」
慌てて私は、レゾナス様とミリーちゃんの後に続く。
えぇい、もうどうにでもなれ!とりあえず生きてやる!
門から出て、私達が案内されたのはお屋敷から5分程歩いた、村の中にある小屋だった。
小屋の前には何やら文字の書いた看板があったが、私には読めなかった。
どうも、ユリシスは生まれて10年間文字の読み方を学んでいなかったらしく、話す事はできるが文字の読み書きはできないみたいだった。
話す事ができて読む事ができない…ちょっと私からするとモヤモヤするというか、不安になるなぁ。
自分の話している言葉が頭の中で文字にできないっていうのはちょっと不思議な感じだ。
「ここが、君達が寝泊まりする場所」
私達はレゾナス様に案内され、小屋の中にある一室に通された。
部屋はあまり広くはなく、木製の簡素な2段ベッドが8つが所狭しと並んでいる。16人分の宿泊場所。
それから小屋の中を案内され、台所、食堂、お手洗い、水浴び場なども案内された。
この小屋の説明を聞いてみたところ、どうやらこのレゾナス様に従事している奴隷は十数名程で、ここで寝泊まりをしているらしい。主に農作業に取り組み、レゾナス様の領地の作物の世話や収穫を行い、時にはレゾナス領の農家の手伝いなども行う、というものらしい。
仕事的には何だか……農協を思い浮かべるなぁ。
普段は自分の農地で農作業をして、有事には他の農地に手助けしに行って…。
まんま農協じゃん。
待遇に関しても結構、私の想像していた奴隷よりも優遇されてるっぽい。
てっきり、雑魚寝のための申し訳程度の藁の上で寝て、ちょっとの食えるのかどうか分からないような飯だけで、一日中何のためにあるのか分からない歯車をゴウンゴウンと延々回すような感じを思い浮かべていたんだけど……。
もしくは、こう、色っていうかエロっていうか…みたいな奴。
けど実態は、労働時間は日が出てから日が落ちるまで、多分6時から18時くらい。昼は昼食の休憩があって、午前の半ばと午後の半ばにもちょっと休憩がある…。
え、もしかして結構まともじゃない?
少なくとも、ユリシスの毎日の農作業と何ら変わりがないよ?まぁ、奴隷だから給料は出ないけど。
一通りの説明が終わり、私達は食堂の席に着いた。
長テーブルを挟んで、領主様、私とミリーが椅子に座っている。
今、私とミリー以外の奴隷は農作業中らしく、小屋の中は静かだ。
「……あの、レゾナス様。仕事は本当にさっき言われた農作業だけなのですか?」
「うん、そうだよ?」
レゾナス様はそう言って優しく微笑んだ。
くっ、イケメンの笑顔眩しくて直視できない。
…しかし、流石に怪しい。
「…なんだか、少なくないですか?」
「そうかい?これぐらいが僕には丁度良いと思ってるんだけど」
「いや、レゾナス様は領主様で、私達は奴隷なのですからもっと酷使するのではないかと…」
「でも、働かせ過ぎて倒れられても困るんじゃないかい?」
「それは、そうですけど……」
労働組合が諸手を上げて喜びそうな事を言うなぁ。
でも、普通奴隷って使いまくって、使えなくなったら捨ててまた別の人を使うんじゃ…。
が、私の考えを知ってか知らずか、レゾナス様はフゥとため息を一つ吐いた。
「……何を疑っているのかは、まぁ分からなくはないよ」
「い、いえ疑ってるとかそんなっ!
あまりにも私達を優遇していただいてるというか!何か奴隷らしくないなぁって言うか!」
私は慌てて首を横に振り、おまけで手をブンブンと振った。
「…君は本当に賢い子みたいだね」
レゾナス様はそう言うと、フフッと苦笑いを浮かべる。
まさか、やっぱり何か隠していたのか!?
エロ路線か?エロ路線なのか!?
大きい声では言えないけど、あなたが相手ならちょっと嬉しいかも!
バッチコイ玉の輿!
「まぁ、隠す事じゃないし教えようか。えっとね、あまり自慢できる事じゃないんだけどね…」
そう言うと、レゾナス様はまたため息を、今度はさっきよりも深くフゥと吐く。
そして一言。
「ウチはね、
貧乏なんだ」
…………。
「ハ?」
間抜けな声が喉から出てしまった。
「えっと…貧乏、ですか?領主様なのに?」
「まぁ、それを言われてしまうとこっちも辛いんだけど…。
うん。領主の中では僕はかなり貧乏だよ。残念な事にね」
領主様曰く。
レゾナス様の管理しているレゾナス領は、フェデル王国の中でもかなり端の方に位置しているのだという。端的に言えば辺境領主様。
そのため、小間使いや給仕も少なく、彼の屋敷に仕えているのは庭番一人、執事一人、女中が二人、それで全員だとか。
その理由、なのだが。
「実は、家内が早逝してね……」
「えっ……」
思わず言葉を失った。
レゾナス様、なんとバツイチ。
何でも子供を産んだと同時に亡くなったとか……。何と言う悲劇…。
ん?
「えっレゾナス様、ご子息がおられるのですか?」
「うん。まだ6歳だけどね」
「6っ!?えっと、レゾナス様若く見えますがおいくつですか?」
「え、えっと、22だよ?」
「……」
なんとレゾナス様、15〜6程で大人の階段を登っていた。
しかも、子供ができる程濃密な階段を……。
「まぁ、うちの子の事はまた紹介するとして…。
ウチが何故貧乏なのか、だったね」
そうしてレゾナス様は、自分が何故貧乏なのかを事細かに説明してくれた。
フェル=レゾナスはレゾナス家次男。勉学に秀で人付き合いも悪くなく性格も温厚なのだが、悪く言えば彼は甘い人だった。
自分より身分の低い人にも親身に接し、自分の財産を幾度となく分け与える。と言っても、彼自身が格差に対して嫌悪感を抱いているという訳でもなく、単に目の前で困ってたから、というのが理由だ。
フェル=レゾナスが言うには、
「自分は優しくはない。
優しいというなら、その人を根本から救ってあげるべきだろう。
けど、僕にはそこまでできない。そこまでしてあげようという気にはなれないんだ。
ただ、目の前で困っている人が居るというのが僕は見過ごせないだけだよ」
だとか。
しかし、その姿勢がとある上流貴族の女性の目に留まった。リリィ=クロウディア。後のフェルの妻である。
彼女は病弱だった。上流貴族のやんごとなき血統をもつ彼女であったが、病弱でそのために塞ぎがちだった彼女に言い寄る者も少なく、華々しいパーティーではいつも壁の花であった。
そんな彼女にも優しく接するフェルは彼女にとって数少ない対話の相手であり、同時に彼の容姿も相まってリリィがフェルに熱を上げるのはそう遅くはなかった。
そして訪れたフェルへの婿養子の誘い。
無論、万年下級貴族のレゾナス家からすれば願っても無い出世話であり、フェル自身もリリィとの結婚を望んでいなかった訳ではないので二人はめでたく結ばれた。この時お互い15歳。元日本人のユリシスからすれば信じ難い程のスピード結婚だった。
が、リリィの幸せはここで頂点を迎えてしまっていた。
元々体の弱いリリィだったが、妊娠が分かってから彼女の体調は目に見えて悪くなっていった。
そして誰もが待望の男子を産むと同時に、リリィ=クロウディアは息を引き取った。
フェルが悲しみに包まれる中、金と権利の話は勝手に進んでしまう。
下級貴族の急進を快く思わない者たちの画策により、フェルはクロウディア家から離籍。
更に、折角の縁をご破算にしたと怒ったフェルの父親によってフェルは辺境の領主を押し付けられる。
手切れ金もそこそこに、実質勘当に近い扱いを受けた。
何とまぁ……ドロドロとした話だ。
「…まぁ、そういう訳でね。
資金も少ないから家臣も少ないし、兵だって持っていない。近くに国境警備隊は居るけど、これも僕が管理している訳ではない。
だから、奴隷を迎えるのも自分でやらなきゃいけないし、奴隷を使い捨てにするのも難しいんだよ」
それなら税を重くすれば良いだろう。と思ったものの、この人的には難しいだろうなぁ。
自分で自分の事を甘いなんて言う程だし、税が重いなんて訴状が届けばすぐに税を減らしそう。
「いや、こんな事言っても仕方なかったね。つまらないだろう?」
「いっいえ!むしろ、わざわざ私達みたいな奴隷にそこまで教えていただいて恐縮です!」
確かに、隣のミリーちゃんは何を言っているのか分からないみたいでポカンとしているけどね?
奴隷の身分で貴族の権力争いについて聞いても仕方ないけどね?
とりあえず、私の未来は今のところかなり見通しが良いらしい。
三食付き・家あり・シャワー(冷水)あり・寝床あり・給金なし・イケメンあり・友達あり・待遇良し。
悪くない。悪くないよ私のセカンドライフ!
っていうか、何で私こんな幸せになれてるの!?
………ん?何でだ?
「…レゾナス様、質問して宜しいでしょうか?」
「何だい?」
「どうして、私達を急いで買ったんですか?」
そうだ。
彼は私達を買いにきた時、至急で二人を急いで買いにきていた。
でも、この待遇を聞く限り奴隷が逃げ出したとか過労死してしまったとは考えにくい。
いや、もしかしたら、まだ私の知らない何か奴隷の減らざるを得ない過酷な環境がここにはあるのでは……。
「あぁ。先日、奴隷が二人、農民と結婚したので奴隷身分から解放されたんだよ」
「寿退社ぁ!?」
え、何その理由!?
「こ、コトブキタイシャ?」
「あ、いえ、何でも無いです。こっちの話です!」
つい日本語を叫んでしまい、慌てて取り消す。
何でも、この領土内で適用されてる法によると、奴隷が奴隷以外と結婚した場合、領主との相談が必要にはなるが、場合によっては奴隷身分から解放されて自由になるらしい。
奴隷のままでは夫婦生活がままならないだろうとの事でレゾナス様が自分で制定したらしいが…。
甘過ぎこの人!
そんな制度、使われ方によっては自分が買った奴隷を全部農民に奪われるじゃないの!
っていうか、そんな状態でよく領地が無事ね!
多分そういう甘々な独自の条例がまだ色々とあるんだろうなぁここ……。
逆に、そんな甘いのに領主が勤まっているレゾナス様が凄いのかなぁ…。
誰も領主様の敵になろうとも思わないんだろうなぁ、きっと。
イケメンに加えて性格良好とか、戦う気も起きないよ。
「えっと、質問はこれで良いかな?」
「……あっ、もう一つ良いですか?」
「何だい?」
うん、この人は多分、いや絶対悪い人じゃない。頼って良い人。The best of 保護者。
全面的に信頼して行こう。
疑問は、全部ぶつけてしまおう。
「何で、私達でも良かったんですか?」
年若く、容姿がそこそこ。買い取られた時、そういう方面で私の値段はそこそこだった。
が、労働力目的で買うなら容姿に価値はない。むしろ無駄に値段が高い私達を買う意味は無い。
レゾナス様なら誰でも良かったというのも考えられなくもないが、一応疑問ではある。
「あぁ、気になるかい?」
「…はい。
レゾナス様は私達を買いにきた時、特に容姿や年齢を気にした風ではありませんでした。
今日、すぐに必要であった理由があったのですか?」
「んー……。いや、人手が足りないのは確かだったが、今日、すぐに必要というわけではないね。
というより、ここで働いてもらう人は力持ちである必要は無いからね」
「え?」
はて、どういう事か。
「えっとね……いや、見せた方が早いかな?」
そう言うと、レゾナス様は立ち上がり食器棚を開く。
そして、皿を1枚持ってきた。
「えっ……」
「まぁ、こういう事だよ」
レゾナス様は皿を持ってきた。
そして、それをテーブルの上に静かに置いた。
一切手を触れずに。
「君達には、これを覚えてもらうんだ」
皿は浮いていた。
手品の類いではないと思いたい。このタイミングで手品を出すようなら私はこの人の頭を疑う。
「えっ…魔法…ですか?」
皿が運ばれてくるのを私はあぜんとした表情で見ていた。隣に居たミリーちゃんも、眠たかった目を皿のように見開いてぽかんと口を開けている。
魔法。
私はそれが本当にあるとは思わなかった。
ユリシスも、本当にあるとは知らなかった。
「珍しい魔法だろう?この辺境にだけ伝わる、とても古い魔法なんだよ。
『掌握』という魔法でね。
『目に映る物を動かす』事ができるんだ」
それはとても単純な魔法。見ようによっては手品のようで、私が思い浮かべる奇跡だとかそういう魔法とは少し違う。
けど、確かにそれは魔法だった。
それは、私の目を輝かせる。
サイコキネシス
ハンドパワー
念力
多種多様な言われ方をされる現象。手に触れずに物を動かす能力。
誰もが安易に思い描き、誰もがふと望んでしまう、身近な望み。
その力を、
「……教えてくれるんですか?」
「ああ。
力仕事は得意でなさそうな子には特にね。
上達すれば大人一人ぐらいの重さは持ち上げれるんじゃ無いかな?」
確かにその魔法があれば、重たい物を運ぶ事も容易だ。わざわざ力持ちを雇う必要は無い。
もう、さっきまで慎重に考えてた疑いや不安は全てが吹き飛んでしまう。
魔法。
私の世界には無かったモノ。
空想を実現にする素敵な響き。
何だろう、この感じは。この高揚は。
ワクワクする。ドキドキする。
魔法。魔法。魔法!
「れ、レゾナス様!」
私は思わず立ち上がる。
レゾナス様は私の急な行動に驚いてビクリと体を震わせた。私の隣のミリーちゃんに至っては話について行けずぽかんとした顔で私を見ている。
「よ、よろしくお願いします!」
こうして、私はレゾナス領の奴隷としての生活を歩む事を決めた。
何か最後あたりがガス欠になってる気が……難しい。