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殺戮少年少女

 三日月が笑う夜。ドサッと音を立て、地面に崩れる体。それは既に「死」だった。


「あとひとり」


 赤い眼光。


「し、【死神】!?」

「はあ?なんでそっちが流行ってるの?せっかくかわいいフード被ってるのに。【フードくん】とか【ねこ耳フード】とか、可愛く呼んでくれる?」

「フード……?飯?」

「うわ、もう最悪。バイバーイ」


 飯?が彼の最期の言葉だった。ふわっと軽い光が現れた瞬間、男の体は貫かれ、床に赤い血が散った。黒い外套の隙間からちらりと見える銀が、腕に巻き付き収まった。腕輪に戻っている。腕輪はまるで人の血を吸った喜びを示すかのように、赤く輝いた。男が動かなくなったことを確認すると、フードについている猫耳を引っ張ってフードを脱いだ。赤い目が目立つのと、自分も知らない素性を隠すため、このようなことをしている。このマントのせいでついた【死神】などという可愛げの欠片もない通り名。耳までつけて可愛さをアピールしているのに誠に遺憾である。


「うさ耳の方がよかったかな?」

「どっちでもいいから、フード被って」


 ココアみたいな色をした茶色の髪。青い瞳をした背の高い男がこっちに向かいながら返事をした。結局こいつに無理矢理被せられ、その上からぽんっと頭に手を置かれ「お疲れ様でした」と言われた。この男の名前はソル。白いシャツがお気に入りで、いつも着ている。家の中でもだ。白シャツに黒いズボン。たまにジャケットを羽織るが、Tシャツなんかを着ているところは見たことがない。


「帰りましょう」

「うん、疲れちゃった」


 僕が今いるのはあの教会ではなく、このソルの家だ。ソルは財閥の御曹司とも言える立場にいたが、彼の父親の失態でその地位は失脚した。大きな屋敷は残っているが、それ以外の財産やらなんやらは売り払って、今はもう何も残っていない。広い屋敷に、ふたりだけで住んでいる。その屋敷の殆どは使ってなくて、僕の部屋、ソルの部屋、キッチンと浴室、あとは暇な時に書庫で本を調達するくらいで、数多くある客室なんかは埃を被ってしまっていると思う。ソルが来てくれるから、ほとんど自分の部屋にいるため他の部屋のことは知らなかった。大きな屋敷の中で質素に暮らしている。移動は大体徒歩で、必要があれば汽車を使う程度だ。車も昔はあったけど、ソルが全部売ってしまった。彼にとっては昔を思い出してしまう、あるだけで嫌なシロモノだったのだろう。全ては彼のものなので、僕はなにも口出ししない。家の管理は全部ソルに任せている。居候の身であるから、なんて理由ではなく。ソルは僕の弟子みたいなものだから。

 基本的に近場での活動が多い。今回の仕事も近場だったから、徒歩で帰宅した。


「たっだいまー」


 ソルが鍵を開け、中に入る。部屋の中は真っ暗で、彼がすぐに明かりをつけた。


「ユキト、くつろぐ前にシャワーをあびてください。血みどろです」

「えー、服だけだよ。脱いだらいいじゃん」

「いいから。訳のわからない人間の血なんかつけたまま寝ないで」


 変なところに神経質だなあと思いながらマントを脱いで、Yシャツを脱いで、その下に着ていた黒いタンクトップも脱いで、ズボンも脱ごうとした所で、ソルに叩かれた。痛い。


「どこで脱いでんですか!風呂場はあっちです!!」

「まだ下着が」

「ばか!」


 それこそ風呂場でお願いします!とソルは顔を背けた。耳が真っ赤である。僕を意識する男なんて、こいつくらいだ。


「僕、あの時髪の毛短かったし、自分のこと男だと思ってたんだよ」

「事実は違いましたね」

「そうなんだよね。お風呂に入って初めて気づいたんだけど。でも、気分は今もそんなかんじ」

「一人称が【僕】だとしても、未だに勘違いしていても、あなたは女です!俺は男なんですよ!」

「ソルめんどくさい」

「ユキトもめんどくさい」


 タオルを投げつけられたので、仕方なく体に巻いて浴室に向かった。僕には記憶を失った時から自分の性別という概念が消え去っていた。男だろうが、女だろうがあんまり関係無かった。仕事も殺し屋さんなんてやってるし。蛇口を捻ると冷たい水が出てきたけど、そのまま浴びた。体を伝って落ちて行く水が、血液みたいで気持ち悪かった。いつの間にか身についていた技で、たくさん人を刺して、殺して……。体に染み付いた血の匂いは、きっといくら流しても消えないのだろう。

 石鹸で上から下まで全部洗ってしまったあと、タオルで体を拭いて浴室を出た。ソルと出くわした。


「次?」

「……」

「ちがうの?」

「……」

「どうしたの?」

「服を着ろ!!」


 全裸だった。

 ソルは急いで背を向けて、僕から視線を外した。こんな所で出くわすとは思っていなかったけど、さすがにまずかったようだ。意識している異性の裸を見てしまうのは年頃の男子にとってはとても目に毒であっただろう。どうしよう、ソルが興奮してしまうかもしれない。


「ごめん。うっかりしてた」

「しすぎです!!俺が、前から、何度も、」

「うん、わかってる。悪かったよ。だから襲わないで」

「だからそういうことを!!」


 言うんじゃない!と後ろを向いたまま悲鳴のように声を荒げるソルの頭を背伸びをして撫でた。


「着たよ」

「……はい」


 顔を真っ赤にしてぎゃあぎゃあ喚いていたソルはおとなしくなって、僕の手を握った。縋るような行動。僕が仕事を終えたあと、こういう行動をよくする。


「寝るまで付き合ってあげます」

「好きにしたらいいけど、その前にシャワー浴びなよ。汗くさいよ」


 手を握られたまま、すん、と彼の胸のあたりの匂いを嗅いだらまた真っ赤になった。僕からのスキンシップには過剰に反応するのに、自分からするのはいいらしい。


「すぐ戻りますから。寝ないでください」


 ちょっとばかり腹を立てた様子のソルは、かわいいわがままを言うとばたばたと音をたてて浴室に入っていった。僕は自分の部屋のベッドへ向かう。今から寝たら、昼くらいには起きられるかな。ふかふかの枕に顔をうずめた。気持ちいい。

 じんわり温かくなってきて、うとうとしだした時、重みでベッドが傾くのを感じた。もぞもぞと動いて、静かになって。背中が温かくなって、後頭部に柔らかい感触。


「……ちゅーするなよ」

「寝ないでって言ったじゃないですか」

「起きてるだろ」

「うとうとしてたくせに」


 すっぽりソルの腕の中に収まったまま、僕はソルのことを考える。僕達は、鎖で縛られている。ソルは絆だと言ってたけど、これはそんな優しいものじゃないよ。ソルが僕と共にいるのは復讐のためだ。僕がここにいるのも、他に家を借りたり買ったり探したりするより都合がいいからだ。お互いに、都合がいいから。ただそれだけ。


「ユキト?」

「……」


 ソルは天井を見上げ、僕は寝たふりをする。

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