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噂
会話文だけで物語を構成してみました。
「昨夜は世話になった。山道で迷った上に腹の急な差し込みで死ぬ思いだった。お前が助けてくれなかったら恐らく凍死していただろう」
「はい。お役に立てて嬉しゅうございます」
「名を聞かせてくれまいか?」
「小夜でございます」
「さよ……いい名だ。私は柳田進次郎だ。江戸へ届け物を済ませたなら、また、逢いたいと思うが、どうか?」
「はい。あなた様が、お望みなら」
「うむ……さよの看病で、すっかり回復した。そればかりか、一夜の献身の情けにも甘えた。これも何かの縁だ。私は、おまえを好きになってしまった」
「ええ。そう言っていただけて嬉しゅうございます。どうぞ、ご無事で」
「うむ。待っててくれ。……きっとだぞ」
◇◇◇◇◇◇
「お武家様。今の、お話ですが……もしや、その女は黄色の着物姿ではございませんでしたか?」
「そうだが?」
「ああ、やはり」
「なんだ? どういうことだ?」
「山には民家はありません。女狐が山中で人助けをしているという噂があるのです」
―了―
三題話
制限字数 500字
お題は【夜】【女】【黄色】でした。