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7th Sense  作者: freeman
第三章:Nosferatu Gluttonis
64/64

第六十話:それぞれの思惑

それは3時間ほど前の出来事だった。

「姉御たちは一体何を隠してんだ・・・」

狂闇ディメント大罪抑制用浄化抗体―――イノセンスによって事態は一見落着したが、未だ第一訓練棟の屋上でアラン・D・フォースターが思考を巡らせて呟いたその時―――

ジッ、ジジジ・・・

『あら、私がどうしたですって?』

「―――ッ!?その声・・・まさか姉御!?」

『フフフッ、どうしてそんなに驚いてるの?』

「・・・イーリス、お前勝手に繋いだな」

『申し訳ありません、ですがアリス様のご命令だったので』

「・・・てことは全部、筒抜けってワケか・・」

『そういうこと♪全て見させてもらったわ。随分と大胆なことをしてくれたようね』

「・・・今回はオレの独断でカリーナに命令した。責任を取るのはオレ一人で十分だろ?」

『ンフフフッ、優しいのね。けどその必要はないの。寧ろよくやってくれたわ、ありがとねアラン。日本支部には私の方から説明しておくからアナタが気にする必要はないわ』

「“説明”ねぇ・・・それはオレらにもする義務があるんじゃねーのか?」

『あら、どうしたの?そんな怖い口調で』

「いいから答えてくれよ」

『ひょっとしてマイルズ・ロッグの件のこと、まだ怒ってる?』

「・・・怒ってねぇと言えば嘘になる。あれほど胸糞悪い任務はなかったからな。アンタはあの時も何も教えてくれなかった―――オレが撃墜させた機内に女子供が乗ってたことすら」

『だってそんなこと言ったらアナタ―――撃たなかったでしょ?』

「当たり前だ!オレのこの手は女子供を殺すための道具じゃねぇんだよ!何があろうと殺す相手だけは見誤みあやまらねぇ―――それがオレの正義だ」

『気持ちは分かるわアラン。けど悲しいことにアナタの正義が通じない出来事は今この瞬間も、世界中で数え切れない程起こっているの。それらを纏めて一掃するためには多少の犠牲・・・・・は付き物―――それが本部ウチの考え方よ』

「ハッ!とても“天子様”のお言葉とは思えねぇな。そのくせ自分の手は汚さねぇって・・・アンタ、マジで怖えーよ」

『昔シキと約束したの。汚れ仕事は全部自分がするからお前はその光でみんなを照らせってあの子は私に言ってくれた。だから私はこうしてアナタたちに命令を下してる』

「要するに、アイツが裏のゴミ処理屋で、アンタは看板娘ってことだろ?」

『まぁ、そうなるわね』

第七感ちからと同じでまさに正反対な役回りだな。アンタらよくそれで関係が続くよな」

『私たちはね、表裏一体なの。正反対だからこそ互いに相手を求めずにはいられない。私たちほど相性のいいペアなんてきっといないでしょうね♪』

「相変わらず仲が良いのは結構だけどよ―――そのシキ君は現在、水着姿のレディたちに囲まれてるぜ?」

『ええ、同じ映像をリアルタイムで見てる・・・持ってる子機を圧し折る寸前で何とか堪えているわ』

ビキッ、ビキビキッ・・・

「・・・・」

直後、電話の向こう側から何かにひびが入ったような音が実際に聞こえてきたものだから、アランは思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

『フンッ、まぁ~どれも私の水着姿に比べれば大したことないわね。昔からこの私を堪能してるあの子からすれば、目じゃないわ』

「でた、“淫乱天使”」

『何ですって?』

「いえ、何でもありません。でも姉御よぉ、確かにアンタくらい抜群のプロポーションを持ち合わせたセクシー美女なんて滅多にいねぇのは認めるが、アイツも男だ―――何が起こるか分からねぇぞ?」

『どういう意味かしら?』

「なーに、男ってのは言い寄られたら即ベッドインしちまうよーな単細胞な生き物ってコトだよ。アンタが傍にいなけりゃ、アイツも“溜まったもん”を吐き出せねぇだろ?その内ピチピチの女子高生と子供でも作ったりしてな、ニッヒヒヒ!」

『あの子をアナタと一緒にしないで頂戴。アレは昔から私の男で、それはこれからも変わらないわ。それにもし、他の女と寝たりでもしたら――――相手の女を殺した後にあの子のcockを切り落してやるから』

「やっぱこの人、怖えぇ・・・んなことより姉御、シキの“あの姿”は一体・・・」

『私にもよく分からないわ。8年間あの子と一緒にいたけど、こんなこと初めてだから』

「でも粗方予想はついてるんだろ?」

『もう!どんだけ疑り深いの?ああ・・可愛い部下に信用されてないなんて・・・すんごくショック』

「言っとくが、その手には乗らねぇぞ」

『ハァ・・せっかく何か“ご褒美”をあげようと思ってたのに・・・』

「え!マジっすか!?乳揉ませてくれるとか!?」

『アラン様、態度を一変させるにも程があるかと』

『別に触りたいなら触ってもいいのよ?そのかわり、殺すけど』

「ハイッ!やめときます!」

『けどねアラン、本当に私も全てを把握しているわけじゃないの。でもアナタが命名したこの“Operation Exorcism”っていう作戦名・・・案外今回の出来事の核心を突いてる気がするわ』

「・・・まさか姉御、マジで悪霊がアイツに憑りついてたって言いてーのか?」

『そんなものよりもっとたちの悪い存在よ・・・あの“ばあさん”が目覚めたのなら、シキのあの姿も説明がつくわ・・』

「婆さんって誰だよ?悪霊よりおっかねぇ婆さんって一体何なんだよ?説明がつくってどーいうことなんだ?」

『それにしても、シキのあの姿・・・とってもステキ♥後でカリーナに写真送ってもらおうかしら♪』

「おい!無視すんなよ!こっちは結構マジで聞いてんだよ!」

『ンフフッ、分かってるって♪そんなに怒鳴らないで。全てあの子から直接聞いてもらって構わないから』

「・・・え?いいの?」

『ええ、でも余計にあの子の過去まで詮索するような真似はして頂戴。あの子はアナタの想像もつかないような地獄・・を何度も見てるの。あまりつらい経験を思い出させたくないから―――お願い』

「・・・分かったよ、分かりました」

『ありがとねアラン。まぁアナタは見かけによらず賢い子だから、呑み込むのにそう時間は掛からないと思うわ』

「おい、今サラッとひでーコト言ったな!」

『え?イーリス、私なにか変なこと言ったかしら?』

『極めて一般的なことを仰ったかと』

「2人揃ってなにボケてんの?アンタら絶対グルだろ!?どんだけオレをののしりゃ気が済むんですか!?」

『じゃあそういうことだから♪今日はお疲れ様、くれぐれも日本そっちで問題を起こさないようにね』

「あ、ちょっ―――」

『3人仲良くサミットの護衛任務、頑張ってね♪バァイ♪』

ジジジ・・・

「・・・切れちまった」

『そうですね、切れちまいましたね』

「・・・うっせぇ!」




「―――ったく、姉御はいっつも一方的すぎんだよ。とんだ女王様だ」

「は?お姉様がなんて?」

アリスとの会話を思い起こしアランがそんなことをボヤいていると、隣で食事をしているカリーナが反応してきた。

「んあ?おめーには関係ねぇよ」

「あっそ、てっきりお姉様をオカズにエロい妄想でもしてるかと思った」

「どんだけオレは欲求不満なんだよっ!」

柄にもなく人前で物思いに耽るものではないな、そう思いながらふと事件の張本人である少女の方に視線を向けると―――

ガッ、モグモグモグ―――ッ

「・・・相変わらずよく食うよなぁ、あいつ」

モグモグモグ―――ッ

もはや機械的といってもいいだろう。周囲を圧倒するような物凄いスピードで皿に乗っている料理を平らげている美少女バージョンの雅式の姿がそこにはあった。

人の気も知らず、一人いけしゃあしゃあとバカ食いしている光景に思わずイラッときてしまうが、如何せん今の式はアランから見ても顔良し、スタイル良しの完璧な美少女なのだ。この美少女があの式と分かってはいるが―――

「クッソオオオオ!なんでオメェなんだよおおおお!オメェじゃなきゃ!オメェじゃなきゃ俺は喜んでバット振ってるってのによおおお!」

―――スカッ

その直球的なまでの美しい容姿はアランのドストライクをついているが、打席に立っている彼にはバットを振ることができず、見逃し三振で即アウトという残酷な現実。

そして、そんな式の周囲では―――

ギャーギャーギャー

酔いが回っているせいなのか、数人の女性たちが何やら互いに罵声を浴びながら騒ぎ立てている。

「おーおー、何しゃべってるか分からねーが、日本こっちのレディたちも本部ウチの女どもに劣らぬ猛者ばかりじゃねーか。ニッヒヒ!」

「いや、ウチなんて酒が入ったら女同士で殴り合い始めるくらいだからまだマシっしょ。つかアンタ、今アタシのフライドチキン取ったでしょ?殺すぞ」

「バーカ、これは“唐揚げ”っていうんだよ!つかチョップスティック超使いづれーな。おい、フォークあるか店員に聞いてこい」

「はぁ!?なーんでアタシが!?ふざけんな!」

「あーあ、つかマジで少しは日本語勉強しとけばよかった。そしたら今頃女の1人や2人はモノにできてたのによぉ~。イマイチ会話に入れねーんだけど」

「でもサオスの職員って基本みんな英語くらいはペラペラでしょ?ユリも普通に話してたじゃん。アタシとしてはアレよ、ミキと会話できないから超辛いんだけど。いやホント、マジで辛いわ」

「おめぇホントミキちゃんにご執心だな」

「だってあんな可愛い子、滅多にいないから!アヤは言葉が通じるからまだチャンスは十分!そう、問題はミキをどうやって口説くか!いやでも愛の前では言葉の壁なんて無意味だからね!あの2人はアタシがたっぷり可愛がってあげるんだから・・・グヘへへ♥」

「おい、ヨダレ垂れてるぞメスゴリラ、きったね」

「だ・れ・がメスゴリラじゃゴルアアアア!」

「ぬおっ!?」

ガタンッ

直後、箸の先で目を潰そうと襲い掛かってきたカリーナ。アランは寸前のところでその手首を掴んだが―――

グ、グググ・・・

「ちょ、おめぇ正気ィ!?今本気で目ぇ潰そうとしたよね!?」

「だったら文句あんのかぁ?テメェが失脚したらアタシは第十一位になれんだよおおお!」

「ちょっ、タンマ、マジでタンマ!てかおめぇコレ女の力じゃねーだろ!絶対前世マウンテンゴリラだったろ!」

「まだ言うかぁ~?今すぐその目ん玉ほじくり取ってやるから覚悟しろやあああ!」

グッ、グググ・・・

「ギャー!やめて!お願いやめてぇ~!仮にも“鷹の目”って呼ばれてるんだから!目ん玉なくなったら呼ばれなくなっちゃうから!」

「鷹の目だぁ?ただの腐った“下種の目”だろおおお!」

ゴトッ

アランを押し倒してマウントポジションをとったカリーナ、そして箸を握っている右手に全エネルギーを集中させる。

「え?ちょっ、お前マジでなんなの!?ひょっとして酔ってんの!?」

「酔ってねええええ!とにかくぶっ殺す!」

「NOOOO―――!Help!Plese heip me!メスゴリラに殺されるううう!」

「く・た・ば・れえええ―――!」

「ぬおおお―――!ヤバい!ちょ、チョップスティックがもうすぐそこまで―――Hey!誰か!Help me!」

とうとう箸の先端が眼球まで迫り命の危機を察知し、思わずアランが叫び声を発したその時だった。

「なにしてんの?」

「「ん?」」

2人が顔を上げると、そこには彼らを見下ろしてる綾の姿があった。

「・・・へぇ、2人って“そういう関係”だったの?でもこんな所でイチャつくのは関心しないな~」

「「・・・・」」

口元を手で隠しながら笑みをこぼしている彼女の言葉に、改めて自分たちの状況を確認してみると―――

「「んげっ!」」

端的に述べると、彼らは普通に密着していた。

畳に倒れているアランをカリーナが押し倒しているその構図は端から見ると人気のない場所でイチャついているカップルに見えなくもない。

「ギャア―――ッ!なに触ってんだよ!このチ〇カス!」

「はぁ!?ふざけんな!乗っかってきたのはオメーの方だろ!」

「い・い・か・ら離れろっ!」

ドガッ

「ぐはっ!」

直後、カリーナの右ストレートがアランの腹部に直撃した。

「あ~!キモチ悪ッ!もぉ~最悪!よりにもよってチ〇カスに触れるなんて!」

飛び退くように離れたカリーナの顔は真っ青になっていて、彼女は気分が悪そうにブルブルと体を震わせている。

「・・・痛っ、おい、誰がチ〇カスだコラッ!毎日ちゃんと洗っとるわ!」

「黙れっ!あ~、見てよアヤ~。鳥肌ハンパな~い」

「うわ、ホントだ。よっぽど嫌だったんだね」

「そうなのよ~、こんなヤツ生理的に受け付けないからさぁ~」

ポツポツと鳥肌が立っているその腕を見た綾の遠慮のない言葉にカリーナが大きく頷いた。

「・・・ったく、被害者はオレだっつーの!おめーなんかこっちからお断りだ!」

腹を抑えながら起き上ったアランは不快感丸出しでそう吐き捨てた。

「・・・ねぇ」

そんな彼ら2人を見据えると、綾は意を決したように口を開いた。

「ん?どしたんだアヤちゃん?」

「えっとね、その・・・」

どこか恥ずかしげに腕を後ろに回し体を小さく揺らしたまま、なかなか言い出せない様子。

「あっ♥ひょっとしてアタシと―――」

「オメーは黙ってろ!」

空気を読めと言わんばかりアランがカリーナを叱咤しったしたその時だった。

「・・・今日は・・本当にありがとうございました」

2人を真っ直ぐ見て彼女は言った。

「・・・え?ありがとって・・・」

「・・なんのこと?」

その予想外な言葉に2人は思わず疑問を浮かべる。

「お兄ちゃんを助けてくれてありがとう、本当に感謝してます」

恥ずかしそうに頬を赤らめているが、にこやかな笑みを浮かべて綾は2人に礼を述べた。

「・・・あっ、なんだそんなことか!?助けたなんて大袈裟だぜ、なぁカリーナ?」

「そ、そうそう。アタシたちはそんな大したことしてないからっ」

「その・・・これからもお兄ちゃんのこと、よろしくお願いします!」

彼女はそう言って小さく頭を下げた。

「も、もうアヤったら~、そんなにかしこまらなくていいから~。アイツのサポートはアタシらがキッチリやるから♪」

「そうだぜアヤちゃん、こう見えてオレら一応、仲間だからな。いやぁ~、にしてもよくできた妹さんだな。やっぱあの大食いバカみたいに上がだらしねぇと下の子がしっかりしてるもんだな~」

「アンタんトコとは正反対だね」

「おい、それはオレがだらしねぇって言いてーのか?」

「特に下半身がね」

「なぁ、一発殴っていい?お願いだから一発だけ殴らせて」

「どーぞどーぞ、そしたら自動的に婦女暴行罪で刑務所行きでもう二度とアンタのツラを拝まずに済むから♪」

「く、クッソ!このアマ・・・!」

堪えるようにアランが握り拳を震わせていると―――

クスクスクス・・・

「2人とも、仲良いんだね」

そんな彼らのやり取りを見ていた綾が笑いを堪えながらそう言った。

「「・・・・」」

不意にアランとカリーナは目を合わせた。普段なら真っ先に否定する2人であるが、美少女の笑顔には勝てず―――

「「ま、まあな(ね)・・・」」

引き攣った笑みを浮かべながら声を揃えて言った。

「ありがとね、カリーナ、それと・・・」

直後、アランの方を見ながら綾は衝撃の一言を言い放った。

「それと・・・誰だっけ?」

「・・・え?じょ、ジョークだよな・・・?さっき君のお兄ちゃんが皆の前で紹介したじゃん?」

「ごめん、興味なかったから聞いてなかった」

「・・・・」

青年は絶句してしまった。

「あっ、あっひゃひゃひゃっ!ちょ、ちょっとアンタ、名前覚えられてなかったとか!超ウケるんだけど!あひゃひゃひゃっ!」

腹を抱えて大爆笑しているカリーナ。

「・・・ま、まぁあれだ、何ならオレのことも“お兄ちゃん”と呼んでいいんだぜ?」

「は?なに言ってんの?キモいんだけど」

「あひゃひゃひゃひゃっ!」

「・・・えー、ゴホンッ!では改めて、俺の名前はアラ―――」

「あー、コイツの名前なんて覚えなくていいから♪そんなことよりお姉さんとお話ししよー♥」

「えっ、ちょ、ちょっと・・・!」

「あっ、いたいた♪Hey,Miki!Come on~♪」

綾を半ば強引に隣に座らせると、上機嫌に美紀に声を掛けるカリーナ。

「あのさぁ・・・オレの扱い酷すぎじゃね?」

悲しみを紛らわせるようにジョッキに入ったビールを一気に飲み干すアラン。そして何の気なしに黙々とバカ食いを続けている少女に再び視線を向けた。

やはり今あの事を問いただすのは野暮というものだろう。ボーっとその姿を眺めながら彼はそう判断した。

「あんま妹に心配かけるんじゃねぇぞ、お兄ちゃんよぉ」

からかうような笑みを浮かべて彼は言った。




「ちょっと!どいてよ!」

「うるさいなぁ!私だってまだ全然話してないんだから!」

「てかあんた、彼氏いなかったっけ?」

「あー、もうあんなヤツどーでもいいから。稼ぎ少ないし、H下手だし、足臭いし。そんなことより、目の前に転がってるこのチャンスを逃すワケにはいかないでしょ!」

「てゆーかあんたたち、そんなに玉の輿に乗りたいワケ?ホンット醜いわね!あ~、同僚として恥ずかしい!」

「自分だってそうでしょ!あやかろうとする気満々じゃん!」

「そうそう!下心見え見えだっつーの!」

「なんですって!?あんたらと一緒にするな!」

ギャーギャーギャー

酔いが回っているせいなのか、それとも彼の収入に目がくらんでしまったのか、理性を失った女たちの式をめぐる抗争は未だに続いていた。

「・・・・」

やはり金の話なんてしなければ良かった。女同士の戦場と化した爆心地に座って一人黙々と食事をとっている式は心の中でそう洩らしながら思わずため息をついた。

「ねぇ、式くぅ~ん♥いいでしょ~?お姉さんがたっぷり可愛がってあげるからぁっ♥」

「ちょ、恵美さん・・・」

「ちょっと先輩!そんな淫らな色仕掛けで責めるとかナシですよ!」

後ろからダラリと寄り掛かってきた恵美を引き剥がそうと歩が躍起になっている。

「色仕掛けも立派な常套手段だもーん♪歩ぃ~、あんたそんなことだから子供っぽいって言われるんじゃない~?」

「尻軽女よりはよっぽどマシですよ!」

「ちょっ、それどーゆー意味ぃ!?あたしが尻軽女だって言いたいの!?」

「他にどう説明するんですか!この際だから言わせてもらいますけどね!お金で揺れ動くとかどうかと思いますよ!世の中お金が全てじゃありませんよ!」

「カーッ!これだからあんたはガキなのよ!世の中結局金なんだから!純情ぶって“愛!”とかほざいてる女に限ってロクなヤツはいないから。女が結婚に踏み切るか考える最大の判断材料も相手の収入だし!」

「でも別に式君と結婚したいとか思ってるワケじゃないじゃないですか!恋人ならまだしも“愛人”って・・・不潔にも程がありますよ!」

「愛にも色々種類があんのよ。それに金だけってワケじゃないから。今は女の子だけど式君って元々ルックスだって完璧じゃん?性格はちょっと生意気だけと逆にそこが可愛かったりするし、カラダもあたし好みのいい感じの筋肉質だし♪これといって悪い点がないのよね~、まぁ逆に言えば弱点がないところが弱点かな♪」

「いや、そんなにベタ褒めされたらなんか照れるんですけど」

「ほらねー?こうやって何でもバカ正直に言うところも可愛いし♪なんかこの子見てたらちょっかい出したくなるんだよねぇ~♪てゆーか肌超スベスベなんだけど!ヤバい、あたしマジで式君のコト好きになっちゃうかも~♥もう女の子のままでいいから家に持って帰りたいっ!」

「ちょっ、何やってんですか?」

「まーまー、いーじゃ~ん♪」

後ろから腕を回して抱きしめてくると、上機嫌に頬を擦り合わせてくる恵美に式は困り果てていた。

「・・・そんな・・先輩、ひどいですよ・・・私のこと、応援してくれてたんじゃないんですか・・?」

式にベッタリな恵美を見て歩がシュンと表情を暗くしながらポツリと呟く。

「フッフフ、甘いな後輩!昨日の味方が今日の敵ってよく言うじゃん、女同士の友情なんて脆いんだから。世の中弱肉強食なんじゃー!」

「・・・ひどい、私・・ずっと前から本気だったのに・・・もう先輩なんて大っ嫌いです!」

そう叫んだ歩の目元からうっすらと涙が溜まると、頬を伝りはじめた。

「げっ!ちょ、ちょっと・・・歩?」

まさか泣き始めるとは―――この反応は恵美にとっても予想外すぎた。

「恵美さん、なに泣かせてるんすか」

「え?だ、だってぇ・・まさかこんなことで本気マジになっちゃうとは思わなかったから・・・あは、あはははは」

「笑ってる場合ですか、まったく・・・歩さん、これ使ってください」

ヘラヘラしている恵美に呆れながらもポケットからハンカチを取り出して歩に手渡す。

「・・・ありがと式君。ごめんね・・・なんかすごく恥ずかしくなってきちゃった」

ハンカチを受け取ると顔を真っ赤にしながら彼女は涙を拭う。

「も~歩ったらぁ、何も泣くことないでしょ?冗談だってジョーダン、こんなの酒の入った席でのノリに決まってんじゃーん♪ねぇ式君?」

「え?俺に振られても・・・まぁ恵美さんもこう言ってることですし、皆さん少し酔いが回ってハイになってるだけですよ」

「そーそー、そゆこと♪」

「じゃあ取りあえず、恵美さんは歩さんに謝ってください」

「え?なんでそーなるの?」

「女性を泣かせたんですよ?当然じゃないですか」

「・・・言っとくけどね式君、あたしも一応女の子なんだけど!」

「関係ありませんよ。泣かせたら謝って仲直りするって昔お母さんに習いませんでしたか?ほら、早く謝ってください」

「うぅ・・・あ、歩・・ごめん。ちょっと調子に乗り過ぎました」

「ぷっ、恵美ったら年下の子に諭されてる!」

「どっちが大人か分かんないね」

「フフフッ、言えてる」

「もぉ~!うっさいなぁ!あんたらは黙ってろ!」

「先輩・・・」

「恵美さんも反省してるようですし、歩さんももう泣かないでください。せっかくだから今日は笑顔で楽しんでください」

「式く~ん、ありがとぉ~」

「え、ちょっ、歩さん!?」

今度は歩が嬉しそうに抱き着いてきた。

「式君って優しいね~♪」

「別にそんなことは・・・」

「ちょっと歩、どさくさに紛れてなーにしてんの~?」

「ふぅーんだ、さっきのお返しですよ~♪」

そう言ってペロリと小さく舌を出しながら彼女は悪戯っぽく笑った。

「・・・まさか!あんたこれを狙って!?」

その時、恵美はようやく理解できた気がした。彼女が涙を流したのはこのためだったのではないかと―――

「え~?なんのことですか~?先輩が何言ってるか分かりませ~ん。ねぇ式君♪」

「てか歩さん、胸が思いっきり当たってるんですけど・・・」

「いいのいいの♪今は女の子同士なんだから♪うわぁ、ホントに肌スベスベ~♪」

きっと最初からこうすることで彼とのスキンシップを取ろうという魂胆だったのだろう。現に泣き止んだばかりというのに目元にはすでに涙の跡が1つもない。間違いない、自分は彼女の策略に見事ハメられたのだと恵美は確信した。

「・・・歩、なんて恐ろしい子・・」

我が後輩ながら大したものだ。頬から一筋の汗を流しながら恵美はそう痛感させられた。

また同時に、苦笑しながらも優しく歩に接している式を見て思わず―――

「てゆーか前から思ってたんだけどさぁ、式君って歩とか美紀ちゃんには優しいけど、あたしや結理の扱いは結構雑だよねぇ~。まぁ結理はともかくぅ~、なんかあたしまで女の子扱いされてないような気がすんだけどぉ~、これって一種の差別だよね~。ちょっと傷ついちゃうなぁ~」

「ちょっと恵美ぃ、私はともかくってどーいう意味かしら?」

机に肘をついてプイッとふて腐れた表情を浮かべながら長々と文句を垂れる恵美の言葉に、思わず結理が反応する。

「だってさぁ~、結理はいっつも暴力振るってるから嫌われても仕方ないじゃん?でも私はなーんも悪いことしてないもーん。なのになーんで結理と同じ扱いなワケ~?」

「言っとくけどね、暴力じゃないから。あれは“愛のムチ”だから。てゆーか私嫌われてたのっ!?」

驚愕した結理の鋭い視線が式に突き刺さる。

「・・・え?いや別に・・・嫌いじゃないですよ?」

「・・・なにそのハッキリとしない返答・・・でも確かに式君って私には結構平気で酷いコト言うわよねぇ~。歳のコトとか、歳のコトとか、歳のコトとかぁっ!」

「なんなの?歩や美紀ちゃんみたいな“いかにも女子!”って感じの子がタイプなの?」

「なに言ってるんですか、結理さんも恵美さんも普通に美人で魅力的じゃないですか。恋人がいないのが不思議なくらいですよ」

そこで結理はバイオレンスで恵美は言動に問題があるという本音は敢えて伏せる。

「上手いこと言って誤魔化そうったってそうはいかないわよ」

「そうそう、あたしらそんなバカな女じゃないから」

「うわ、この人たちホントめんどくさ・・・」

「「今なんつったぁ!?」」

「え、いやその・・・あっ、そうだ」

思ったことをつい口走ってしまった。目くじらを立てて迫ってきた2人をどうあしらえば良いものかと頭を悩ましていると、ふと“あるもの”の存在を思い出した。

「あの恵美さん、これどうぞ」

机の下から正方形の小さなラッピング包みを取り出して恵美に手渡した。

「ん?なにこれ?」

「この間結理さん家で鼻血拭くのにハンカチもらったじゃないですか。そのお返しです」

「え!?そんないいのに!なんか逆に気ぃ使わせちゃってゴメンねぇ~」

「さっき駅前の専門店で急いで買ったものなんで、気に入ってもらえるか分かりませんが・・・」

「そういえばなんか一人で婦人ブランドの店の中うろついてたわね。てっきり自分の着る服でも買ってるのかと思ってたけどそういうことだったんだ」

「レディースものなんか死んでも着ませんよ。それをしてしまったら大事な一線を越えてしまう気がするんで」

「せっかくこんなに美人なのに勿体ないわぁ」

「ノーメイクでこれですからね。羨ましいなぁ」

どこかからかい口調の結理とそれに賛同するように歩が式の顔をまじまじと見つめる。

「それにその服じゃ、胸元がキツいでしょ?見ただけで分かるもの、シャツがパッツンパッツンになってるわよ。さっきボタンが吹っ飛んでたし」

「ええ、正直かなり苦しいですけど、これだけは何があっても譲れません」

「うわっ!」

すると、ラッピング包みを開けた恵美が驚愕した声を上げた。

「ちょっと式君・・・これ、ヴィトンじゃん!」

「はい、そうですけど・・・一番近くにあったんでそこで買いました」

「絶対高かったでしょ!?ヴィトンのハンカチって普通1万くらいするじゃん!」

「よく分かりませんけど、気に入りませんでしたか?一応俺なりに考えて選んだつもりだったんですけど・・・なんかすみません」

「いやいや謝らないで!むしろ超嬉しいから!ありがとー♪もうお姉さん、式君大好きっ♥」

先程まで不服そうだった恵美の機嫌が一気に良くなった。

「まぁ、喜んでもらえたなら良かったです」

「こーゆー忠実まめなことができる男はモテるよぉ~♪」

「そ、そうですかね・・・」

苦笑いを浮かべる式であったが、実際はただ借りを返さないままでいるのが我慢できない性質たちなだけであった。こうして彼女たちに食事をご馳走しているのも本音のところではそういった部分が大きいのかもしれない。金で済む問題ならいくらでも出す。だがいくら大金を積んでも“取り戻せないもの”がある。その恐ろしさと悲しみを彼は8年前に嫌というほど味わっていた。

だからもう二度と大切なものを失いたくない。妹だけは、綾だけは何があっても守ると彼は“あの日”、心に誓った。

「・・・あれ?そういえば綾のやつ、どこ行ったんだ?」

先程まで傍にいた綾の姿が見えないので、周囲を見渡してみると―――

「ちょっとぉ!やめてよ!てゆーか、なに脚触ってんの!」

「いーじゃーん♪お姉さんの相手してよ~♥ミキももっと近くにおいで~♥」

「え?ちょ、ちょっとカリーナさん・・・!」

哀れなことに、美紀と共にすでに出来上がってるカリーナに捕まっていた。

「いやぁ~♪こんな可愛い子たちに囲まれてアタシ幸せ!これが“両手に花”ってやつぅ?アッハハハ!」

無理やり2人を抱き寄せながらケラケラと笑っているカリーナ、その姿はまるでお気に入りのキャバ嬢にご執心のオッサンのようだ。

「・・・ご愁傷様」

あの様子では助け出すのは不可能に近い。被害に遭っている2人の少女にどことなく同情の気持ちが湧き上がり静かにそう呟いた時だった。

「・・・ん?」

視界に意外な人物の姿が目に入った。

「あれは・・・」

周囲が談笑に花を咲かせている中、一人行儀よく静かに食事をとっている黒髪ショートの女性。

すると不意に彼女と視線が合った。

「・・・・」

スタッ

直後、意を決したように式はその場から立ちあがった。

「式君、どうしたの?」

「あっ、ひょっとして、お手洗い?一緒に女子トイレ行ってあげよっか?」

「ちょっと恵美、なに言ってんの」

「だって今の姿で男子トイレはマズいでしょ、アハハッ」

そんな彼女たちを余所に式はその場から離れて、女性の元へと歩みを進めていく。

そして彼女の隣で足を止めると―――

「なにか御用ですか?序列第三位」

相手はそっと箸を置いて見向きもせずに口を開いた。

「よかったらしゃくでもと思ったんですが、いかがでしょうか?」

そばにあるビール瓶を手に取ると、不敵な笑みを浮かべながら彼女―――三門羽月みかど はづきを見下ろして少女は言った。





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[一言] 本当に面白かったです! 流石にもう更新はないのかな? ブクマつけて置いておきますね!
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