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7th Sense  作者: freeman
第三章:Nosferatu Gluttonis
58/64

第五十五話:世界の広さ

―――サオス日本支部―――

周囲を巨大な正七角形の塀で囲まれ、およそ4、2㎢の敷地面積を誇るここは大まかに分けて4つのエリアに分かれている。

1つはこの日本支部の象徴ともいえる正七角柱の建物―――日本支部がそびえ立っている東区画。

次に研究施設や開発施設が密集した北区画。

職員のリフレッシュのために設けられた緑豊かな芝生のガーデンや医療棟のある西区画。

そして、訓練施設が密集した南区画。

その南区画の中を一組の男女が気怠そうな様子で歩いていた。

「―――チッ、IDの提示に手荷物検査やあれこれ・・・効率悪すぎんだよ。普通この制服見りゃオレらが何者か分かるだろ。おかげで入場を許可されるまでかーなーり待たされたっつーの!」

ボトムのポケットに手を突っ込み、英語で悪態をついたのは身長180以上はある金髪の白人青年だ。

「・・・あのさぁ、1つ言っときたいんだけど入場審査にあんだけ時間が掛かったのアンタのせいだから」

そんな彼の隣を歩きながら嫌味たらしく声を発したのはブラウンのショートヘアが良く似合う褐色肌の女性だ。その視線は青年が背負っている1メートルほどの縦長の黒いケースに向けられている。

「仕方ねぇだろ、コイツはオレの商売道具なんだからよ」

「まぁアンタの場合、見た目もアレだからねぇ」

「―――おい、“アレ”ってどーゆう意味だよアレって!」

「なに?言わないと分かんないの?“危ない変態臭がプンプンする性犯罪者”だって」

「・・・テメェ、一体どんな目でオレのこと見てんだ」

「聞きたい?」

「・・・―――Shit!あー、にしてもマジでクソ暑い・・・フィラデルフィアの比じゃねぇだろこの暑さ、もう9月だってにの湿気がハンパねぇぞこの国。ムンムンしやがる・・・」

「隣で“ムンムン”とかキモい表現やめてくんない?アンタが言ったら性俗語セックス・スラングにしか聞こえないから」

「うっせぇな!・・・ったく、せっかく日本に来たってのによぉ、何でよりによってオメェとなんだよ」

「そりゃアタシのセリフ。アンタが同伴者とか―――マジで地獄だわ」

「て、テメェ・・・さっきから聞いてりゃあ・・・オレが上官だってこと忘れてるだろっ!」

「はぁ?誰がアンタみたいなチ〇カス野郎を上司と思うかっての。アタシに命令できるのは“お姉様”オンリーだっつーの。今回の任務もお姉様たっての希望だったから嫌々ながら・・・・・アンタと一緒にいるんだから」

「あぁーっ!クッソ!マジでこの女腹立つ!この暑さとお前のせいでイライラが止まんねぇ!」

「“ムンムン”の次は“イライラ”とか・・・この変態短気男、マジないわぁ~死んでくれませんか?」

「・・・・」

すると青年は胸ポケットから取り出した煙草を口に咥え、ジッポライターをカチンと鳴らせて火をつけ始めた。

「ちょっと!こんなとこで煙草吸わないでよ!ココどう考えたって禁煙エリアでしょ!」

「うるせぇ!煙草の一本も吸いたくなるわ!」

彼女の抗議の声を尻目に青年は口から煙を吐く。

「・・・喫煙マナー守れない男とか、ホンット最低!さっさと肺ガンで死ね!」

「ヘイヘイ、勝手に言ってろ。つか屋内プール訓練施設だったか?まだ着かねーのかよ」

「文句の多い男ね。ほら、あそこのガラス張りの建物じゃない?」

「あ~、アレか。にしてもよぉ、こっちがわざわざ出向いてやってるってのに女と呑気に水遊びとか・・・あん野郎、羨まし―――じゃなくて、許せねぇ」

「はいはい。まぁアイツのことだからアンタみたいにホイホイと女の尻を追っかけてることはないっしょ」

「ちくしょうっ!こうなったら日本支部の美女達の水着姿をこの目に焼き付けてやらぁ!」

「どうでもいいけどさー、ウチの恥晒しになるようなことはマジでやめてよね」

「・・・・」

「なによ、急に黙り込んじゃって」

煙草を口に咥えたままピタリと足を止めた青年。その視線はプール施設と繋がっているガラス張りの渡り廊下へ向けられていた。

「・・・おい」

「ん?なによ?」

直後、彼は溌剌はつらつと叫んだ。

「水着姿のカワイ子ちゃん、見ーっけ♪」

「―――ちょっ、待ちなさいよ!」

背負っている大質量のケースを上下に揺らしながら駆けだした彼の後を彼女は慌てて追っていった。



「うぅ・・・ど、どうしよう・・・」

不安げな表情を浮かべて工藤美紀は一人で渡り廊下をうろついていた。

「式くんは急にどこかに行っちゃうし、さっきまで何だか怖いアナウンスも鳴ってたし・・ここどこなんだろう・・・?」

端的に述べると、彼女は迷子状態に陥っていた。だが本来は行きに通った通路を忘れてしまうほどの方向音痴ではない。

「メガネがないからよく見えないよぉ~」

そう、現在眼鏡をかけていない彼女の視界は酷く霞んでおり、数メートル先もまともに見ることができない有様なのだ。

「・・・取りあえず、プールに戻らないと!」

自身を励ますようにそう意気込んだがその進行方向は屋内プールのある方と真逆という、何とも可愛らしいドジっ子。

「―――Hello,lovely girl♪」

「―――ッ!?」

直後、いきなり背後から弾んだ声が聞こえてきた。

驚いて振り返ると、そこには煙草を口に咥えた長身の白人男性が立っていた。真後ろにいたにも関わらず、美紀は全く気がつかなかった―――さらに言うと気配を感じることすらできなかった。

「Oh・・・you're so cute!」

「・・・え?えぇ!?」

本場の英語で突然情熱的に何か言われ、戸惑いを隠しきれずにあたふたしてしまう。

「Oh,sorry.My name is Alan.What's your name?」

「え、えっと・・・み、美紀」

「Miki?Good name!Nice to meet you Miki♪」

優しい笑みを浮かべながらアランと名乗った青年は手を差し出してきた。

「な、ナイストゥミトゥー、トゥ・・・」

決して流暢とは言えないが、それなりの返事をして握手を交わす。握り返してきたその大きな手はとても硬い。

知らない外人にいきなり話しかけられ恥ずかしさのせいか、俯き気味だった顔を上げ、見上げるようにその顔を見ると、肩にかからないくらいの金髪に見たところ20代前半ほどのハンサムな顔をした青年だ。その背中には何やら大きな黒いケースを背負っている。

だが美紀の意識は彼の服装に注がれていた。

襟元には赤いラインが入っており、左胸には黒いサオスの紋章エンブレムが刺繍されている白いカッターシャツ。暑いのかボタンは上から2つまで外され、厚い胸板を覗かせている。そして黒に赤いラインの入ったボトム。彼女が恋焦がれる少年も占拠テロの時、この制服を身に纏っていた。

「・・・アメリカ本部の・・」

四機関しか存在しないサオスの中でも圧倒的な戦力を持つと言われている、世界最強・・・・の第七感特化戦闘機関―――サオスアメリカ本部の制服ユニフォームを彼は身に纏っている。

「Oh yeah♪I came from United States」

上機嫌な様子で青年は言う。

(・・・こ、こいつは・・・)

そんな彼は内心、今にも踊りだすほどの興奮を覚えていた。

(こいつは!日本で“絶滅危惧種”に指定されているあの!―――あのスクール水着じゃねぇか!)

そう、目の前にスクール水着を身に纏った日本の美少女の姿に眼福の極みに達していた。さらに上目づかいでどこか不安げに自分を見上げてくるつぶらな瞳に思わず―――

(くぅ~!日本の女の子ってなんつーかこう、思わず守ってやりたくなるような可愛らしさがあるぜ!しかもよぉ、なんつったってよぉ!)

少女の胸元を見下ろすと―――

ボインッ

(“姉御”並みの巨乳ちゃんじゃねーか!やぶぁい!揉みてぇー!)

「―――ッ!」

―――バッ

そんな下心丸出しの彼の視線に危険を感じたのか、美紀は恥ずかしそうに胸元を手で覆い隠し、怖がった様子で数歩後ずさる。

(・・・ありゃ?ひょっとしてオレ・・・嫌われた?)

―――ガッ

絶望した表情を浮かべてその場に両膝をつくと、青年は大声で叫んだ。

「―――Noooo―――!」

「―――ッ!?」

(・・・え?な、なにこの人!?)

そんな彼の突然の奇行に理解不能の美紀。

(・・・いや、待て待て。落ち着けアラン)

若干落ち着きを取り戻したのか、彼は一度頭の中を整理する。

(初めて会った女の子がこんなカワイ子ちゃんだったんだ・・・ならば!そうさ!きっと他にもカワイ子ちゃんはいるに決まってる!)

「―――Ha,hahaha・・・」

どこか不気味な笑い声を発しながら立ち上がると、今度は両手を真上に掲げ天井を見上げながら―――

「ニッポン、バンザイ!ワタシ、ニッポン二キテ、ヨカッタデス!」

アホ丸出しの下手くそな日本語でポジティブな青年は歓喜を叫んだ。

「・・・・」

(・・・式くんの言ってた通り、アメリカ本部ってホントに変わった人がいるんだ・・・)

感情表現豊かな変人の奇行に、もはやリアクションもくそもない。美紀は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

「なーに言った傍から性犯罪犯してんだよ―――このチ〇カス野郎!」

―――ドゴッ

「―――がはぁっ!」

すると突如、乱暴な英語を発しながら一人の女性が一瞬で2人の前に姿に現れ、次の瞬間には青年は数メートル後方に飛ばされいた。

女性は体を高速回転させながらスタッと軽やかに着地した。片足を上げていることから察するにどうやら蹴りを見舞いしたようだ。

だがそのモーションは全く目で視認するすることができないほど速く、美紀は目の前で一体何が起こったのかわけが分からなかった。

そして突如現れた女性もまた青年と同じカッターを下に着て、左胸に光るシルバーのサオスエンブレムがついている黒に赤いラインの入ったアメリカ本部の制服ユニフォームをへその辺りまでファスナーを下げて着崩している。下は黒に赤いラインの入った太ももまでの丈の短いスカートにふくらはぎの辺りまである黒のブーツを穿いている。

(・・・キレイな人・・・モデルさんみたい)

ブラウンのショートヘアに褐色肌の長身な女性―――どこか勝気でボーイッシュなその横顔に男性のものとは違う“格好良さ”を美紀は感じた。

「―――あん?」

背を向けていたそんな彼女が眉間に皺をよせた険しい表情のまま振り返ってきて、美紀は思わず体をビクリを震わせる。

だが美紀の姿を視界に入れた途端―――

「うっひょー♥なにこの子!超カワイイんだけど!何て言ったらいいんだろ・・・そう!思わず守ってあげたくなるような可愛らしさ!」

表情を豹変させると興奮した様子でベラベラと英語でマシンガントークを始めた。

「アンタ可愛いねぇ♥お名前はなんていうの?」

「・・・え、えっとあの・・・」

表情を一変させてにこやか笑みを浮かべて尋ねてくるが、動揺の極みに達している美紀は聞き取ることかできず、あたふたしている。

「キャー♥その仕草も超キュートなんだけど!もぉー食べちゃいたい♥」

ダンダンダン―――ッ

美紀のあわあわとした仕草に酔いしれた様子でその場で激しく地団駄を踏む女性。

「―――痛ってぇな・・・おいテメェ!いきなり何しやがる!」

すると腹を押さえながら起き上がった青年が彼女に向かって怒号を飛ばす。

「はぁ?刑務所行きを未然に防いでやったってのにその言い方はないでしょ―――この性犯罪者」

まるでゴミでも見るような冷めた目つきで吐き捨てる女性。

「・・・もぉ我慢の限界だ―――おい、起動しやがれ。今ここでぶっ殺してやるからよ」

青年は背負っていた荷物をドカッと下ろしてケースについてるスイッチに手をかける。その目つきは豹変して鋭いものに変わり、“本気の殺意”が滲み出ている。

「ハンッ!白兵戦でこのアタシ・・・・・に挑む気?アンタひょっとして、自殺志願者?」

そんな青年に対して、女性も勝気な様子で腰に手を当てながら対峙する。

その場の空気が変わったのを美紀は感じ取り、まるでこれからここで戦争・・が始まるようなざわつきを覚えた。

「・・・・」

ギュッ・・・

「―――ん?」

気がつけば美紀は控え目に女性の腕の裾を引っ張っていた。

「け、ケンカは・・・だ、ダメ・・だよ・・!」

絞り出したような日本語だが女性の目を見つめて彼女は懸命に訴えた。

すると―――

「Ah・・・怖い思いさせちゃってゴメンねぇ~、お姉さん反省チュ~♥」

「―――ひゃあっ///」

ギュウッと抱き着いてハグしてきたしたかと思うと、いきなり頬にキスをされた。

「Ahahaha!“ひゃあっ”だって♪その反応もたまんな~い♥」

頬を赤く染めている美紀の反応を楽しんでいる様子。

「―――それに、ナイスバディじゃん♥ヤッバ、濡れてきた・・・」

そう言って舌なめずりすると―――

―――スッ

「―――ッ!」

その手が美紀の胸に触れようとしたその時―――

「オイコラ!性犯罪者はテメーだろうが!ミキちゃん怖がってんぞ!」

「へぇ~、ミキ・・・キュートで素敵な名前♥」

「無視してんじゃねぇよ、この変態女!」

「あー、ウッザ・・・女同士は問題ないから。ねぇーミキィ♪」

慈愛の籠った表情できつく抱きしめながら頬をスリスリとすり合わせてくるが―――

(え、えぇ~?なんなのこの人たち~)

当の本人は英語で一体何を言っているのか聞き取ることもできず、無抵抗に困り果てた表情を浮かべている。

「―――Oh,sorry.そーいや自己紹介がまだだったね。Ah・・・Can you speak English?」

「・・・N,No・・」

「ん~そっかぁ・・・My name is Carina」

恥ずかしげに俯く美紀に女性は聞き取りやすいよう、ゆっくりと言葉を発してくれた。

「か、カリーナ?」

「Yes♪Nice to meet you Miki」

「―――な、Nace to meet you too」

二度目は上手く言えた美紀であった。

「good!なんだぁ、上手じゃーん♪ハァイ―――イイ子イイ子♪」

「・・・///」

顔に胸を押し当てられて優しく頭をなでなでされ、思わず頬が赤くなってしまう。

「Miki,How old are you?」

「え、えっと・・・sixteen years old」

「へぇ~、16歳ねぇ~♪アタシは nineteenだよ♪」

「あっ、ちなみにオレはtwenty」

「いや、誰もアンタのことなんて聞いてないから。てか消えてくれませんか?」

「んだとこのクソアマ!」

ギャー、ギャー、ギャー・・・

「・・・・」

なぜか再び口論が始まった。

(19歳と二十歳なんだ・・・もうちょっと上かと思ってた・・)

アメリカやヨーロッパ系の若者は日本人に比べて童顔が抜けるのが早く、体格の成長も早い。2人とも見た目は実年齢より大人びて見える。

(式くんもなんだか大人っぽいし・・・やっぱり大人の女の人とかが好みなのかな・・・?)

「Your ✕✕✕ is rotten vienna sausage!(アンタのチ〇ポなんて腐ったソーセジだっつーの!)」

「Shut up!Your ✕✕✕ is stink pot!(黙れ!テメェのアッコは悪臭の壺だ!)」

「「Go to hell!((地獄に落ちろ!))」」

「・・・・」

だが内容こそ分からないが、この口論を聞く限りこの2人の精神年齢はそれほど高くはないようだ。

「―――あー、クソッ!つかこんなことしてる場合じゃねーんだよ」

「それ!さっさと“シキ”のヤツを見つけないと―――」

「―――ッ!?」

(え?今、“シキ”って・・・)

「そろそろ抗体の効果・・・・・が切れるってお姉様が言ってたし、もし万が一のことがあったら―――」

「―――ああ、かーなーり面倒なことになっちまうぞ。最悪の場合、殺すのが一番手っ取り早いが、もしアイツを殺しちまったら・・・」

「・・・アタシらがお姉様に殺される」

「いや、それだけじゃ済まねぇよ・・・姉御のことだ、怒り狂って東海岸を消し飛ばすかもしれねぇ・・・」

「フィラデルフィアはもちろん、NYやD.Cも消失・・・」

・・・ゴクリ

「「それはヤバイ・・・マジでヤバすぎる」」

ガタガタと体を震わせている2人の声が見事にハモった。

「あ、あの・・・」

「「?」」

「い、今“シキ”って・・・式くんの・・・こと?」

「え?ミキ、シキのこと知ってんの?」

「教えてくれミキちゃん!あの“クッソ女たらし”は今どこにいる!?」

「いや、女たらしはアンタでしょ。アンタに比べれはシキなんて紳士な方よ」

「うっせぇ!お前知らねぇだろ!昔アイツ、オレが狙ってた子をお持ち帰りしやがったんだぞ!」

突如、両目から涙を溢れさせて青年は泣き叫び始めた。

「・・・はぁ?シキが?そりゃないっしょ。だってアイツはお姉様の男なんだから」

「―――そう、あれは忘れもしない寒さが厳しい3年前の冬だった―――その当時アイツを弟のように可愛がっていたオレはアイツに夜遊びというものを教えてやろうとナイトクラブに連れて行ってやったんだ―――」

「あっ、このアホの存在は消していいから♪Ah・・・Where is Shiki?」

「―――その当時、オレはキャサリンという1つ年下のキュートで“ボンッ、キュッ、ボンッ”な一人の女の子に夢中だったんだ・・・だがあの日、酒を口にして息巻いてキャサリンにシキの野郎を紹介してしまったのが失敗だった―――」

「え、えっと・・・Maybe・・・he is in indoors pool」

「―――オレがいくらアプローチをかけてもキャサリンの視線はみんなが踊り狂ってた中、一人チビチビとオレンジジュースを飲んでいるシキに釘づけだった・・・そして一時間も経たない内にアホみてぇに眠りだしたシキにキャサリンは!なんとあの魅惑的な太ももで膝枕を!」

「屋内プールね、ありがとねミキ♪」

「たしか深夜一時を過ぎたあたりだったかな・・・突然ムクリと起きたあの野郎は『ここうるせぇから眠れねぇし、俺帰るわ』とほざきやがった。オレは『あー、はいはい。お子様はもう寝る時間だもんなぁー。とっとと帰れや』と言ってやったのさ・・・だが内心では『これでキャサリンを独占できるぜ!』とウハウハ状態だった―――」

「ねぇミキ、また会うことがあったらお姉さん―――ベッドの中でたくさん気持ちいいコトしてあげるから♥」

「・・・え?」

「アハハ♪何でもないよー♥」

「―――すると突然キャサリンが『この子を外まで送ってくる』って言ったんだ。それを問題視していなかったオレはキャサリンが戻ってくるのをクールかつワイルドに待つことにした・・・でもよぉ!いつまで待ってもキャサリンは帰って来なかったんだよぉ~、きっとあの2人は夜の街に消えていったに違いねぇ!」

「あーはいはい、分かったから。さっさと行くよ」

「Oh!分かってくれるかカリーナよ!お前とは今まで色々といざこざがあったがよぉ、オレはたった今!お前という部下を持てて初めて誇りに思ったぞ!」

「キモいこと言ってんじゃねぇよ、このチ〇カス野郎。アンタじゃどう頑張ったってシキに敵うワケないじゃん。んなことも分かんないの?」

「んーそうそう、オレみたいなチ〇カス野郎じゃどう足掻いたってシキには―――ってぇ!なんだとこの腐れアマ!」

「だってそうでしょ?シキはアンタと違ってクールでハンサムだし、金もあるし、ああ見えて結構可愛いところだってあるし―――なんつたってウチらの“悪の象徴”じゃん。そこに痺れて抱かれてみたいって思う女なんていくらでもいるっしょ」

「カリーナ・・・テメェ寝返るつもりか!?ハッ!ひょっとしてテメェもアイツとヤッたのか!?」

「はぁ?アタシは可愛い女の子にしか興味ないっつーの。てかアンタさぁ、クラブに連れていったことお姉様にバレたら―――即打ち首だよ」

「・・・ひ、ヒギャーッ!し、しまったぁー!」

「アハッ、これで1つ弱みを握ることができた♪」

「・・・テメェ、姉御には黙っとけよ」

「口の効き方がなってないんじゃないの?チ〇カス野郎」

「・・・黙っておいてくれ、カリーナ。なぁ?頼む!」

「そこは『黙っておいてください、カリーナ様』だろボケ。さっさと復唱しろや!」

「・・・だ、黙っておいて・・ください・・・か、かかかカリーナ・・様・・・こ、これでいいだろ」

「―――よし、帰ったらお姉様にチクろーっと♪」

「オイゴラアァッ!オメェは鬼か!テメェマジで犯すぞこのクソ女!」

「ミキィ、お姉さんたちやらなきゃいけないことがあるから、悲しいけど私たちここでお別れしないと~、また会おうね♪今度はベッドの中で―――グヘへへ♥じゃあね―――Bye♥」

「え?う、うん・・・バイバイ」

ウィンクしながら熱烈な投げキッスをすると彼女は軽やかに駆け出していく。

「オイ待てやクソ女!ミキちゃん―――実は今、お兄さんの肩に合衆国の命運がかかっているんだ。君がいくら引き留めてもオレは行かなければいけない!大丈夫、心配はいらないさ。オレは生きて帰ってきていつか君を―――」

「おいこら、なにキモいこと言ってんだチ〇カス野郎。さっさと来い」

「う、うっせぇ!今いいトコなんだよ!ではさらばだ―――麗しの美少女よ」

「オエェー!マジでキショ・・・イカ臭さを通り越した臭いセリフに吐き気がしてきた・・・アンタ、英語が通じなくてホント良かったね」

「テメェの性犯罪に引っかかるセリフの一億倍はイカしてんぞ!このレズビアン!」

「あ?なんだってぇ?さっきのこと、お姉様にチクッてほしいって?」

「な、なんでもありません!カリーナ様!」

「だったらさっさと来い、この腐れチ〇カス野郎!」

「じゃあね、ミキちゃん―――待ってくださぁ~い!カリーナ様ぁ~」

「キモい声で近づいてくんな!この✕✕✕!」

「そんな!酷い!酷過ぎる!そんな放送禁止用語を浴びせるなんて!」

「だからキモいつってんだろ!」

タッタタタタッ・・・・

「・・・・」

次第に小さくなっていく彼らの後ろ姿を呆然を美紀は眺めていた。結局その会話内容はほとんど聞き取れなかったが―――

「・・・世界って広いんだね」

そう思わずにはいられなかった。

そして同時に―――

「もっと英語を勉強しないとダメだね!」

どうやら、そう意気込むための材料にもなったようだ。

「おや?君は確か・・・工藤第三官の妹さんじゃないか」

すると、背後から力の抜けたような女性の声が聞こえてきた。

パカパパカパカ・・・

スリッパの音を鳴らせて近づいてきたのは―――

「・・・北山さん」

猫背の姿勢に両手を白衣のポケットに突っこんでいるその姿から脱力感を感じさせる一人の女性、医療棟の外科医兼、第二開発部の部長の北山唯織きたやま いおりがそこに突っ立ていた。

「こんなところで何してるんだい?」

「えっと、その・・・道に迷っちゃって・・・」

「ははは、そうかそうか。では私の研究室ラボでお茶でもいかがかな?その恰好では冷えるだろう?」

「えっと、お話は嬉しいんですけど・・・プールに戻ろうと思ってて・・・」

「ああ、それは不可能だよ。てゆーか、ここもすでに立ち入り禁止区域だからね」

「・・・え?」

「いやーね、私も今さっき聞いたんだが、どうやら今あそこは戦場になってるらしいんだよ。支部長と悪魔くんらしき者・・・・が殺し合ってるんだってさ」

「・・殺し・・合ってる・・・?」

その言葉を聞いた途端、美紀の頭はフリーズした。

「でもあそこにはお姉ちゃんたちも!」

「んー、まぁその辺は心配いらないんじゃないかな?支部長がいるから安心していいと思うよ」

「で、でも・・・」

「―――それとも、あそこに行って君に何かできるのかな?」

「・・・・」

「まぁ偉そうなこと言ってるけど、実は私も“原石同士の闘い”というものを一度この目で見てみたいというのが本音でここまで来たんだけどね。でも君を見つけてしまった以上、安全な場所に避難させる義務があるからね―――ん?」

(・・・あれは・・)

するとそこで唯織は正面にいる少女の遙か後ろに屋内プールの方へと駆けていく2人の人影が視界に映った気がした。

(・・・いや、まさかね)

「さぁ、温かいコーヒーを用意しているから。そうだね、まずはスピン偏極核融合について大いに語り合おうか♪」

「え?何ですかそれ?」

「またまたー♪君は冗談が上手いね」

「えっ・・いや冗談とかじゃなくてホントに―――」

「よしっ!取りあえず私の研究室ラボに直行だ!」

「ちょっ、ちょっと・・・北山さん」

強引に美紀の腕を引っ張って歩き出すと、唯織は人影が見えた方をもう一度振り返ったが、すでにそこには誰の姿もなかった。

(どうやら仕事漬けで目が疲れているようだ・・・“彼ら”がここにいるわけがないか)

―――そう、世界トップクラスのS2操者である“彼ら”がここにいるはずがない―――

「さぁ行こう妹君!」

「ちょ、ちょっとぉ~」

パカパカパカ・・・

自らに言い聞かせるよう心の中で反芻し、彼女は少女の手を引いて歩き始めた。



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