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7th Sense  作者: freeman
第二章:弐頭龍、襲来
40/64

第三十五.五話:戦いの裏

この話はだいたい三十五話と三十六話の間の内容です。

ちょっと時系列を戻しますがご了承ください。

では、どぞっ

―時を遡ることおよそ10分前、午後6時35分―

第一高校で4人のS2操者による戦闘が激化している頃、サオス日本支部の支部長室では二人の男が会話をしていた。

「海場、たった今、明石補佐官候補の携帯端末から緊急連絡が入った。だが掛けてきたのは本人ではなく第一高校の女性教員のようだ。話によると教室棟の一階廊下で明石補佐官候補は襲撃者と思われる何者かと交戦中。それと一階の資料室で女性と一緒にいる雅式序列第三位が出血多量の重傷を負っているらしく、意識不明だそうだ」

報告書を手に持って話しているのはサオス日本支部の副部長、佐久間啓吾さくま けいご

年齢は40代前半といったところだろうか。若干白髪交じりの短髪、180センチほど身長に若干細身の体格。黒いスーツをしっかりと着込んいるこの男が日本支部のナンバー2だ。そして、正面のデスクに座りながら煙草を吹かしている男の右腕・・でもある。

重傷・・か・・・さては式のヤツ、気を抜いたな)

「そうか・・・校内にいる生徒と教職員の避難は?」

口から煙を吹きながら銀フレームの眼鏡に黒髪短髪の男、海場宗次かいば そうじは口を開いた。

「すでに完了済みだ。彼女・・が迅速に教員や生徒たちに呼びかけてくれたおかげで、戦闘が行われている教室棟以外の場所にいた人間は全員敷地の外へ誘導させた。『教室棟からの出火による火災』という名目でな」

「警察や消防は介入させていないだろうな?」

「無論だ。先週に続き、二度も第一高校への侵入を許したことが表立ってしまえば、今度こそ我々は批判の的にされてしまうからな。これで隠蔽工作・・・・の方は問題ないだろう。しかし、先日のテロからまだ一週間しか経っていないというのに・・・こうも頻繁に起こされるとたまったものではない・・・」

そう吐き捨てる佐久間。

「・・・襲撃者は?」

「校内に設置されているFDSの反応を見る限り、二階廊下から魔氷リオートの反応が一つ、一階廊下から怪焔フィアンマの反応が一つ。明石補佐官候補と世良補佐官候補のイミテーションの反応も確認できた。恐らく明石が怪焔フィアンマの方と、世良が魔氷リオートの方と交戦している。だがFDSの反応によると、襲撃者二人の制御外発動力場は錬成操作によるものと確認できた」

「つまり、S2操者というわけか・・・」

「ああ、恐らく補佐官候補の実力ちからではこの状況を切り抜けるのは難しいだろう・・・ましてや、あの二人は今回が初めての実戦だ・・・ところで、本当に良かったのか?」

「ん?何がだ?」

「増援に向かわせた二人・・のことだ。二人だけではいささか少なすぎやしないか?あと数分で他の職員も現場に到着する。それを待ってから大人数で攻め込んだ方が確実だろう?」

彼女たち・・・・は現場に最も早く急行できる位置にいたんだ。それに、大人数だと周囲の目に付く。万が一・・・に備えて他の職員には敷地の周囲を包囲させておけばいい」

「要するに、事が大きくなる前に最小限の人数で終わらせるというわけか」

「本来ならば俺が出向くところだが、俺が迂闊に動くと逆に事を大きくしてしまう可能性がある」

「それ以前に、お前が第七感ちからを使えば、第一高校をにしてしまうだろ?」

そう言って不敵に笑う佐久間。

「ふっ、まぁ否定はできないな」

鼻で笑って返す海場。

「ということは、計4人でこの事態を終息させるということか・・・たった4人か・・・」

難しそうな表情を浮かべながら佐久間は呟いた。そこへ―――

「違うぞ佐久間、5人・・だ」

海場が異議を唱えた。

「・・・まさか、雅式を数に入れてるのか?だが彼は重傷を負っている上に意識不明だぞ?使い物にならんだろ?それより問題はどうやって彼を救出するかじゃないのか?」

そう言った佐久間だが、海場の放った次の言葉でその表情が固まった。


「救出?そんなものは必要ない」


「・・・は?」

「最優先事項は連絡をかけてきた女性教員の救出だ。その次に明石、世良、両名のサポート。アイツのことは放っておけばいい」

「・・・おい海場、いくら彼が本部の人間だからといって、負傷者を放置しておくのはまずいだろ?」

「負傷者?・・く、くくくっ・・・」

すると突然、小刻みに肩を震わせて堪えるように笑い始めた海場。

「・・・海場?」

「ふはははっ、違う違う佐久間、俺はそういう意味・・・・・・で言ったわけではない」

「・・・なら一体どういう意味だ?」

訳が分からんといった表情を浮かべている佐久間。そんな彼に海場は愉快そうな口調で言い放った。

「アイツに救護など必要ないという意味だ。重傷を負った?大量出血?意識不明?その程度・・・・の事、アイツにとっては何の障害にもならない。断言しよう、原石である俺から見てもアレは化物・・だ。もう夜が近い。動き出すぞ、最凶の第七感ちから、『狂闇ディメント』をその身に宿した化物・・が―――」

そう言って男は背後にある大きな窓から、暗がりに染まりかけている空を一瞥した。



―午後6時38分、第一高校教室棟、一階資料室―

ドォンッ、ドォンッ、ドォンッ・・・

廊下から絶えず聞こえてくる爆発音。

「・・・明石さん・・」

2年1組の担任教師、佐藤めぐみは爆風でガタガタと音を立てているドアに視線を向けながら、今戦っている少女の名を呟いた。

まだこの状況に軽く混乱しているが、彼女の指示通り日本支部には連絡を入れた。あともう少しで応援が到着するとオペレーターの人は言っていた。

それまで彼がもってくれれば―――

「・・・・・」

明かりの点いていない資料室の床に座り込んでいる彼女の傍らで仰向けに横になっている少年、雅式に視線を向ける。

左肩と背中の傷口には、着ていたピンクのブラウスをきつく巻いて応急手当はしたつもりだが―――

「・・・どうしよう、また出血が・・」

ピンクのブラウスが赤くにじみ始め、床にも小さな血だまりが出来ている。

どうにかしないといけないが、なかなか彼に触れることができない。

血まみれの彼に―――


「・・・・」

手足がガクガク震えているのが分かる。

間近で血を見るのがこんなに恐ろしいことだとは知らなかった。血の匂いがこんなに鼻につくなんて知らなかった。

「・・・う・・うぅ・・・」

本当は今すぐにでも泣いてしまいそうなくらい、自分はこの地獄のような状況に恐怖している。

でもここで泣くことは許されない。それは今自分たちを守るために懸命に闘ってくれている少女に対して失礼だ。そして何より、私は教師なのだ。

「・・・もう泣かないって決めたでしょ・・・しっかりしなさい!めぐみ!」

自分にそう言い聞かせながら、目元に溜まっている涙を拭う。

一週間前のテロの時、私は生徒を守らなければいけない立場にあったにも関わらず、情けないことに嗚咽を漏らして泣いていた。

そんな絶望の状況に置かれた私たちを助けてくれのがこの少年だった。

だから今度は私が彼を守らなければ―――

ふと窓の外の景色を一瞥すると、空が完全に暗がりに染まっていた。

もう少しで助けが来てくれる。それまでは―――

「・・・とにかく、今は私にできることをしないと・・・」

そう言って偶然スカートのポケットに入れていたハンカチを取り出して、肩の傷口に当てようとした時だった―――

「―――ッ!?ひゃあっ!」

突然、小さな悲鳴を上げためぐみ。

「・・・な、何?・・・この黒いの・・?」

身を仰け反らせながら彼女は声を発した。その視線は少年の左肩の傷口に向けられている。

いや、正確には傷口ではなく、傷口から音もなく煙のように吹き出した黒い炎・・・に―――

まるで生きているかのように、ゆらゆらとうごめいているそれ・・は、見ていてとても不気味に感じてしまう。

直後―――

「―――ッ!」

それまで目を閉じていた少年の両目がクワッと開いた。

その両眼から赤い光を放ちながら―――

さらに―――

グンッ

突然、仰向けに横になっていた少年の体が、立ち上がる動作なしで、直立した。

まるで、何らかの力・・・・・によって引き上げられたかのように―――

「・・・・」

その様子を見ていためぐみは驚愕のあまり、声が出なかった。

そしてよく見てみると、少年の背中にもあの黒い炎が張り付くように蠢いている。

そして立ち上がった少年は―――

「ふわぁー・・・」

ボキボキッ・・・

骨を鳴らしながら両腕を真上に伸ばして大きく欠伸した。そして―――

「・・・ん?」

床にへたり込んでいるめぐみを見下ろす式。

暗がりの部屋で赤い光を放つ瞳と目が合った瞬間―――

「―――ッ!!」

彼女は声にならない悲鳴を上げて、ビクッと体を震わせた。

彼が自分に危害を加えるわけがないのは分かっていた。

だがあの不気味な黒い炎に、鋭い光を放っている赤い瞳、そして――――

ガタガタガタッ・・・

体が震えている。普段の彼から微塵も感じない、威圧感・・・のようなものに―――

すると彼女を見下ろしていた式は―――

スッ

床に片膝をついて正面から彼女を見据えて衝撃の一言を言い放った。


「佐藤先生・・・何でブラジャーしかつけてないんですか?」


「―――ッ!!」

そう、彼女は今、上半身はブラジャーしかつけていない恰好なのだ。その理由は今更言うまでもないだろう。

はりとふくらみのある、形の綺麗な胸を清潔感のある白のブラジャーが包み込んでいる絶景・・が少年の目の前に広がっていた。

直後―――

バッ

赤面しながら両手で自らの胸元を覆い隠すめぐみ。

だがすでにその光景を目に焼き付けた式は―――

「とりあえず・・・ご馳走になりました」

パンッ

両手を合わせて目を瞑りながら頭を小さく下げてきた。

そんなあまりにも清々すがすがしい合掌をされためぐみは―――

「お、お粗末様でした・・・///」

つい、そう言ってしまった。

「ん?これは・・・」

すると式はようやく自分の体に巻きつけられている、彼女のブラウスに気がついた。

同時にめぐみもある事・・・に気がついた。

(目の色が・・・)

合掌を終えて目を開けた途端、それまで赤い光を放っていた彼の瞳がいつもの黒い瞳に戻っていた。

そしていつの間にか、体の震えもおさまって、あの威圧感のようなものも感じなくなっていた。

「すみません先生・・・コレ、ダメにしてしまって・・・今度弁償するんで」

そういって自分の体からブラウスを取ると、羽織らせるようにめぐみに返した式。

「そ、そんなの気にしなくていいからっ・・・それより雅君ケガは・・・」

ブラウスを受け取ると、急いでボタンを留めて顔を上げためぐみ。そんな彼女の視界に映ったのは―――

「・・・う・・そ・・」

先ほどまで彼の左肩に張り付いていた黒い炎はもう消えていた。

そして―――

あれだけ出血が酷かった左肩の傷が消えていた。

「うそっ・・・な、何で・・・?」

背中の方も確認してみると傷はなくなっていた。あまりの出来事にめぐみは驚愕の表情を浮かべ、混乱している様子。

「・・・まぁ、これには色々ありまして・・・それより、何で先生がここに?」

「え?えっと、その・・・補習授業の終わりの時に、雅君専用の教材を明日用意するって言ったでしょ?」

「そういえば、そんなことを仰っていましたね」

「それでこの資料室に何かいい教材がないかなー、って探してたら、大きな音が聞こえたからドアを開けてみたら、気を失った雅君が明石さんと廊下にいたって・・感じかな・・・?」

「・・・なるほど。先生、一ついいですか?」

「ん?なに?」

そこで式は再び衝撃的な一言を言い放った。


「明日は土曜日、学校休みですよね?」


「・・・あ・・ホントだ・・・」

初めて気がついた様子のめぐみ。

「あぁ~、そうだった・・・明日土曜日だった!あぁ~、私のおっちょこちょいー!」

項垂うなだれながらやってしまったと言わんばかりの声を漏らす女性教師。

クスクス・・・

「・・・?」

笑いを堪えるような声が聞こえてきたのでそちらを見てみると式が小さく笑っていた。

「・・・すみません、なんか先生可愛くて・・・・」

「か、『可愛い』って・・・もうっ、雅君!こんな状況で何言って――――」

そこで彼女の言葉は遮られた。

ピト・・・

突然、式の右手の人差し指が彼女の唇に当てられたからだ。

「―――ッ!?」

少年のいきなりの行動に一瞬戸惑っためぐみだったが、その意図をすぐに理解した。

正面にいる少年は反対の手でシーと静かにするようジェスチャーしている。

そして同時にめぐみは気づいた。

(・・・あれ?・・・さっきまで聞こえていた音が・・・)

そう、先ほどまで廊下から絶えず聞こえていた爆発音が止んでいた。爆風でガタガタと音をたてていたドアも今は音をたてていない。

廊下の方が静まりかえっていた。

(・・・もしかして、もう終わったのかな・・・?)

そんな安易なことを考えた彼女に式が現実を突きつける一言を言い放った。


「・・・来ます」


直後―――

ドオォーン!!

「―――きゃあっ!」

先ほどのものとは比べものにならないほど強烈な爆音が廊下から響いた。

パリン―――ッ

そしてその爆風で資料室の窓ガラスが勢いよく割れ―――

「―――ッ!?」

ビュッ

大量のガラス片が二人の元へ飛んできた―――

「―――ッ!」

めぐみは反射的にまぶたを閉じた。

直後―――

「―――ぐっ・・・」

少年の短い呻き声が聞こえてきた。

そしていつの間にか、めぐみは自分でも気づかない内に、体を小さく縮こませ、誰かに抱きしめられていた。無論、抱きしめていたのは―――

「―――ッ!?雅君ッ!」

恐る恐る目を開けると案の定、式が覆いかぶさるように彼女を抱きしめていた。

廊下に背を向けている彼の背中には何枚かのガラス片が突き刺さっている。

「―――痛っ・・・先生、怪我はありませんか?」

「私は大丈夫、それより雅君、背中に・・・」

「このくらい平気です・・・治りますから」

すると再びあの黒い炎が背中から現れ、彼の背中に纏わりついている。

(・・・つっても、完治するまで少し時間が掛かるな・・・)

そんなことを考えていると―――

ドゴーンッ!

「「―――ッ!」」

突然、資料室のドアが勢いよく倒れた。

カツン、カツン、カツン・・・

倒れたドアを踏み越えて姿を現したのは―――

「ハロー、愛シノ悪魔チャン♥オネェサンガ殺シニ来タゾ♥」

廊下から燃え広がっている炎を背景に、黒いチャイナドレスを身に纏った女が立っていた。





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