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7th Sense  作者: freeman
第二章:弐頭龍、襲来
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第三十六話:井の中の蛙

なぜか今回は早く書けちゃいました。

どぞっ

「アハハー、分カッタゾ!」

「・・・?」

――第一高校教室棟、一階の廊下――

床に右手をついたまま屈んだ姿勢の央乃を守るようにそびえ立っていた数枚の氷壁は黒いチャイナドレスを纏った、リンシェンと名乗る女が大量に投げ放った炎針の破壊力によって今やほぼ破壊され、盾としての役割を失いつつある。廊下には氷壁の破片が転がっており、床や壁、天井には爆発の焦げ跡がついていて、爆風のせいで両側の窓ガラスも何枚か割れている。さらに氷と炎の衝突のせいで、まるで霧のような大量の水蒸気が辺りに立ち込めている。

そんな状況の中、突然愉快な声で女が言葉を発した。

そして、央乃が右手にはめている機械染みた水色のブレスレットを一瞥してリンシェンは言った。


「オマエ、『錬成操作シカ出来ナイ』―――ソーダロ?」


「―――ッ」

女の言葉を聞いた途端、ピキと表情が固まった央乃。

「アハハハッ、ソッカ、ソッカ、ヤッパソッカー」

央乃の反応を見て満足したのか、何かを確信したような表情だ。

「オマエ、サッキカラ氷ノ盾作ッテ守ッテバッカダモンナ~」

何かに感づいたのか、腰に手を当てながら翻弄するような口調でじゃべり続ける。

「・・・・」

ゴク・・・

女の言葉を聞いて央乃は生唾を飲み、同時に直感した。

――恐らく、この女は自分の弱点・・に気づいたのだろう――

そして黒いチャイナドレスの女・リンシェンは残忍な笑みを浮かべて核心を衝いた言葉を言い放った。


「オマエ、『攻撃シナイ』違ウ、『攻撃デキナイ』ダロ?」


「・・・・」

(まぁ、そのうち気づかれるとは思ってたけど・・・)

敵に自分のことをベラベラとしゃべるバカな女だと思っていたけど、やっぱり重操を扱えるS2操者だけあるようだ。

あの女が言った通り、私は魔氷リオートの錬成操作しか使うことができない。その理由は至って簡単、私がまだS2操者として未熟者だから。でもそんな私が何で同じ二大操作の流纏操作より習得が難しいと言われている錬成操作を使えるのかという矛盾が生じる。それは錬成操作をするために必要不可欠・・・・・と言われている“ある才能”を偶然・・私が持っていたから。


5年前の2023年、サオスドイツ支部の研究チームがドイツ政府の協力のもと、ある実験を行った。

実験名は『Marzemマーゼム

それは国内の10代から20代の若者、約5万人を対象とした大規模な実験で、その中の内の十数人がイミテーションの補助によって微弱ながら放電現象を発生させたという驚くべき結果が得られた。そして放電現象を発生させた全員にある共通した特徴・・が見られた。

その特徴・・というのが、文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりと、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる、一部の人にみられる特殊な知覚現象『共感覚:synesthesiaシナスタジア』だった。

マーゼムよって分かったことは放電現象を発生させた十数人は全員が『共感覚者』ということだった。

そしてドイツ支部の研究チームは共感覚者がイミテーションの補助を得て第七感を発生させる操作方法を『錬成操作』と呼称した。

またこの実験を機に、『共感覚者は“原石の領域”に到達できるのでは?』などといった考え方が世界中の研究者たちの間で言われてきたが、5年経った現在いまでも未だそのような実例は確認されていない。しかし、その可能性も捨て切れないのが現状といったところだ。

2年後の2025年、ドイツ支部、日本支部、ロシア支部の三機関による共同研究によって豪雷グローム怪焔フィアンマ魔氷リオートの3つの錬成操作が実用段階までに至り、実戦で投入させるようになった。

そしてこの共同開発でもう一つ、“ある事実”が判明した。

それは一人の共感覚者が複数の第七感の錬成操作を行うのは不可能だということ。

つまり、一人につき一つの第七感でしか錬成操作は行えない。

だがその結果は研究者たちをそれほど驚かせるものではなかった。

なぜなら、生身で第七感を発動させる原石が他の原石の第七感に関しては錬成操作はおろか、コードを取り込んだイミテーションを起動させることすらできないという結果がすでに得られていたからだ。


そういったわけで私・明石央乃は共感覚者だから錬成操作が行えるというわけなのだ。

私の場合、幼いころから人の姿に『色』が見えていた。その人の周囲に霧のようなオーラが見え、人によってその色はさまざまだけど、ほとんどの人がいろんな色が混ざり合ったような言葉では表現できないような色をしている。

けど私が今まで会った中で二人だけ、はっきりとした色を纏っていた人がいた。

その二人というのが、海場支部長と雅君。二人とも同じ色をしていた。

――無色――

あの二人からは全く色を感じることができなかった。

そんなわけで、小さいころから人の姿に色が見えるのが“当たり前”のことで周りの皆もそうなのだと思い込んでいたから特に気にしたり誰かに相談したりすることなく生活してきた。

でも中学2年生の時、これが普通でないことを知ることになった。

当時、サオス三機関の合同研究によって錬成操作が実用可能な段階になり、24区にある全ての学校で、生徒の中に共感覚者がどのくらいいるのかを調査するテストが一斉に行われた。

そして私は共感覚者だと判明した。

日本支部の研究所に勤めていた両親はそれを知ってとても喜んでいた。そして私の頭を撫でながら二人は言った。

――央乃は特別な子だ――

その言葉を聞いて私は自分が他の人とは違う特別な存在だと自負するようになった。そして自分にあるこの才能を生かすために日本支部に入ってS2操者になろうと決心した。

危険が伴う仕事なので両親からは反対されたけど、それを押し切って、サオスの採用試験が受けられる16歳になるまでの約2年半、死ぬ気で勉強した。元々勉強は得意だったけど大学で習うような範囲のS2理論も頭に叩き込む必要があったからかなり苦労した。

もちろん勉強だけでなく、近接格闘を習ったり、S2競闘にも参加した。当時のS2競闘にはまだ錬成操作は導入されていなかったけど、それでも着々と実力をつけていって中学3年生の頃には中学生の近接部門では無敵と呼ばれていた。

他の生徒みたいに友達と遊んだりするような時間はなくて忙しい毎日だったけど、自分の成長を肌で感じられる充実した日々で、すべてが順調だった。

日本支部に入るまでは―――

2年半に及ぶ、血の滲むような努力が実った甲斐あって、私は日本支部に入ることができた。恐らくこんな快挙を遂げたのは自分が初めてだろうと愉悦を噛みしめていた。

けどそこで知った。

――すでに“3人も”現役高校生が日本支部にいたことを――

しかも、その内二人はすでに第三官の地位まで登りつめていた。その内の一人が現在、第一高校の生徒会長でもあり、怪焔フィアンマの原石、海場支部長の娘でもある詩菜しいな先輩だった。彼女はさらに昇進して今は第二官の地位にいる。

また、私が日本支部に入った年にもう一人、私の他に現役高校生が入ってきた。

それが世良拓弥だった。

聞いたことがない名前だった。日本支部に入れたのだからS2競闘などでそれなり名が知れていてもおかしくないはずなのに、私は彼の名前に全く覚えがなかった。

どうせ大した実力はないくせに運よく入れたのだろうと勝手に思って見下していた。

日本支部に入って数日経ったある日、補佐官候補同士による模擬戦が行われた。

私はそこで彼と対決することになった。


『―――世良拓弥だ、よろしく』

明さの中にどこか暗さを感じる色を纏っている少年だった、人のよさそうな笑みを浮かべて彼は握手を求めてきた。

『明石央乃、よろしく』

無愛想な態度で私は一応・・彼の握手に応じた。

『確か君も第一高校の1年生だよね?俺もなんだ。学校でも話すことがあるかもしれないな』

『今から模擬戦をするのに随分とフレンドリーね』

『え?当たり前だろ?これから一緒に仕事をするかもしれない仲間なんだからさっ』

『呑気ね』

『ははは、よく言われるよ』

(・・・こんな優男に私が負けるわけない)

当時、私はまだ錬成操作の訓練をしている最中だったので模擬戦で錬成操作を使うことはできなかったけど、錬成操作なしでも余裕で勝てると確信して彼に挑んだ。

そして、瞬殺された。

開始の合図が鳴った次の瞬間には、15メートル向こうにいたはずの彼が目の前にいた。

彼はまだ日本支部に入ったばかりだというのに、すでに二大操作の一つ、加速系の流纏操作を習得していた。

そして目にも止まらない速さで放たれた、彼の拳を食らって私は気を失った。

完全になめていた。

そして無様だった。ただただ無様だった。私は自分を過大評価していたことを恥じた。

そして同時に気づいた。

――日本支部ここでは私は大して特別な人間ではないと――

私はただの井の中の蛙だった。

その後、自分を見つめ直して私は錬成操作の訓練に明け暮れて、2年生の夏頃にようやく習得することができた。

検査の結果、私が使える錬成操作は魔氷リオートだった。

大気中の水蒸気とイミテーションに込められている凝固系のコードの二つ、そして共感覚によって私はこのブレスレットをはめている右手で冷却現象を起こすことができる。

けど私の錬成操作には弱点がある。

錬成操作は人によって方法や発動形態に違いがあるけど私の場合、このブレスレット型イミテーション『Remiamレミアム』をはめている右手でしか錬成を行うことができない。

この右手を中心とした半径約5メートル以内なら間接的に冷却現象を起こすことができる。

今も右手をつけている床の地点から冷気を送ることによって、2、3メートル前方に氷の盾を生成している。

しかし逆に言えば、それは5メートル以内にいない敵に対しては何も意味をなさない。

今、10メートルほど向こうにいる女に対して私が何もできず、ただ守ってばかりのように。

戦闘を始める前、あの女を挑発するような言葉を言い放ったのは、女が逆上してこちらに接近してくるのを狙っていたから。

半径5メートル以内の接近戦に持ち込めばこちらにも勝機があると踏んでいた。

でも女がとった行動は私の予想に反して、中距離から怪焔フィアンマの錬成操作で生成した大量の炎の針を、加速系の流纏操作で雨のように飛ばしてくるという厄介なものだった。

私も流纏操作ができれば戦闘スタイルのバリエーションが増えるけど、二大操作の重操は最高難易度の部類で今の私ではまるで手が届かないレベル。それをあの女は楽しそうな笑みを浮かべながら苦も無く行っている。

――認めざる負えない、あの女は私より何枚も上手うわてだ――

(・・・攻撃して来ない今ならこっちから5メートル以内に近づくって手もあるけど・・・)

もし背後を許してしまったら後ろの資料室にいる式とめぐみを守るものが完全になくなってしまう。

(それか、このまま応援が来るまで守り切るか・・・)

しかし、このままではレミアムのコードが相手より先に尽きてしまう可能性もある。

(・・・一体どうすれば・・・)

額から一筋の汗を流しながら央乃が考えを巡らせていると―――

「アー、モー飽キタ」

つまらなそうな表情を浮かべてリンシェンと名乗る女が口を開いた。

「オマエ、メイシェント同ジ錬成操作使エルカラ楽シメル思ッタノニ・・・ツマンネェ」

スッ

突然、ダラリと下げていた黒いグローブをはめている右手を上げると、天井に手のひらを向けるように腕を真っ直ぐに伸ばした女。

真っ直ぐに伸びている女の中指は狙いを定めるように正面にいる央乃を指している。

(・・・何か来る)

そう思い央乃はいつでも氷壁をつくれるよう、右手に意識を集中させる。

ボウッ

すると、先ほどまで投げられていた炎針の4倍近くの長さがある炎の矢がその右手から形成された。

ガシ

女はグローブをはめた右手の人差し指と中指で矢を挟むと、体を半身に反らして左手で矢の後ろ部分を持ってそれを体の方へと引き寄せる。

まるで弓がない弓矢のフォームだ。そして矢の後ろを持っている左手の指からバチバチと青白い電流が音をたてている。

(アレは・・・ヤバいっ!)

瞬間、央乃は大量の冷気を右手から発生させる。

ピキピキピキピキッ、ピキピキピキピキッ

たちまち壁、床、天井から氷が生え、今までで最も巨大かつ分厚い氷壁がそびえ立ち、完全に10メートル向こうにいる女の姿は見えなくなった。

「アハハー、無駄無駄ー♪」

パッ

まるで氷壁の存在を無視したかのように、何の躊躇もなく女・リンシェンは矢を引き寄せていた左手を放した。

ドオ―――ンッ

直後、響き渡った巨大な爆発音。

弾丸のような速度で飛んで行った炎の矢はいとも簡単に氷壁を破壊した。

ブア―――ッ

そして周辺の床には炎が広がり、火の海となっている。

そこから数メートル離れた流し台の近くに、頭から血を流して倒れている明石央乃の姿があった。






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