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7th Sense  作者: freeman
第一章:学園入口
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第二十五話:生徒会

少し遅くなりました。

―――ガラッ

「・・・・・・」

四階にある生徒会室のドアを開け、中の様子を見た瞬間その場に硬直する式。

「あ、お兄ちゃん遅いよぉ~」

「式くん、授業で遅れたの?」

綾と美紀が声を掛けてきた。その二人の声が聞こえてくることは何も疑問に感じることはないだろう。

「何してるの?ボーと突っ立ってないで早く座りなさいよ」

だが、なぜ先ほど会った監視役の女までいるのだ。

「・・・・・」

とりあえず綾と美紀の間の空いている席に座り、正面の席に座って昼食を食べている少女に視線を向ける。

「何か言いたそうな顔ね」

式の心情を察したような様子で央乃が声を掛けてきた。

「飯食う時も監視されるのかよ・・・」

力なくうなだれる式。

「確かに監視の目的じゃないと言ったら嘘になるけど、私たち生徒会の人間は元々この生徒会室で食事をとることが多いの。ここならご飯を食べながらあなたの監視ができて一石二鳥ってわけ」

パクリとミートボールを食べる央乃。

「・・・“生徒会”ってなんだ?」

「やっぱりあなたには一般常識が備わっていないようね」

蔑むような口調でそう言い捨てる。

「・・・・・」

「簡単に言うと生徒たちの中で選ばれた人間が学校生活の改善、充実、各種の生徒活動の企画・連絡調整とかをする自治活動よ」

「・・・要するに生徒のまとめ役みたいなものか」

「そんなものね。私は書記で拓弥は副会長をやっているの」

「へぇ」

「私たち生徒会役員はこの生徒会室に自由に出入りすることが許されてるの。ここなら他の生徒も来ないからゆっくりと食事をとれるってことであなたたちを招待したわけ」

「でもいいのか、生徒会の人間でもない俺たちが出入しても?」

「その辺の事は気にしなくていいんじゃないの?なぜか“会長”があなたに会いたがっていたし」

「会長?―――ッ!?」

直後、視界が真っ暗になった。

「だ~れだ?」

背後から少女のものと思われる声が聞こえてきた。そして背中に何か柔らかいものが当たってる感触。

「・・・“誰だ?”って・・・コッチが聞きたい」

少女の温かい両手によって目元を覆い隠されている式が率直に言う。

「も~、つまんないなぁ~」

そう言って手をぱっと放し視界が元に戻る。

後ろを振り返るとそこには一人の少女がいた。

透き通るような白い肌に、身長は160センチほど。艶のある長めの黒髪をポニーテールに纏めていて、その毛先はクルンとウェーブがかかっている。

少し悪戯っぽい笑みを式に向けているその顔は少し大人びた雰囲気も感じさせる。そのパッチリとした目は式を見据えており、小さく形のきれいな口元から言葉が発せられた。

「久しぶりだねぇ~私のこと、覚えてるでしょっ?」

期待を込めた視線を式に向けてくる美少女。しかし――――

「・・・・どこかでお会いしましたか?」

式には全く身に覚えがなかった。

「えぇー!私のこと忘れたのぉー!?ひどーいっ!!」

愕然とした表情の少女。

「・・・まぁ、最後に会ったのは8年前だから無理もないかなぁ・・・」

かと思えば頬に手を添えて何やら一人で考え込み始めた。

「「・・・・・」」

その様子を呆然とした様子で見ている式と綾の二人。

「―――あっ!ゴメンね。とりあえず自己紹介から、私が生徒会長の海場詩菜かいば しいなでぇ~す。よろしくねぇ」

(海場・・・そういうことか・・・)

「お久ぶりです、詩菜さん。さっきはすみません。ずいぶんとお美しくなられていたので気がつきませんでした」

恥ずかし気のない様子でサラッと言った。その言葉を聞いた綾と美紀がムッと頬を膨らましたことに彼は気づきもしない。

「もぉ~、そんなこと言ってぇ、ずいぶんと見ない間に腕を上げたなぁ~、“シーくん”っ」

楽しそうな表情を浮かべ、式の首に腕を絡め、抱き着いてきた詩菜。

「「「―――ッ!?」」」

二人のやり取りを驚愕した表情で凝視している女性陣たち。

「それにしてもお父さんの言ってた通り、シーくんもすかっり“男”になったねぇ~昔は女の子みたいにカワイかったのにぃ~」

そう言って式の頬に自分の頬をスリスリしている。

「ちょっとやめてくださいよ。飯が食べれません」

慣れたような口調で訴える式。

「え~!いいじゃん、8年ぶりなんだよ~?」

少女を引き離そうとするがなかなか離れてくれない。


―――バキッ!


何かが折れたような音が聞こえたのは気のせいだろうか。

「・・・・・」

恐る恐る隣に目を向けると無表情でドス黒いオーラを纏った妹の姿があった。そして彼女が右手に持っている箸は無残にもへし折られていた。

「・・・・・」

恐怖で声を発することができない式。そして妹が口を開いた――――

「その人と一体どんな関係なのかな、お兄ちゃん?」

いつもと同じ口調で話しかけてきた綾、しかしその目は笑っていない。

「・・・いや、あの・・・」

「ねぇ答えて、お兄ちゃん」

そう言って式に触れようと手を伸ばす綾。

(・・・殺される)

もう何を言っても遅いと悟り、覚悟を決めてた式だったが―――


―――パシッ


もう少しで式に届くというところで綾の細い腕が掴まれ、その動作を中断されられた。

「・・・何ですか?」

掴んだ相手に敵意を含んだ視線を向ける綾。

「確か妹の綾ちゃんだよねぇ?やっぱりシーくんの妹さんだけあって可愛いねぇ~」

綾の腕を掴んでいる詩菜がにこやかな笑みを浮かべて淡々と述べる。

「邪魔なので放してもらえますか?これから兄に話があるので」

無表情で言う綾。

「ん~、お話する分には構わないんだけど、暴力は良くないと思うよぉ~?」

「あなたには関係ありません。私と兄の間に勝手に入って来ないでください」

そう言って無理やり掴んでる手を振りほどこうとするが―――

「―――ッ!?」

その細い腕から一体どうやってそんな力が出るのかと疑ってしまうような握力で掴んでる詩菜の手は離れない。

「でも暴力は頂けないなぁ~第一、そんなことばっかりやってるとぉ・・・」

綾に顔を近づけて小さな声で彼女は言った。


「そのうち、愛想尽かされちゃうよ?」


「――――ッ!」

その言葉は決して脅すような口調で言われたわけでも怒気を含んでいるわけでもなかった。

しかし、綾に衝撃を与えるには十分な言葉だった。

兄に愛想を尽かされる・・・想像しただけでも恐ろしい。綾にとっては例え『死』よりも兄に構ってもらえなくなることの方が絶対的な恐怖。

途端、力なく手をダラリと下げた綾。もう彼女にその意思がないと悟った詩菜は「よしよし」とにこやかに頷きながら綾の手を掴んでいた手を離した。

だが綾はより一層、敵意を含んだ目で詩菜を一瞬睨んだ。そしてすぐに式に視線を戻す。

式を見つめているその表情は詩菜に向けていたものとは全く違った。

つぶらな瞳で弱々しく上目づかいで式を見つめる。まるで小さな子犬が「捨てないで」と懇願しているような、思わず見ている者にそんな気持ちを抱かせるような愛嬌のある表情で綾は式を見つめている。

(よく分からないが・・・助かった・・・)

そう安堵した式は口を開く。

「綾、こちらは海場詩菜さん。海場支部長の娘さんだよ。お前は入院してたから面識はないけど、8年前に海場さんにお世話になったとき、何度かお会いしたことがあったんだ」

「そーゆーことなんだよぉ~まぁ言ってみれば私はシーくんのお姉さんと言ったところかなぁ、えへへっ♪」

呑気な口調で言う詩菜。

「あ、あのぉ・・・」

そこで今まで黙り込んでいた美紀が声を発した。

「ん?なにかなぁ?」

にこやかな表情で美紀の方を向く詩菜。

「そ、その・・・“シーくん”っていうのは・・・?」

遠慮がちに聞いてきが、どうやら先ほどからその呼び方が気になっていたようだ。

「あ~、そのことねっ!シーくんねぇ、女の子みたいに可愛かったから最初は“シーちゃん”って呼ぼうとしたんだけどぉ、そしたら無視されちゃったから仕方なく“シーくん”って呼ぶことにしたのぉ♪」

楽しそうに語る詩菜。

「俺としては今の呼び名もどうかと思いますが・・・」

「え~そうかなぁ~?私としてはベストチョイスなんだけどなぁ~」

頬に人差し指を当て「う~ん」と悩んでいる様子の詩菜。

「・・・まぁ、こういう人だから」

「は、はぁ・・・」

「・・・・・」

苦笑いの式に美紀も苦笑いで応える。綾は依然敵意を含んだ視線を詩菜に向けている。

そこで向かい側の席の人物が勢いよく立ち上がった。

「会長っ!聞いてませんよっ!序列第三位と知り合いだったなんてっ!」

抗議するような口調で言う央乃。

「あはははっ!当たり前だよぉ、あかちゃんっ。だって誰にも言ってないもんっ」

あっけらかんとした表情で言う詩菜。

「いい加減その呼び方はやめてくださいっ!呼ばれるコッチの身にもなって下さいっ!」

「え~、だって明石あかしの“あか”をとって“あかちゃん”だからおかしくないよぉ?」

「・・・・もういいです」

力なくそう言うとグッタリと再び椅子に座る央乃。

「あっ、そうだったっ!すっかり言うの忘れてたっ!」

「・・・?」

突然何かを思い出した様子の詩菜。

「シーくん、この間はこの学校を守ってくれてありがとねぇ。私はその時“別の任務”でここを離れていたから事件のことを知ったのはもう全てが終わっちゃってた後だったの。生徒会長としてお礼を言います」

先ほどの雰囲気とはどこか打って変わった様子で深々と頭を下げる詩菜。

「礼なんていいですよ。仕事ですから・・・やっぱり詩菜さんも日本支部の職員なんですね」

彼女がここにいる時点で薄々感付いてはいた。

「うんっ!これでも第二官なのだよっ、えっへんっ!」

そう言って胸を張る詩菜。その動きによって彼女の豊満な胸がタプンと上下に揺れた。

「・・・その歳で大したものです」

その光景に目を奪われていた式は二重の意味を込めた賞賛の言葉を送った。

「えぇ~シーくんがそんなこと言っても嫌味にしか聞こえないよぉ~、ねー、あかちゃん?」

「えっ!?えっと、その・・・まぁ」

いきなり話を振られ、慌てふためいている央乃だがどうやら彼女にも嫌味に聞こえたらしい。

「それよりぃ~さっきからどこを見ているのかな、シーくん?」

ニコニコしながら悪戯っぽい口調で式を見る詩菜。

「・・・どこって?何のことですか?」

詩菜から目を逸らし、とぼけたような口調で言う式だが内心焦っている。

「だってぇ、さっきからお姉さんのおっぱいばかり見てー。シーくんもエッチになったんだねぇ~」

楽しそうに言う詩菜。そして胸を強調するかのように前で腕を組み、式の眼前で「ほれほれー」とタプンタプンと揺らし始めた。

「・・・・・」

その様子をただ見ていることしか式にはできなかった。

だが直後、同時に複数の激痛が彼を襲う。

「―――ッ!痛ってー!」

右足の脛を綾の蹴りが、左腕をつねっている美紀、そして獣を見るような目つきで右足のつま先を踏み潰している向かいの席の央乃。

「・・・お兄ちゃん、やっぱりお仕置きが必要だね」

「(む、胸なら私だって)負けてないのに・・・・」

「雅君・・・一度死ねば?」

「ちょ・・・お前ら・・・」

「あははっ、やっぱりシーくんも男の子なんだねぇ。うんうんっ!」

愉快な生徒会長の声がその場に響き渡った。




(あ・・・)

昼食を終えて生徒会室を後にし、綾と美紀と教室に向かう途中にあることを思い出す。

「―――綾」

「ん?何、お兄ちゃん?」

小首を傾げ、可愛らしい仕草で反応する綾。

「今日と明日の放課後なんだが、先に結理さんの車で帰っててくれないか?」

美紀は弓道部の部活に所属しているため、帰りはいつも式と綾の二人が結理に車で迎えにきてもらっている。だが今日は“約束”があること、明日は国語の補習授業があることを思い出した。

「え?うん・・・わかった」

突然そんなことを言われ、少し戸惑った様子の綾。

「じゃあまたな」

「うん、バイバイ」

「またね、式くんっ」 

二階の階段で式と別れた綾と美紀。

「どうしたんだろうね、式くん。なにか用事でもあるのかな?」

「・・・・・・」

「・・・綾ちゃん?」

「え?あ、ゴメン・・・」

「・・?」

(なんか嫌な予感がする・・・)

その時、綾は胸がざわつくような不安を覚えた。





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