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7th Sense  作者: freeman
第一章:学園入口
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第二十三話:失望

十二話に出てくる少女について『ブロンド』から『銀髪』にかえさせてもらいました。毎度すみません。

クラスの女子に囲まれ、逃げることを諦め口を開こうとした時だった。

「―――雅君、ちょっといい?」

女子の群れの中から声を掛けてきた人物。

「・・・明石さん?」

「お話のところ悪いけど、ちょっと雅君を借りるから」

「え?ちょ、ちょっとっ!」

いきなりの乱入者に結衣が抗議の声を上げるが―――

ガシッ

「―――ッ!?」

式の手首を掴むと無理やり席から立たせ、そのまま早歩きで教室を出て行った央乃と引きずられるように連れて行かれた式。

「あ~あ、もうちょっとで聞けそうだったのにぃ!」

結衣の声がその場に響いた。



「助かったよ」

教室を離れた式と央乃の二人は人気のない二階廊下の一角で足を止めた。

「面倒事を起こさないで。私の仕事が増えるから」

冷たい口調で言う央乃。

「てゆうか何で俺がピンチだって分かったんだ?」

「・・・これ」

すると彼女はポケットから何かを取り出した。手のひらにあるのはイヤホンと何やら小さな機材。

「・・・盗聴器とか、どこにつけてたんだ?」

「あなたの机につけてるの。外したらダメだから」

「・・・分かったよ」

「・・・意外とすんなりと受け止めるのね」

「別に聞かれて困ることなんてないからな」

「でもさっき話そうとしてた」

「・・・そうだな」

「わかってるの?あなたが話そうとしていたことはサオスの機密事項に関わるの。そんなことを公然で話そうとするなんて・・・頭おかしいの?それとも女の子たちに囲まれて気分が舞い上がって口が滑ったの?」

「いや、そういうわけじゃなくて・・・」

「じゃあ、どういうこと?」

「なんつーか・・・あの場で何も言わなかったらそれこそ後で面倒なことになるかと思って・・・」

「・・・要するに、女子の気迫に怖気づいたのね」

「・・・・・・」

「情けない・・・序列第三位が聞いて呆れる」

「・・・言っとくけどな、俺は自分から第三位なんて名乗ったことはないぞ。あれは本部が勝手に言い始めたことだ。そんな何かを期待されても困る」

「例え“名ばかり”の第三位でもあなたの一言には大きな影響力があるの。その辺自覚してるの?」

「いや、特に」

あっけらかんと答える式。

「・・・・やっぱりあなた、頭おかしい。なんでこんな人間に『原石』ってだけで第三位なんて地位が与えられるのかしら」

「いや、俺に言われても・・・」

困った表情を浮かべる式。

「・・・とにかく、今後一切機密事項をベラベラと口外するのはやめて。監視対象から機密が漏れたりしたら監視しているこっちとしてはたまったもんじゃないから」

「なんか色々と要求多いな・・・」

疲れた口調の式。

「当然よ。本来ならアメリカ本部に籍を置いているあなたが日本支部が直轄しているこの学校に転入してくること自体、ありえないんだから。同じサオスとはいえ、日本支部があなたをある程度警戒するのは当たり前でしょ?」

「そうだな」

覇気のない口調で式は言う。

「・・・なら、私はこれで。もう問題は起こさないで」

そう言い捨てるとスタスタと教室に戻って行った央乃。

「・・・俺、アイツ苦手だ・・・」



(ホンット!なんであんなのが序列第三位なのっ!)

―――現在4時限目の授業中―――

英語教師の説明など耳に入らず、明石央乃は先ほどの少年のことを考えていた。

(無気力で、ボーとしていて、責任感もない。そのくせ―――)

そのくせ無駄に優秀。習熟度試験の順位を見たとき正直驚いた。彼は学校に行っていないはずなのに2位の私との合計点の点差はたったの6点しかなかった。たぶん漢文や古文を普通に勉強していたら私は負けていた。彼の周りの女子たちはそんな彼に尊敬の眼差しを送っていたが私はそんな気持ちになれなかった。

ただ嫉妬した。

死に物狂いで努力している私たちをあざ笑うかのように追い抜いていきそうな才能に恐怖し、嫉妬した。

周りの人間は「雅式だから」と始めから彼に対する対抗心がないのだろう。

しかし私は違う。

私は高校生でありながらサオスにも所属している。

彼が9歳の頃からアメリカ本部に所属しているのはさすがに異例だけど、サオスの採用試験の年齢制限は16歳以上で去年の10月に試験を受けた私は合格した。まだ階級は一番下の補佐官候補だけど高校生の歳でサオスに勤めているのは私と拓弥を含めて日本で6人しかいないから、それなりに誇りに思っている。


ここで日本支部の階級を上から説明していくと―――

支部長

副部長

第一官

第二官

第三官

補佐官

補佐官候補

のように7つの階級に分かれている。8年前の『能登半島襲撃事件』以降、日本国憲法第9条の『戦力の不保持』は改正されて、戦力の保持が認められることになった。でもそれは自衛のための戦力だから『戦争の放棄』と『交戦権の否認』は改正されていなくて、日本が戦争をすることは8年前以前と同様にありえない。だから、テロや凶悪犯罪に対する対処やその事前対策が日本支部の仕事の大部分になってる。でも原石である支部長は何度か戦地に赴いたこともあるらしい。サオスは名目上『戦略機関』だけど、日本支部の場合はどちらかというと『特殊警察』と言った方が近い。


けど、アメリカ本部は違う。

アメリカ本部は戦争、テロリスト排除、暗殺、裏工作のように、まさにアメリカにとって不穏な存在を消すためにある。

戦力はサオス四機関の中でも最強だと言われていて、その階級分けはシンプルにできている。

――戦功序列制――

その名の通り、戦闘に於いて功績をより多く重ねた、戦闘能力が高い者から上の位に就くことができ、その階級を数字で表している。

その数字を見ればどのくらい強いのかすぐに分かるように。

このようにアメリカ本部は徹底した実力主義になっている。強くなければあそこで生き残っていくことは不可能だって聞いたこともある。

そこの第三位にあの少年は君臨している。

彼を含むトップ3はアメリカ本部でも群を抜く戦闘力を持つことから『人間兵器』とも呼ばれている。

第一高校でのテロ事件の時、私は無力だった。目の前で女子生徒が殺されようとしているのにただ見ていることしかできないのが腹立たしくて、悔しかった。

そんな時、突然現れた少年。

サオスの職員である私でも知らないコードを駆使して、あっという間に状況を終了させた。

監視任務にあたる際、拓弥と一緒に支部長からその“力”の内容を聞かされたときは耳を疑った。



『・・・『空間支配ヴォイド・ルール』・・・ですか?』

『そうだ。それがアイツが先日の人質奪還時に使ったコードだ』

会話の相手、海場支部長は言った。

『君たちも知っているように、6人の原石が身に宿している第七感はそれぞれ異なり、その第七感を分類することによってこの世にはさまざまなコードが確認されてきた――――』


例えば、海場支部長の第七感は『怪焔フィアンマ』と呼ばれている。その特性をいくつかに分類すると『発火系』や『溶解系』、『加熱系』などといったコードに分けられる。これらのコードを技術的に模倣したものをイミテーションに取り込むことによって、第七感を身に宿していない普通の人間も『S2操者』として第七感の力を行使することができる。


『・・・その『空間支配ヴォイド・ルール』とは一体、どのようなコードなんですか?』

拓弥が支部長に尋ねた。

『簡単に言えば、対象物を自在に空間転移させることができる』

『自在に・・・空間転移・・・』


―――テロ事件の日―――

銃声が体育館に轟いた瞬間、女子生徒に向け発射された飛弾が彼女に当たる直前に空間転移して現れた彼が、その銃弾を空間転移させて、テロ組織『壮爪カパン・タイト』のリーダーの男が彼に向けて撃った銃弾を人質集団の傍に立っていた男の頭を撃ち抜くよう転移させた。仲間の死に逆上した一人のテロリストが彼に向けて乱射した計60発近くの弾丸も他の8人のテロリストたちを蜂の巣にするよう転移し、最後の数発も同じようにして乱射した本人を蜂の巣にした。

これが彼が体育館内に現れてから10人のテロリストをものの1分足らずで始末した事の顛末―――


『『・・・・・・』』

それを聞いた私たちは言葉が出なかった。

確かに現場でその“力”を目の当たりにしたがそんなコードがこの世にあるなんて想像もつかなかった。

『・・・ですが、そのような強力なコードが存在するのなら、なぜイミテーションに取り込み、S2操者も使えるように一般化されていないのですか?』

そんなコードがあるならアメリカ本部はとっくにイミテーションに取り込み、戦力増幅に利用するはずなのに、なぜ今まで隠していた必要があるのかと気になってつい尋ねてしまった。

『アイツは対象物を空間移動させるとき、体積、質量、運動ベクトル、速度、、三次元上の座標、取り込んでから再び出現させるタイミングといったことを瞬時に計算してるらしい。いや、これは暗算や計算というより『演算』って言った方が近いか・・・それを可能にするため複雑な演算処理も瞬時に答えを導き出せるよう普通の人間に比べて脳が“進化”している。そんなことを普通の人間にさせれば脳がもたない。アイツ以外の人間にあの力をコントロールすることは不可能で、あれは『特異コード』に分類させれる』

『・・・特異コード』


コードは大きく分けて2種類に分けられる。

科学的な技術で模倣し、イミテーションに取り込み、一般的に使用可能なコードは『汎用コード』といわれている。それに対して、体質的または技術的な問題で、それを身に宿している原石しか使うことのできないコードが『特異コード』。


(・・・そんなの、無敵じゃない・・・)

『だがあのコードにはそれなりのリスクもある』

支部長が切り出した。

『・・・リスク、ですか?』

『確かにあのコードは他の原石の特異コードと比べても最強クラスのコードだ。だがいくらアイツの脳が人間より進化しているとは言え、膨大な情報を瞬時に処理するんだ。脳に掛かるその負担は決して小さいわけではない―――いや、むしろ甚大と言えるだろう。今回は人質に被害を出さないよう、迅速に終わらせるため使ったようだが、余程のことがない限り使うことはないだろ』

『・・・工藤補佐官はこの事をご存じなんですか?』

学校での監視任務に就く際、彼の補佐を今もしている工藤さんから彼のことについて少し話を聞いた。『とにかく変わり者』と言っていたけど私にはただの変人にしか見えない。

『ああ、実際彼女はその現場に立ち会ったらしい。それと“補佐官”という呼び方は間違っている』

『・・・どういうことですか?』

『今の彼女は工藤“第三官”だ』

薄ら笑いを浮かべ、支部長は言った。



理系科目の計算をするときに彼が途中式を必要としない理由もおのずと分かった。

私たちが計算スペースに途中式を書いて解かないと混乱してしまうような数式は彼からすれば“見るだけで解けてしまう程度のもの”なのだ。

彼の脳は『空間支配ヴォイド・ルール』というコードの影響で複雑な計算も瞬時に解けるようにできている。

そんなものに対抗心を燃やすのもバカバカしいけど、それでも私は彼を認めることができない。

高い戦闘能力と頭脳を持っているのに、その人格は堕落していて無責任極まりないようにしか私には見えない。

あれではただの宝の持ち腐れだと思う。

それに“ちょっと”顔が良くて女子にモテるからって調子に乗って機密事項をベラベラ話そうとするなんて考えられない。

体育館で初めて彼を見た後にその正体が雅式だと聞いて、私だって最初は興奮した。『人間兵器』、『赤い悪魔』、『鬼童きどう』なんて異名を持つアメリカ本部の最高戦力がこの高校に転入して、その監視役に自分が就けるなんて光栄だと思っていた。

けど実際に彼を見ていてだんだん腹が立ってきた。

まず学校に着くとすぐに眠り、授業中もほとんど寝ている。

それに非常時以外校内で第七感の使用は禁止されてるのを事前に知らされているはずなのに平気で使っていた。

そして何と言っても腹立たしいのは―――

(ただの女たらしじゃない・・・)

確かにルックスがいいのは認める。あれで頭も良く、アメリカ本部の最高戦力と聞けば女子が群がってくるのも納得できる。しかもテロ事件のとき助けてくれた恩人となれば誰だって興味を持つ。

(・・・でも、今日の朝の“アレ”は一体何なのっ!)

下級生の女子生徒に腕を引かれて登校してきたあの間抜けな姿。しかも片方は妹でもう一方は部下の妹。終いには、昇降口で見てる方が恥ずかしくなるようなことをしていた。

(シスコンで部下の妹に手を出すような男が序列第三位なんて・・・幻滅・・)

あれは相当女癖が悪いに決まっている。あんな無気力で、責任感のない女たらしが序列第三位だということが許せなくて仕方がない。

(・・・昨日の屋上でのアレ・・も・・・何かの気のせいね)

屋上で最後に感じた、あのただならぬ殺気のようなものもなにかの勘違いに違いない。きっと風邪でも引いていたんだ。

キーンコーンカーンコーン・・・

そんなことを考えている内に、授業終了のチャイムが鳴った。


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