第二十二話:年頃の男女
第十七話に書かれている『基礎第七感学』を『S2理論』に修正させてもらいました。またこんなことがあるかもしれませんが、温かい目で見てやって下さい。
「―――おはよぉ」
「おはよ」
挨拶を交わし合い、昇降口へ向かう生徒たち。
なんてことはない日常的な朝の登校の風景がそこにはある。
一部を除いては―――
「・・・なぁ、二人とも・・・くっつき過ぎだと思うんだが・・・」
「そんなことないよぉ、お兄ちゃんっ」
そう言うと式の左腕に絡めている両腕に力を籠め、さらに密着してくる妹の綾。昨日の戯れが楽しかったのか、今日はかなり上機嫌だ。
「そ、そうだよ///ま、負けてられないもん・・・」
綾ほど密着はしていないが、顔を赤くしながら式の右腕を取り、何か小声で呟いている眼鏡っ子の美紀。
(いや、美紀・・・胸が・・・)
式の右腕は美紀のそのご立派な胸に当たっており、弾力がありながらも柔らかい感触が伝わってきてどうも落ち着かない。
このように朝っぱらから美女二人に挟まれて登校している雅式。
男なら誰もが夢見るシチュエーションだが、彼はどうやらそんなおいしいものだとは思っていないようだ。
(・・・まず、歩きにくい。そして何と言っても・・・この視線・・・)
周りの生徒たちの視線が自分たちに釘付けになっている。
(・・・はぁ、なんで朝っぱらからこんなことで注目浴びなきゃいけねぇんだ・・・)
ただただ、ため息をついた。
昇降口に着くとやっと二人から解放される。1年と2年は下駄箱の場所が少し離れているのでここで二人とは別れることになる。
「むにゃあ~、お兄ちゃ~ん」
甘えた声で綾が抱き着いてきて、気持ち良さそうに胸板に顔をすりすりしてきた。
その間も多くの生徒たちの注目を浴びている。
「・・・ほら、分かったから早く教室行けって」
そう言って強固に密着している綾をどうにか引き離した。
「えぇ~、だってぇ・・・」
潤んだ、つぶらな瞳で見つめてくる妹。
(・・はぁ・・・)
「わかった、わかった。また昨日みたいに遊んでやるから、な?」
「ホ、ホント!?」
途端に表情をぱぁと明るくした綾。
「ああ、約束するから。早く行かないと遅刻するぞ」
「や、約束だよっ!浮気したら許さないからね、お兄ちゃんっ!」
もう一度ぎゅーと抱き着きついてくると、そのまま軽やかな足取りで1年の下駄箱へ向かって行った綾。
(はぁ、やっと解放された・・・)
その溌剌とした後ろ姿を見ながらそんなことを考えていると―――
「式くん・・・」
まだ後ろにいた美紀が声を掛けてきた。
「ん?美紀も早く行かないと遅刻するぞ」
「う、うん。わかってる・・・で、でもね・・」
言葉を途中で切ると、式の手を取り、自分の指を絡めてきた美紀。端から見ると恋人同士で手を繋いでいるようにも見える。
恥ずかしそうにしながらも熱の籠った視線で式の目を見つめている。
「そ、その・・・(他の女の子と仲良くしたら)ダ、ダメだよっ!そ、それじゃあまたお昼休みにねっ///」
ブゥゥゥゥゥンーーー!
そう言い残すと、物凄いスピードで1年の下駄箱へ行った美紀。
(・・・『ダメ』って・・・何がダメなんですか、美紀さん・・・?)
呆然とした表情でその後ろ姿を見ていた式なのであった。
教室に入った瞬間だった。
バッ!!
「な、なんだお前ら?むさ苦しいぞ、どっかいけ」
クラスの男子に囲まれた。そしてその中央にいるリクがおもむろに口を開いた。
「式・・・」
「ん?なんだ?」
「・・・今日から『師匠』と呼ばせてくれ」
「・・・は?意味わからんぞ」
「とぼけんじゃねぇっ!朝から美女二人に挟まれて登校とか・・・なんて羨ましいっ!どうかモテる秘訣を俺たちに伝授してくれっ!いや、してくださいっ、師匠っ!!」
「お願いしますっ、師匠!」
「どうか俺たちにもモテる秘訣をっ!」
「なんでも言う事聞くんでお願いしますっ!」
「「「「お願いします!師匠っ!!」」」」
一度も話したこともない男子にまでいきなり『師匠』と呼ばれた。
一人離れたところからその様子を見ている蒼がクスクスと笑っている。
そしてそんな男子たちにクラスの女子たちは軽蔑の眼差しを向けている。
(・・いや、綾は妹だし、美紀は近所で知り合いの子だし・・・)
「・・・・とりあえず、その『師匠』ってのはやめろ。煩わしい」
「ひどっ!式って結構毒舌だよな・・・いやっ!もしやそれがモテる秘訣『その1』なのではっ!?」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
感慨深く頷くとなにやらメモを取りだした男子たち。
(・・・・あほらし・・)
「ほ、他には何かないのか、式?」
興奮した様子で尋ねてくるリク。
「いや、そんなの知らねぇよ・・・お前ら何か勘違いしてるだろ?」
式は他人からの好意に全くもって価値を見出せないない。
それ以前に、彼は大して人間に興味を抱いていない。
人間なんて少し突けばすぐにバラバラになる、ただの肉の塊。その程度の認識なのだ。
「そんなこと言わずによぉ~、教えてくれよぉ~」
懇願するような口調で嘆くリク。
(あ~、マジしつこいな・・・)
あまりのしつこさに参ってついつい口が滑った。
「・・・金だ・・・」
「「「「・・・は?」」」」
その言葉に男子たちがポカンと口をあける。
「要するに女にかまってほしいんだろ?なら金が一番手っ取り早いだろ。財力があれば大概の物は手に入る」
当然といった口調で夢見る年頃の高校男子に世の中の現実を突きつけるようなことを言う式。
「い、いや、式・・・俺たちが聞きたいことはそういう事じゃなくて・・・なんつーか、今すぐ実践できるようなことを聞きたいんだけど・・・・」
「んなこと俺が知るか」
そう言うと自分を囲んでいる男子の群れをかき分けて自分の席についた式。そのまま机に俯せて眠りに落ちた。
「「「「・・・・・・・」」」」
その姿をただ呆然とした様子で眺めている男子生徒たち。
「と、とりあえずだっ!秘訣『その1』を試してみようぜっ!」
無理にテンションを上げているようにしか見えないリクが意気込んだように言う。そこへ背後から声が掛かる。
「あんたたち、いい加減どいてくれない?邪魔で席に座れないんだけどっ!」
結衣が不快そうな声で抗議を申し立ててきた。
(い、今だっ!)
何を勘違いしたのか、リクはそこで発動してしまった。
「う、うるせぇぞっ!この暴言女っ!お前の席なんか段ボールで十分だっ!」
秘訣『その1』を―――
(フっ、言ってやったぜ!)
そんな達成感の余韻に耽っている思考も一瞬で途切れた。
バッシーン!!
「フゲッ!!」
直後、鋭い音が教室内に響き渡った。
結衣が持っていた教材を丸めて、目視できないほどの速さで振り下し、リクの頭をしばき倒したのだ。
腹を抱えて笑っている蒼。
あまりの衝撃に意識が朦朧としているリク。そのマヌケで情けない姿を見ていた他の男子生徒は静かに悟った。
これでは逆効果だと―――
「では今から習熟度試験の結果を返すので番号順に取りに来てくださーい」
―――朝のホームルーム―――
先日あった習熟度試験の結果を担任の佐藤めぐみが生徒たちに返却し始めた。
テストの結果を確認して喜んでいる者もいれば、落ち込んだ様子の者がいるように皆それぞれの反応をしている。
「次、雅くーん・・・・雅くーん?」
名前を呼んでも取りに来ない雅という生徒。
「雅君!起きてっ!呼ばれてるよっ」
隣の席の弥が式の肩に手を置き、ゆさゆさと揺らしている。
「・・・ん?・・・高坂さん?」
ようやく起きた様子の式。
「呼ばれてるから早く教卓の方に行ったほうがいいよ」
「・・・分かった」
眠そうに目を擦りながらトボトボ教卓に向かう式。
「雅君・・・いつも眠そうだけど、ちゃんと睡眠はとっているの?」
少し心配そうな様子で尋ねてくる担任のめぐみ。
「あはは、ちょっと仕事のこともありまして、あまり・・・」
面倒事になりそうだと察知し、瞬時に嘘をついた。昨日は12時前には寝た。
「そう・・・色々大変だろうけど、睡眠はしっかりとってね」
「はい・・・そうします」
「これ、試験の結果ね。採点をつけた先生方が驚いてましたよ。『信じられない』って」
「は、はぁ・・・それは恐縮です」
「でも国語はもうちょっと頑張りましょうね。明日の放課後、この教室で補習授業を行うから残っててね」
そう言って試験結果を手渡すめぐみ。
「・・・分かりました」
(うわぁ・・・めんどくさ・・・)
内心ではそんなことを考えながら試験結果を受け取り、自分の席に戻ると再び顔を伏せて眠り始めた式。
(・・・ホントに大丈夫かしら・・・?)
その様子を見ていた佐藤めぐみはそう思わずにはいられなかった。
「―――ねぇ、雅君」
「ん?」
休み時間、隣の席の弥が声を掛けてきた。
「その・・・もし良かったらテストの結果見せてくれない?」
どこか落ち着きない様子で尋ねてきた。
「別にいいけど・・・」
そう言ってカバンの中に入っている試験結果をまとめて弥に手渡す。
「ゴ、ゴメンね。ちょっと見せてもらうね」
申し訳なさそうに言うと式の解答用紙をマジマジと見始めて数秒後、一言呟いた。
「な、なにこれ・・・・?」
数学100点、物理100点、化学100点、英語100点、S2(Seventh Sense)理論100点、地歴公民96点、国語54点。計650点。201人中3位。
(す、凄すぎ・・・・)
「え?それ雅君のテスト結果?私も見せて見せてっ!」
「私も見たいなぁ・・・雅君、いいかな?」
すると、どこからか結衣と加奈がやって来た。その後ろにも数人の女子生徒がいて、いかにも興味ありげな視線を向けてくる。
「いいよ」
「うわぁ・・・」
「すごーいっ!」
「雅君って頭もいいんだねぇ」
「ホントにすごいよっ!」
式のテスト結果を見た女子生徒たちが興奮した様子で思い思いのことを口にする。
「ホント・・・国語以外は圧巻だねっ。国語もあと6点あったら補習を免れることができたのに、おしかったねっ」
そう言ってきた結衣。
「・・・60点なかったら補習になるってこと?」
「うんっ、ウチの学校は6割取れなかったら自動的に補習になっちゃうんだぁ。でも雅君は仕方ないよっ。漢文も古文も習っていないんだから」
「うん、そうだよっ!」
「気にすることないよ、雅君」
「今度私が教えてあげよっか?」
「あっ!ずるーい!私も教えてあげるねっ!」
いつの間にか周囲を女子生徒に囲まれてしまった。
「・・・ああ、ありがとう・・・」
その熱烈な態度に気圧されて思わず苦笑いを浮かべる式。
「それにしても・・・物理と数学と化学とS2理論の解答用紙なんだけど・・・計算式や途中式が全く見当たらないんだけど・・どうやって解いたの、雅君?」
弥が尋ねてきた。
解答用紙には複雑な計算もできるように計算式を書けるスペースが設けられている。普通ならばそこに計算式や途中式を書いて答えを導きだすのだが式の解答用紙は違った。
その部分に何も書かれておらず、いきなり答えだけが書かれているのだ。
「暗算で解いたんだよ」
さらっと言った式。
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
驚きで声が出ない女子一同。
「・・・そう言えば、前の数学の授業でもあの難しい問題を暗算で解いてたよね・・・」
「普通ありえないげど・・・」
「・・・雅君なら・・」
「・・・納得できるよねぇ」
ウンウンと頷いている女子生徒たち。
「・・・でも、どうしてそんなことができるの?」
そこへ加奈が疑問を投げかけてきた。
「まぁ、なんて言うか・・・俺の“力”が関係―――――」
(・・・あ、やべ・・・)
つい口が滑ってしまった。
その言葉を聞いた女子生徒たちが目の色を変え、興味津々そうな表情で見てくる。
「・・それって・・・この前のときの?」
遠慮気味に結衣が尋ねてきた。だがその目は他の女子生徒たちと同様、興味心に駆られているような目つきだ。
実を言うと、彼女たちは自分たちを助けてくれた式のことを知りたくて仕方がなかったのだ。
それは授業や教科書でも見たことも聞いたこともない、その圧倒的な“力”についても同様だった。
第七感関係の職業に関心を持っているこの第24区の学生たちにとって、アメリカ本部序列第三位、雅式といえばそれほど興味をそそられる存在なのだ。
その彼が同じクラスに転入してきたのだからその“力”について知りたいという気持ちが誰しも心の片隅にあっても仕方のないことだろう。
しかし、彼ら原石の第七感についての詳細は各国の最高機密となっており、一般人に口外されることなどまずないため、あまりにも複雑で聞きづらい内容なので、“暗黙の了解”として全員そのことについて尋ねることは控え、知ることは不可能だと諦めていた。
だが、たった今、「しまった!」と動揺している彼を見ているとその気持ちが抑えられなくなり、思わず「知りたいなぁ」という期待を込めた目で見つめてしまう。
一度火がついてしまった年頃の少女たちの興味心はなかなか消えないものであり、その視線を一斉に浴びた式はというと―――
(・・・まぁ、実際見られたし、少しくらいいいか・・・)
逃げることは不可能だと悟り、諦めた。




