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7th Sense  作者: freeman
第一章:学園入口
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第十六話:不本意な転入

シーン・・・

不気味なほど静まりかえっている教室内。

ジー・・・

席に着いている40名の生徒たちの視線は前にある教団の方に向けられていた。

だかそれは教団に立っている女性教師にではなく教団の隣に立っている一人の少年に向けてだった。

「・・・・」

「・・・え、えー、今日からこの二年一組でみなさんと一緒にお勉強することになりました雅式君です。み、雅君、自己紹介してもらってもいいかな?」

そう言って遠慮がちに目線を向けてきた現代文担当で二年一組担任の佐藤めぐみ。

「アメリカから来ました雅式といいます。三か月間という短い間ですが、よろしくお願いします」

適当に自己紹介を終えながら式は心の中で呟いた。

(・・・何でだ?)

何でこうなった!?



―――時をさかのぼること2日前―――

アメリカ政府の発表会見から4日経った9月5日。

三か月という長期の休暇を日本で過ごすことになった式。その生活リズムはこの4日間で不規則で不健康なものに元通りとなっていた。

そして今日も夕方前まで眠っていた式の元に結理がやってきた。

「お兄ちゃん、結理さんがきたよ」

「式君、入るわよ~」

ガチャッ

「おねぇちゃんっ!ノックもなしに入ったらダメだよぉ!」

バッとドアを開けて入ってきたのは結理と綾。その後ろにはあわあわとした様子の美紀の姿もある。

「お、おじゃまします・・・」

二人の後に続いて入ってきてどこか緊張した様子の美紀。

(ここが式君のお部屋かぁ~なんだか・・・すごいシンプル)

一人部屋にしては広いその一室にあるのは、ベット1つだけという、奇妙な光景が広がっていた。

(ま、まぁこの前引っ越してきたばかりだから仕方ないよねっ!)

そう言って無理やり納得した美紀。

そして部屋に入った三人の目に映ったものは布団を頭から被って眠っている、式と思われる塊。

「・・・・・」

バッ!

それを見た結理は何も言わず、布団を掴むと思いっきり引き剥がした。

その光景を美紀は驚いた様子で見ていた。

以前は毎日姉が式を起こしに行ってると聞いていたが、まさかこんな起こし方をしていたとは思いもしなかったのだろう。

「ん゛~・・・・なんですか・・・?」

布団を奪われ、その姿が露わにされた式はゆっくり状態を起こし、ボーとした様子でこちらを見ている。

「・・・ホントいつまで寝てんの?あぁ~!情けない・・」

まるでニートの息子に絶望した母親のように結理はうれいた。

「いいじゃないですか。休暇中なんですから」

「・・・まぁいいわ。それより今すぐ着替えて頂戴。今から日本支部へ行くから」

「・・・なんでですか?」

「支部長から昼間は寝てるだろうから夕方頃にあなたを連れて来てくれって言われたの」

「さすが海場さん―――気前がいいな、アリスとは大違いだ」

「―――ッ」

―――ピキンッ

その名前を聞いた途端、綾の雰囲気が変わった。

「・・・お兄ちゃん、今“アリス”って聞こえたんだけどぉ・・・それってもしかしてあの淫乱女・・・のこと?」

笑顔で兄に問いかけてきた妹。しかしその声はどこか冷めていて、なんとも言えない威圧感をその場にいた結理と美紀も感じている。

(・・・しまった、コイツの前でアリスの話はタブーだった・・・)

ツゥー

一筋の汗が頬を流れた。

「ねぇ・・・なんとか言って、お兄ちゃん」

―――スッ・・・

そう言って綾はベットに片足をついて迫ってきた。

(・・・逃げよう)

バッ!

即座にベットから勢いよく起き上がると、そのまま一直線にドアを目指す式だが―――

「なぁーっ!?」

ドアの前には驚いた様子の美紀が突っ立ていた。

「すまん美紀っ!そこをどいてくれっ!」

「え?えぇっ!?」

いきなりの出来事に慌てふためいてオロオロしている美紀。

そしてもう少しでドアに迫ろうとしていた瞬間だった。

―――ガシッ

「―――ッ!?」

いきなり右手首を掴まれた、振り向いて相手を確認する必要などなかった。

「・・・どこに行くの・・・お兄ちゃん?」

悪寒を感じさせる綾の声が耳元で囁かれた。

「―――ひぃっ!」

(・・・終わった・・)

グラッ・・・

直後、走った状態のままいきなり手首を掴まれたので勢い余って前のめりに体が倒れ始めた。

「「―――え?」」

そんな式の目の前には美紀がいた。

―――ドタンッ

その場に式と美紀の二人は倒れた。下になっている美紀の上に式が乗っかっている状態だ。

むにゅ・・・

(・・・なんだこれ・・・すっげぇ柔らかい・・・)

目の前が真っ暗で何も見えないが顔面に柔らかいものが当たっている。

「―――///」

顔を上げると目の前に顔を赤くし、瞳を潤ませて恥ずかしそうな表情を浮かべている美紀と目が合った。

―――バインッ

式の顔面は美紀の立派な胸に埋まっていた。

「・・・あの・・美紀・・・ごめん・・・ケガないか?」

「う、うん、だ、大丈夫だよっ///」

「そうか・・・ホントにごめん・・・立てるか?」

そう言って立ち上がり、美紀に手を差し伸べる式。

「え?あ、うん・・・ありがとう///」

恥ずかしそうな表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうな顔で式の手を取り立ち上がる美紀。

(式君の手・・・とても冷たい・・・)

握った彼の手はとてもひんやりとしていた。だがその冷たさにどこか心地よさを感じずにはいられなかった。

(ふわぁ~・・・)

そんな感じで美紀がその魅力に陶酔していた一方―――――

(・・・これは・・・結理さんよりデカいな・・・)

式はそんなことを考えていた。それほど美紀の胸に衝撃を受けたのだろう。

(まさに・・・圧倒的破壊力)

直後―――

ズオォ―――

「―――ッ!?」

背後から二つのドス黒い殺気を感じた。

「ぬぁーにエッチなこと考えてるのぉ~お兄ちゃん?」

「わぁーるかったわねぇ・・・妹より小さくてぇ~」

2人の鬼がそこに立っていた。

「ふ、2人とも・・・人の心を読める第七感でも持っているのか!?」

(―――あ・・)

つい口が滑った。それが命取りだった。

「へぇ・・・本当にそんなこと思ってたんだ・・・」

「わたし以外の女の体に欲情するなんて・・・お仕置きが必要だね、お兄ちゃん」

(・・・あ・・・終わった・・・)

今度こそ式は諦めた。

ガッ!ドゴッ!バシッ!ぺチンッ!

「ぎゃあ―――っ!」

直後、とても文章では表せないような惨事が始まった。



「―――どうした?顔色がよくないぞ。具合でも悪いのか?」

「・・・いえ、大丈夫です・・」

まるで生気を失ったような表情の式。彼の隣にいる補佐官はその様子に目もくれず無表情で立っている。

2人の様子を見て理由を察したようで、薄ら笑いを浮かべる日本支部長、海場宗次。

「・・・そうか、まずは先日の任務ご苦労だったな。さすが本部お気に入りの原石といったところか・・・本部がお前を手放したがらないのも頷けるよ。是非ともウチに来てほしいくらいだ」

穏やかな口調で言う海場だが、最後の言葉はどこか本気を感じさせるものだった。

「・・・そんなの本部が許しませんよ。第一、ここにはあなたがいるじゃありませんか、海場さん」

日本人で二人しかいない、もう一人の原石に向かって式は言った。

「いや、俺ももう50前だからな。初老の体に実戦はこたえる。それを考えたらまだ17歳のお前がこれからどうなるかと想像するだけで恐ろしいくらいだ」

そう言った彼だがその見た目はどう見ても50前には見えない。30代半ばと言われても誰も疑わないだろう。

また、その渋い雰囲気から女性職員からの人気も高いらしい。

「・・・よく言いますよ」

他に言うことが見つからず、ため息をついた。

「・・・・」

そんな二人の会話を間近で聞いていた結理はどことなく緊張していた。

普段家ではだらしない彼だが、今はあの支部長と対等な立場で会話をしているのだ。その姿から日頃のぼーとしている雰囲気は全く見られず、凛とした風貌は支部長と同様に只者ではない風格を感じさせる。

そんなに自分がさきほど怒りにまかせてやってしまったことを思い起こすと、思わず寒気がした。

本来なら自分のような下っ端が聞けるはずのない、彼らの高度な会話を聞いてると、自分がこの場にいることに違和感を感じられずにはいられなかった。

「では本題に入ろうか―――式、三か月ほどここで休暇を過ごすらしいな」

「ええ、ホントならフィラデルフィアへ帰ってもいいと思ったんですが、せっかく綾が高校に行ける機会をいただいたので、ここで過ごすことにしました」

(・・・なんだかんだ言って・・・妹思いのしっかりしたお兄ちゃんなのよね♪)

結理は式の言葉を聞いて小さな笑みを浮かべた。

「そうか。それは結構なんだが、問題はお前の身辺についてだ。今24区は原石と報じられたお前が来ているという話題で持ちきりだ。メディアや報道陣はこちらのほうでなんとか押さえているが、念には念を入れておきたい。そこで工藤に引き続きお前の身の回りの補佐をしてもらおうと考えたのだが、引き受けてくれるか、工藤補佐官?」

「え?は、はい。問題ありません」

海場の言葉に少し驚いた様子の結理だが断る理由もない。

「式、お前はどうだ?」

式に目を向ける海場、結理も思わず式へ視線を向けた。その返事が気になり、自然と心拍数があがった気がした。

そして彼は言った。

「ええ、結理さんなら構いませんよ。」

素っ気ない様子で言ったが、彼の口から出た意外な言葉を聞いた瞬間、安堵の気持ちとその言葉を聞いて喜びを感じている自分がいたことに気づいた。

「ははは、どうやら気に入られたようだな、工藤補佐官」

少しからかい気味に言ってきた海場。

「・・・///」

結理の顔は少しばかり赤くなっていた。



「え?今なんて言いました?」

スパゲッティを食べているフォークの手をピタリと止め、結理のほうを見る式。

「だ・か・ら、式君も綾ちゃんと一緒に第一高校に通えばいいじゃないっ!」

ニコりと笑いかけてきた結理。

「・・・なるほど、俺を学校に通わせれば、その間仕事をサボれると考えたわけですか・・・なかなか腹黒いですね、結理さん」

しれっと言う式。

「あんた・・・今人の善意を踏みにじったって自分で分かんないの?」

拳に力を入れ、キッと式を睨みつける結理。対して睨まれた本人はと言うと―――

「・・・は?善意?なんのことですか?」

全く悪意を感じさせない表情で言ってのけた。

(―――ホンット!このクソガキは!)

怒りが爆発しそうな結理だったがなんとか堪えた。すると式の隣に座っている綾がうなるように言った。

「結理さん・・・それ、Nice idea!」

身を乗り出して満面の笑みを浮かべて彼女は言った。そして結理の隣に座っている美紀も―――

「私も・・・いいと思う」

控えめにそう言ったが、明らかに何か期待している様子だ。

現在4人は日本支部の食堂で少し早めの夕食を取っていた。式と結理が支部長室にいる間、綾と美紀には食堂で待ってもらっていた。日本支部の食堂は職員の家族でIDを持っていれば、誰でも食事をとることができる。

「式君、せっかくの休暇かもしれないけど、三か月もあるんだから普通の学生生活を味わってみるのもいいんじゃない?綾ちゃんだけでなく、あなたにもその資格はあると私は思うわ」

少し真面目な顔つきで正面の少年に言うと彼も顎に手を添えて悩んだ様子で言った。

「ん~、でも俺・・・・」

それから先を口に出さない式。

(そうよね・・・・色々心配事もあるわよね・・・)

テロ事件から1週間が経とうとしているが、事件後臨時休校となっている第一高校は2日後に通常通り学校を再開することになった。

テロリストに占拠されたにも関わらず、こんなに早く学校を再開できるのは間違いなく彼が犠牲者を一人も出さずに、素早く事態を終息させたおかげと言っていいだろう。

だがあの場にいた650人近くの生徒や教職員に相手がテロリストとはいえ、人の命を手にかけた現場を見られたのだ。さすがに彼でもそんなことがあっては学校にも通いづらいのだろう。

「・・・気持ちは分かるわ、式君。なら別に第一高じゃなくて、第二高でもいいんじゃない?第一高よりは少し遠くなるけど、私が責任を持って送迎してあげるから、ね?」

「え~、じゃあわたしもそっちの高校にいきたいなぁ」

そんなことを言っている彼の妹。すると彼がおもむろに口を開いた。

「ん~、でもなぁ・・・・」

まだなにか悩んでいるようだ。

(まだ何か悩みごとがあるのかしら・・・・)

「式君、他に悩み事があるなら言ってちょうだい。私で力になれるかどうかわからないけど、これでもあなたの補佐なんだから困ったときはいつでも相談してくれていいのよ。私で良ければ協力するから♪」

優しい笑みを浮かべて結理は言った。

彼は人に頼ることを知らない。今まで全て一人でやってのけてきた。彼を見てるとそんなことを思うことが何回かあった。

こういう時くらい彼のために役立ちたい、そう思っている自分がいる。

結理の言葉を聞いて決心がついたのか、彼女をまっすぐ見据えて式は口を開いた。

「あの、結理さん・・・・・」

「な、なにかしら?」

やっと彼が自分を頼る気になってくるたのかと思い、どこか嬉しそうな様子の結理、だが彼が放った次の言葉でその表情は崩れた。


「俺、基本的に朝起きるのとか、無理なんですよねぇ~」


「・・・んだと・・?」

「・・・え?」

「んだと!こんクソガキがぁ―――ッ!」

「ひぎゃ―――っ!」


俺がそう言った瞬間、結理さんはいきなりキレだして、結局俺は無理やり・・・・この第一高校に通わされることになってしまった。

(“悩みがあれば言ってくれ”っ言われたから言ったのに・・・・理不尽だ)

「そ、それじゃあ・・・雅君は窓側の一番後ろの席に座ってくれるかな・・・?」

クラス担任の佐藤という女性が遠慮がちにそう言ってきた。

「分かりました」

言われた通り窓側の一番後ろの席に向かって歩き出す式、その時、自分に向けられていたクラスの女子生徒たちの熱の籠った視線に彼は気づきもしなかった。

こうして雅式は不本意ながらも“普通の学生生活”を送ることになった。







「ジャンルが『学園』なのに学園出てこないじゃん!?」と思った方、お待たせしました。

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