プロローグ:ダイビング
―西暦2028年、8月18日、現地時間午後11時27分-
ゴゴゴゴゴ――――ッ
サウジアラビア西部、へジャス地方の都市メッカ。イスラム第一の聖地であるこの都市の上空12000メートル上を、一機の軍事輸送機が飛行していた。
「―――間もなく降下地点に到着します」
薄暗い機内の後部座席に座っている男が立ち上がり、声を掛けてきた。
迷彩柄の戦闘服を着ている身長180センチは優に超えている大柄な男だ。その外見から彼が軍人であることは誰が見ても分かるだろう。
「―――わかった」
返事をして立ち上がったのは男の正面に座っていた人物。
男とは違い、黒を基調とした赤いラインが入っている軍服のようなものを着ている身長170センチくらいの黒髪の少年である。
手にはフルフェイスの黒一色で統一され、眼部にV字型のバイザーが付いたマスクを持っている。
カツカツカツ・・・
少年は立ち上がるとそのまま機内の後ろへ歩みを進め、後方ハッチの前で足を止める。
「ハッチ開きます!」
ブワアァ―――ッ
背後にいる男が手に握っているレバーを上げるとハッチが開き始め、機内に耳を塞ぎたくなるような風切り音とともに冷たい風が流れてくる。
ハッチが完全に開くと、眼下には見渡す限り暗闇に染まった夜空が広がっている。
「うぅ~、寒っ!」
寒さで体を身震いさせるとすぐさまグローブをはめ、手に持っているマスクを頭にはめる。
―――ヴーン
するとマスクが機械音を発し、眼部のモニターに様々な情報が表示され、少年の視界にはこれから向かう戦場へのナビ情報がバイザー部分のモニターを介して確認できる。
「ではまた回収地点でお会いしましょう」
『あぁ』
マスクに内蔵されているマイクから発せられる、本来のものより少し機械音が混ざった声で返事をすると――――――
―――バッ
少年はそのまま大空に身を投げた。
黒一色の眼部バイザー奥の二点から“赤い光”を放ちながら―――
―――ズアッ
そのまま少年は夜闇の中へと消えていった。
「・・・はぁ」
少年が飛び降りたのを確認すると、男はレバーを下げる。ハッチが完全に閉まると機内は静まりかえった。
「パラシュート無しで飛び降りるなんて・・・イカれてやがる」
非現実的な状況を目の当たりにして男は思わず呟いてしまった。