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7.孤独の中、人間の距離

一生の中で剣を突きつけられる経験なんて果たして何度あるのだろう。

平和な日本に居たらお目にかかれないレアケースだけど、ぜんぜんうれしくない。


中庭に下りて散歩していたらカイルザーク王の姿が見えた。

月夜に浮かぶカイルザーク王は見れば見るほどに端正な顔立ちで、完成された一枚の絵のような美しさだった。

おとぎの国の皇子様。

誰も寄せ付けない孤高の存在。

ただあのまつげの長さは反則だと思う。

毎朝ビューラーで必死にあげあげしてる世の女子にねたまれそうだ。

そんなことを考えて少し身動きした瞬間だった。

気がついたら目の前に剣の切っ先があって思わず腰を抜かしてしまった。



王はなんていったのかぜんぜんわかんないけどとにかくすごい殺気で、あたしは一気に逃げ出した。

怖かった。

剣を突きつけられたこともだけれど、何よりも王の目に憎しみにも似た感情が宿っていて、それを自分に向けられてたことが怖くて悲しかった。


あたしは人に嫌われることに過敏に恐怖をいだく傾向にある。

自分には身内がいない。

何かあったとき無条件で自分を受け入れてくれる家族はもうどこにもない。

だから他人にそっぽ向かれるのと自分の存在そのものの居場所がなくなってしまうような気がして、たまらなく不安になる。

だから嫌われないことはあたしにとってすごく重要だった。それは好かれることよりもずっと。人に嫌われないように、敵を作らないようにうまく生きてきたつもりだ。

誰とも深く付き合わない代わりに、誰ともある程度まで仲良くなることで。

「蓮って底抜けに明るいよね。」「もうバカなんだから。」

そんな風に呆れられるようにいじられることでくそ真面目な一面とバランスをとれると満足していた。

自分を分かって貰いたいなんて思わない。

好いてもらう必要なんて感じない。

同情なんていらない。

哀しい気持ちを孤独を分かち合う人なんていらない。


ただあたしを嫌いにならないでいてくれさえすれば。

薄っぺらな付き合いでもいい。

ただ今を笑って過ごせれば心が泣いていてもいいの。

どんなことでも笑って我慢して。

それにつらいなんて思えないくらいにあたしの性格として染み付いていて、

そのせいで、まじめすぎる、肩の力を抜けってよく言われるけど、素の自分を出すほうがよほど怖い。

それが否定されたとき、自分に何も残らない。

そのときどんな風に生きていけば良いのかわからない。

だからかわいくないって言われても、片意地張り過ぎっていわれても、何があってもひとりで生きていけるくらいに他人と距離をとって生きていくしかないと思ってる。

他人との距離感に敏感すぎるのはあたしの悪い癖だ。


言葉が通じないせいで、その距離感を誤ったのかもしれない。

言葉も通じないこの世界は想像以上にストレスだった。

わけわからない自分にここの人たちは良くしてくれていると思う。

でも自分の希望ひとつうまくつたえられないこの状況はストレス以外の何者でもない。


あたしはただベッドの中でまんじりともせずに丸くなって朝を迎えた。





この城は馬鹿みたいに広い。

トイレひとつとっても、あたしの1Kのアパートの4倍くらいはありそうで、気を抜くとすぐに迷ってしまう。

いつもはマリーナやコリーンについてきてもらうのだけれど、昨日の今日で凹んでるあたしには今は一人の時間がほしかった。


図書館はいい。

古い本特有の紙の埃っぽいにおいが落ち着く。

この紙のにおいは会社の資料室を髣髴とさせる。

仕事はどうなっているだろう?

まだやりかけの仕事が大量に残っているのに。

無断欠勤でクビになったらどうしよう?

帰れるのだろうか?

あの世界に。

何の夢も希望もないあたしだったけれど、あの世界に今は死ぬほど戻りたい。

日本語が話したい。

味噌汁が飲みたい。

米が食べたい。

ビールとたこわさで、部長の悪口を言いながら同僚と酒盛りがしたい。

部長のはげあたまですら懐かしく思える。

当たり前の毎日がすごく恋しくてちょっと泣きそうになってあたしは机に突っ伏した。



カイルザーク王はどういうつもりであたしをここにおいているのだろう。

顔は超絶イケメンなんだけど、気難しい人。家族の前では笑ったりするのかもしれないけど、そんなのとても想像できない。

ただ彼はあたしがここに居ることを彼は快くは思っていないだろうことは容易に想像ができた。

憎しみさえ感じさせるあの目が物語っていたから。


人に嫌われるのはとても辛い。

自分の居場所が無くなってしまうみたいで。

どうやってたっていればいいかすらわからなくなってしまうから。

だから言葉が幾分か話せるようになったら城を出て自活しよう。

もう帰れるのかどうかわからない。

だとしたらここでこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

自分で生きていけるだけの力を身につけよう。


あたしは顔を上げてすっかり習慣になった勉強に励もうと、おなじみのテキストを手に取った。

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