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16.利用

どれくらい時間が経ったのか、目が覚めると既に陽は傾きかけており、おばあさんの姿はどこにもなかった。

ただおばあさんがいた事が夢ではない証拠に、おばあさんが腕にしていた水晶の腕輪が、あたしの腕にはめてあった。

水晶の腕輪はずっしりと重い…


残酷ね。

あれが夢だったなんていう現実逃避もさせてくれないなんて。


口に浮かぶのは小さな笑み。


こんなとき、どんなふうに感情を出していいのかわからない。

ただ混乱していた。


わけのわからない伝説になぞらえて殺される?

王様の願いゴトを叶えるために?

ただそのためだけにここにいる?



あたしみたいは異質な人間を何も言わずに城においたのも、

この城の人が親切だったのも、

全部そういうことだったの…

きっと何も知らない異世界人を殺すことへの罪悪感、同情、哀れみ…

王様が言ってた”利用”ってそういうことだったんだわ。


あんなふうに笑って、あたしのご機嫌をとって、

結局は油断させて殺すためだったの…


ああ、あたしまた間違えたわ。

距離の取り方を。

こんなふうに失った時の心の痛みを軽くするように、人とは一線をおいてきたのに。

なのに。

事実を知って今あたしは立っていられないくらいに辛い。

ああ、また間違ってしまった…

あたしは…この先どうやって心を保てばいい?



でも、あたしも結局は利用していた。

自分の居場所を、存在意義を見つけるために、

自分よりも弱っている人を、かわいそうな人、孤独な人を見つけて、

ああ、私はひとりじゃないって。

あの売春街の女の子を、

王様の孤独を

わかったフリして、

慰めたいって。

本当は凛と胸を張っているあの人が眩しくて、嫉妬してた。

本当は自分よりも不幸な人を見つけて安心してた。

偽善も甚だしいわ。





部屋に帰ってもまだあたしはぼんやりしていた。

誰にもそばにいて欲しくなくて、ただ目を伏せてじっとしていた。

考えれば考えるほど、いらだちとそして自己嫌悪と、絶望と、いろんな感情が入り混じって一向に整理つかないのだ。


ふと物音がして顔を上げるとコリーンがそこにたっていた。


「レン様におりいってお話したいことがございます。」


正直頭で言葉を探しながら話すのも億劫でぞんざいになってしまう。

今はそっとしておいて欲しかった。

あんな話を聞いて笑っていられるほどあたしは大人じゃないし、

自分を殺そうとしている人たちに、大人になる必要も義理もないと思う。


「何?」


「陛下にこれ以上お会いにならないでいただきたいのです。

陛下にはまだ決まったお妃もおられぬ身ゆえ、お客人のレン様と噂が立つようなことは避けたいのです。」


コリーンは息も乱さずに冷静に言った。

この人はきっとまゆひとつ動かさずにあたしを殺せるんだろうな、そんなふうにさえ思う。

お客というフレーズに意地悪い笑みが浮かんでしまうのを抑えられなかった。


「具現者の間違いでしょう。」


「!」


コリーンの形の良い切れ長の目が本の一瞬揺れた。


「コリーン、隠さなくていい。

私は、願いを叶えて、殺される、のでしょう?」


「っ!」


コリーンが狼狽する様子に少し溜飲が下ったような気がしてしまうあたしは性格が悪いのかしら。


「どこで、それを?」


「図書館で、おばあさんが、教えた。」


その様子じゃ本当ってことなのね。


「…確かに、あなた様は天が遣わした具現者です。

時が来れば陛下の願いをその命をもって叶えるでしょう。

我王の、国の安寧というその願いのために。」


コリーンは腹をくくったのかあたしにご丁寧に説明をする。

下手な言い訳をしないこの人はきっと潔い人なんだろう。


「一つ言わせて。

よその人間一人の命で、どうにかなる問題なんて、たいしたことない問題。

逆に、一人の人間の命一つに頼らなければいけない国なんて遅かれ早かれ、滅びる。」


あたしはコリーンの目を見据えてゆっくり言葉を選んで言った。

国の平和が一人の人間の命一つでどうにかなるはずがない。

この有能な参謀がそのことに気がつかないはずがない、

逆にそこに頼らざるを得ないくらいに逼迫しているのかもしれないけれど。


コリーンは一瞬何か言いたげに口を開いたけれどすぐに閉じ、大きく息を吐いて目を伏せた。


「…あなたの言うとおりです。

だが私たちはその愚かな予言に頼らざるを得ないのですよ。


あなたは今から逃げ出さぬように、北の塔で監視させていただきます。」


そうしてあたしは北の囚人を監視するための部屋に移され、文字通り囚われの身になったのだった。


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