プロローグ
大地怒りて、人心乱れ、国は終焉の危機迎えしとき
暁の女神、地上に舞い降り、王の願いを遂げる、
その命をもって。
女神の血が大地に落つる時、わが国光に満ち、悠久の平和を、得るだろう。
この王、稀代の覇者にして賢帝となる。
王の統べるこの国は長きにわたり平和と栄光の光に包まれるだろう。
サラシュワイル皇国創世記より
「時は満ちました。」
しわがれた声は私が物心ついた時から変わらぬ。
この老女が果たしていくつなのかは誰も知る者がいない。
もう何百年も生きたのではないかとさえ思えるその老木の樹皮のような皺だらけの顔をゆがませる。
かろうじてこの老婆が笑ったのだとわかる。
この国の最高預言者。
決して外れぬといわれるその預言。
先王もその予言にすべてを託し、自らの最期すらもおびえていた。
そしてその予言通りの最期を迎えた。
「明日…暁の明星のぼりしとき、
この世ならぬ世界から王の願いを叶えし伝説の女神が降り立つ。
その者その命を賭して王の願いを叶えるだろう。」
この最高預言者の預言は決して外れたことがない。
そして私は創世記に記されたこの一説がわが運命を表していると生まれた時に預言された。
私の人生はこの予言に呪縛されているのだ。
私は眉をひそめ、小さく息を吐いた。
女神とやらの命を、犠牲にしなければ国を救えぬなど愚帝でしかない。
この預言にがんじがらめにされているのを感じる。
「王よ。今こそ願いをかなえしとき。
我が国に光あれ!!」
預言者の老婆が天を仰ぐ。
空には月。
明日の朝預言が正しければあらわるのか?
私の願いをかなえるという暁の女神が…。
私は寝不足で脈打つ瞼を伏せて、そっと息を吐いた。