爆弾陛下と龍神 地雷
「まったく、あんたと一緒にいてろくな目に遭ったことないぜ、俺?」
深く溜息をついた彼に、反論する。
「何よー、文句ないでしょ。責任とってちゃんと柳鏡のお嫁さんになってあげたじゃない」
「いや、もらい手がなかったらあんたがあまりにも哀れだから、俺が仕方なくもらってやった、って説の方が有力じゃないか?」
むうっとむくれてみせるが、口ごたえはできない。確かに、どちらかというと彼の説に近いのだ。その様子を見て、彼が勝ち誇ったように笑った。それから、また日記のページを繰り始める。
「勝って気分もいいし、どうせだから、あんたの嘘も暴いておこうぜ? これだけ詳しく書いてあるなら、多分日記つけてあると思うから……」
「何よ、いつ?」
彼の手から日記を取り上げて、今度は細い指がそのページをめくり始めた。
「あんたが五歳の、八月……」
「はい、どこかこの辺」
そう言って彼の手に日記帳を再び押しつける。この際、彼の機嫌が直ればなんでもいい。
「お? あった。これだ、これ」
「なになに? 五歳、八月五日。今日は、柳鏡がお城にうさぎを連れて来てくれました。ああ、あったね、そんなこと。それで? ……白くてふわふわであったかくて、とてもかわいかったです。……あら? もしかしたら、柳鏡の悪口を書いてない日じゃない? 珍しい……」
「あんた、自分がどこにいるのか覚えていて言ってるんだろうな……?」
彼女がいる場所は、彼の膝の上。つまり、彼の手が十分に届く場所なのだ。
「あ、冗談、冗談。うーんと……とても嬉しかったので、思わずうさぎにちゅーしました。あっ、これのこと? あの時私が初めてだって言ったら、柳鏡、嘘だ、って言ったよね?」
「はっ? うさぎっ?」
彼が慌てるのも無理はない。そこには、彼の記憶とは少々異なることが綴られていたのだから……。そのまま続きを読む。
「ほら、続きに書いてあるだろ。そしてその後……、は? その後っ?」
彼女が、ハッとした。どうやら、その時のことを思い出したようだ。
「あ、そうそう。お父様に見せに行こうと思って走って行く途中で、うさぎにしたの! それでその後、柳鏡にもお礼をしなきゃ、と思って……」
頭が、真っ白になってしまった。
「俺……うさぎの後かよ……」
とんだ誤算だった。彼の中に残されていた甘酸っぱい記憶は、まがいものだったのだ……。そして、それに長年騙されていた……。思わず、肩を落とす。
「あ、ほら。でも、人間で初めては柳鏡だよ。これは本当!」
「嬉しくねえ……」
一生懸命に彼を慰めようとするが、どうやら彼は相当な打撃を喰らってしまったようだ、当分は立ち直れそうもない。
「ほら、いいじゃない。柳鏡がくれたうさぎだったんだし。うさぎ、かわいいからいいよね?」
彼女のその言葉で、彼が顔を上げる。その目は、完全にいってしまっている……。
「いつか、辰南中のうさぎを狩り尽くしてやる……」
どうやらこの日記帳のせいで、彼のうさぎ嫌いには余計に拍車がかかってしまったようだ。
「ダメだよ! 龍神が弱い者いじめなんかしちゃダメ! うさぎ、かわいいじゃない!」
「かわいくねえよ! 最悪だ! いいか? あんたは人に馴れたうさぎしか知らないからそんなこと言えるんだ。あのうさぎだって、最初は最悪だったんだぞ! 人のことを蹴るわ暴れるわで、あんたと同じ位ひどかったんだ!」