表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/144

爆弾陛下と龍神 追憶

 やがて景華が諦めたらしく、大人しく動かなくなった。それで柳鏡もやっと彼女の頬を放した。彼女の指先が、懐かしむようにその表紙の押し花を撫でる……。

「確かこれって……」

 柳鏡の視線も、白い指先に当てられた。

「ああ、確かこの前趙雨たちと話になったよな。あんたが人騒がせにも行方不明になった時に持ってた花だろ?」

「う……。人騒がせ、は余計! しかも、あの花じゃないし……」

 口を尖らせて、それでもその表紙の花は優しく見つめる。しかし、あの時以外に彼女がこの花に触れる機会があっただろうか。城の庭園にある花ではないのに。

「じゃあ、いつのだよ?」

 いつ彼女が他に城を抜け出す機会があったのか、と思って訊ねる。もし彼女があの後も城を抜け出していたのなら、自分の管理不行き届きだ……。

「覚えてないの? あの後、柳鏡がいっぱい持って来てくれたじゃない。私が持って来たのはしおれてひどかったから、柳鏡がくれたやつで押し花したの。あ、日記にもつけてあるかも」

 二人で、そのページを探す。四つの目が、どんどん後ろに行く程幼くなっていく文字を見て行く。

「あれ、何歳の時だったかしら……?」

「あんたが六歳の時だぞ。……お、これじゃねえか?」

 柳鏡が、あるページを指差した。六歳の少女が書いたにしては、美しい文字が記されている。

「あんた、字だけは綺麗なんだよな」

「少なくとも、読めない、ってことはないわね」

 これは嫌がらせ。彼の絵画作品・・・・、ゲテモノ協奏曲、に対する……。

「あんた、まだあのこと根に持ってたのかよ……。読むぞ? 六歳、七月十二日。今日は、珍しく柳鏡が優しくて気持ち悪かったです。……この頃から良い根性してるな……。私が欲しがった花を、たくさん持って来てくれました。もう行方不明になるなよ、なんて言われました。余計なお世話です。……さすがあんただな……」

 あはは、と笑って誤魔化す。確かに、今とほとんど変わっていない。いや、今の彼女がこの頃から一つも変わっていないという言い方の方が、正確なのだろうか。

「でも昨日も助けに来てくれたし、今日も花を持って来てくれたから、柳鏡は本当は優しいのかもしれません。……前言撤回です。散々文句を言われたのを忘れていました。……あんた、死にたいのか……? 今日はこれで終わります」

「あっ、柳鏡が助けに来てくれた時のこと、覚えてるよ!」

 あまりにひどい日記の内容だったので、彼の思考を切り替えるために別のことを言う。彼女の思惑通り、彼の思考は、彼女の言葉に絡め取られた。

「あの時、暗くなっちゃって怖かったんだ。あれから暗いのが怖くなったの……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ