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爆弾陛下と龍神 日記

「……」

 無言でページを繰り続ける彼の指先に、だんだんと力が込められて行く。不穏な、空気……。

「おい……」

 無視。なるべくなら、今は彼に近付かない方が良い。

「うぉい、こら」

 歌を口ずさみながら、片付けに集中しているふりをする。だんだんと、彼の周囲に暗雲が立ち込めて行くのがわかる。

「景華さん? シン景華さん?」

 彼に名前で呼ばれたのは、かなり久しぶりだ。最後に呼ばれたのがいつだったのかも覚えていない程……。本当は喜んで返事をしたいが、今は堪える。

「ダメか? じゃあ、女王陛下?」

 笑顔が、冷たい。だが、彼はなんとしても景華に返事をさせるつもりらしい。ついに、年貢の納め時だ……。

「な、なあに? あなた」

声が緊張で上ずる。普段から彼をあなた、なんて呼んでいる訳ではないが、ご機嫌取りのために旦那様扱いをする。

「ほう、ちゃんと聞こえてたんだな……。ちょっとこっち来いや……」

 笑顔なのに、冷たい物が内包されている。彼の手招きが、怖い……。

「あ、えっと……荷物の山から抜けるのが大変で……」

「さっきこれを取りに来た時は早かったよな……?」

 苦笑して苦しい言い訳をする彼女に、手に持った日記帳を指差して示す。万事休す、だ……。恐る恐る立ち上がって、彼の方へ歩く。

「ほら、ここに座れ……」

「え、遠慮するわ。私重いから、柳鏡大変でしょ?」

 自分の膝の上に彼女を招く彼にそう答えて、ギリギリその手が届かない所に正座する。

「いいから。遠慮することはないぞ?」

 黒い笑顔で、彼がそう言う。

「あ、謹んで辞退させていただくわ」

 死にたくない、という一心で、彼に断りを入れる。

「俺はあまり気が長い方じゃないんだがなぁ……。怒らない内に、素直にお兄さんのお膝に座っておいた方が身のためだぞ……?」

 いや、醸し出している空気がすでに激怒していますよ、お兄さん……。そんなことを思っても、言ってしまえば大剣の錆にされてしまうので、口を固く閉ざしておく。

「ああ、ご希望なら俺がそっちに動いてやることも可能だが、そんなことをすればただじゃあ済まないこともわかっているよな、奥さん?」

 なあに、あなた? に応酬すべく発動した奥さん、という言葉。完敗だ。いや、彼に勝とうと思っていた彼女が間違いだったのかもしれない。死刑台への階段を登るように、ゆっくりと彼の元に動く。

「さあ、説明をしてもらおうか? これは、一体何だって……?」

「に、日記帳……」

 彼の手の届く範囲に移動するや否や、即効で捕らえられてしまった。もう、逃げられない。

「ほう、これが日記帳か……? だが、俺が見た所これには……」

 ぶにゅっ。彼の空いている右手に、頬をつままれてしまった。ぐにぐにと、何度も引っ張られる。

「俺の悪口しか書いてないじゃねえか! どういうことか説明してもらおうか、なぁっ?」

「ぼ、暴力反対ーっ!」

「問答無用っ!」

 バタバタと暴れて彼の膝からなんとか逃れようとする景華を、しっかりと捕まえる。

 彼女の日記帳は穴を開けた紙を集めてひとまとめに綴じたもので、最新のページは彼女がこの城を脱出した当日を含む一週間のものだった。

「よくも毎日毎日ここまで違うことが書けたな!」

「だって柳鏡が毎日毎日違う意地悪をしたんだもん!」

「言い訳するんじゃねえ!」

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