わがまま陛下と龍神 一年
そして、柳鏡が優勝した大会から一年の月日が流れた。
「ちょ、ちょっと柳鏡っ、起きて! 柳鏡っ!」
朝の廊下に、元気な声が響き渡る。
「何だよ、うるせえな……。もう少し寝かせてくれよ……」
「ダメーっ! 朝食の時間があと半刻しかないの! また朝御飯抜きになっちゃう!」
相変わらず寝起きの悪い彼を、布団を捲って無理矢理起こす。どうやら、彼らの寝坊は九日後の朝だけに限らず、常習化してしまったようだ……。
彼は恨めしそうに彼女を見上げ、乱暴に起き上がってから大きく欠伸をした。
「面倒だなぁ……。あんたが調子に乗って作った時刻法を撤廃すればいいんじゃないか? それに、朝食位抜いたってどうってことないだろ?」
「ダ・メ・な・の!」
いい加減な彼の様子に、景華は猛反対した。
「規則正しい生活を国民に勧めるなら、まず私たちがお手本を見せなきゃ。それに、朝食抜きだったら気分が悪くて、おぇー、ってなるでしょ?」
その時、彼女の口内に何かが込み上げてきた。慌てて口元を押さえる。何とか治まったようだ。
「うぇーっ……」
柳鏡は、単に景華が戻す真似をしただけだと思っていた。しかし。何かがまた、喉元までせり上がってくる……。彼女は、口元を押さえて今度は俯いてしまった。それも治まってから、彼を見上げる。
「気持ち悪い……」
「ほう、人の顔を見て気持ち悪い、か……。朝から人に喧嘩を売るとは、良い根性だな……」
「うっ……」
彼女がまた俯いた。顔色が悪い。そこで彼は、彼女は本当に調子が悪いのだということに気が付いた。
「おい、待てよ……。あんた、ここで戻すなよ!」
柳鏡はそう言って景華を抱え、勢い良く廊下に飛び出した。そして、渡り廊下の欄干からその身を乗り出させる。あまりの勢いに、近くを通りかかっていた女官が飛び上がった。
「医師を呼んでくれ! あと、薬師もっ!」
彼女は頷いて、パタパタと駆けて行った。景華の背を撫でてやる。
「いいか? 戻す時はせめてここからにしろよ! もう少ししたら、医師が来るはずだから……」
「ふえぇー、気持ち悪いよう!」
情けない声を上げる彼女を、そう言って力付ける。
どうやらこのドタバタでは、彼らは今日も朝食にはありつけそうもない。だが、そんなことよりもはるかに素晴らしい知らせがもうすぐ舞い込むのだから、それも良しとしよう……。
物語の本当の終わりは、幸せに煌めいて……。