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わがまま陛下と龍神 婚礼

 シャラ……。金鎖の音が、廊下から響いて来る。その後に、衣擦れの音。

「陛下、柳鏡様がお越しになりました」

「あ、どうぞ。お通しして……」

 スッと静かに戸が開けられる。景華の鼓動が、高鳴った。盛装させられた彼は、普段よりも勇壮で、見事な花婿ぶりだった。それなのに面倒なことが嫌いな彼は、いかにも不機嫌だといわんばかりの仏頂面だ。

「おやすみなさいませ」

 そう言って、彼を案内してきた女官は部屋を後にした。柳鏡は、その場に留まってピクリとも動かない。しばらくして、彼が静かに口を開いた。

「……もういいか?」

 その言葉に、景華が耳をすませる。女官たちの足音は、もうしない。

「うん、もう大丈夫」

「あぁ、かったりぃ!」

 彼女の返答を受けるや否や、彼は手に持たされていた杓を投げ捨て、被らされていた冠を乱暴に外した。その金鎖が、シャラ、と音を立てる。そのまま今度は上衣の襟に手をかけ、止め金を外す。その乱暴な彼らしい仕草に、景華は思わず笑ってしまった。

「あぁ、楽になった。まったく、なんであんたの所に来るだけで、あんなに面倒くさい格好をしなきゃならねえんだよっ?」

 そう言って、彼女の隣に腰掛けた。寝台が、少し軋んだ音を立てる。

「確かに、柳鏡は嫌いそうだもんね。でも……」

 せっかく着せてもらったんだから、もう少し着ていてくれればよかったのに……。その言葉を、彼女は喉の奥で飲み込んだ。そんなことを言ったら、怒られそうだ。彼女も盛装させられていたが、それに対する言葉も、何もない……。

「おい、あんたもそんなものいつまで着ている気だよ? だるいだろ?」

 金箔などが飾られた婚礼用の衣装は、はっきり言って重い上にガサガサしていて着心地が悪い。一番内に着る綿の着物だけになった彼は、ひどく快適そうだった。

「うん、そうだね……」

 そう答えはするものの、まだ着ていたかった。彼から、何か言葉が欲しい……。もっとも、不器用で恥ずかしがりな彼にそんなことを期待するのも、間違いなのだろうが……。

「ほら、さっさとしろよ。そんなものいつまでも着ていられたら、その……調子狂うだろうが」

 目を逸らす。その仕草が、彼が彼女をどう思っているのかを表している。

「えへへ……。かわいい?」

 ふざけてそう訊ねる。アホか、という答えが返って来た。ここまでは、彼女の予想通り……。その返答に満足して、彼女も綿の着物だけになる。その間に、彼の口から続きがこぼれた。彼の目線は、彼女とは反対側の壁に向けられている。

「ほら、馬子にも衣装、って言うだろ? あんたみたいな奴でも、ちゃんとした服着たら……まあ、あれだ。その……綺麗に見えないこともない……」

 その言葉に、プッと吹き出してしまう。壁に向けられている彼の顔は伺い知ることはできないが、くせ毛の陰から覗く耳が、赤くなっている。照れ屋な彼の、精一杯の褒め言葉……。寝台に膝を抱えて、座る。顔が赤い彼を、隣に眺める。

「なんかさ、普通はこういう時って緊張するものなんだろうけど、今更なんだよね」

「ああ。今更だな……」

 隣から返って来るぶっきらぼうな答えが、嬉しい。今日から永遠に、彼女の隣からはこんな答えがずっと返って来るのだ……。

「ねえ、柳鏡」

 足元を見つめながら、彼に呼びかける。視線が自分に向けられたのが、わかった。

「明日は、何時に起きようか?」

 そう明日は。約束の、九日後……。彼が微笑んでくれるのが、空気の流れだけでわかった。

「何時でも。わがまま陛下の仰せの通りに」

 視線を上げる。そして、深緑の瞳を捉える。その瞳に、笑いかけた。彼女のその表情は、今まで柳鏡が見た彼女の中で、一番幸福そうに見えた。

やっと二人を結婚させてあげることができました。

ここまでですでに九十部ですが、このお話をお読み下さっている方、本当にありがとうございます。

まだ番外編は続きますので、よろしければそちらにもお付き合い下さい。

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