わがまま陛下と龍神 優勝
その時だった。
ブォーッ! 試合の終了を知らせる、角笛。刺客たちがそれを聞いて、いっぺんに剣をその鞘に収めた。何が起きたかわからずに、固まる二人。連瑛が、前に歩み出る。
「陛下、これで私が作った忠の課題が終了いたしました。課題のためとはいえ陛下に刃を向けたこと、お許し下さい」
「課題、ですか……?」
景華が首を傾げる。その体は、まだ柳鏡の腕の中に預けられたままだった。二人とも、その感覚が自然過ぎて気付いていない。
「はい。恐れながら、我々が忠節を誓うべきは陛下が下された命ではなく、陛下ご自身。陛下の厳命があっても、我々は陛下をお守りするために動くべきなのです。各部族長にはその旨伝えてありましたので、武器を預けて陛下のために動かないようにして下さったのです」
「父上、つまり……」
柳鏡が口を開いた。そこでようやく景華を抱き締めたままだったことに気が付き、慌てて放す。
「つまり、この課題は陛下の御為に行動するかどうかを見極める物だった。そして、結果は見ての通りだ。お前以外の候補は、まだあの競技場の中にいるぞ……」
連瑛の指差す先には、四名の候補が狐につままれた顔をしている様子があった。
「じゃあ……柳鏡が、優勝……?」
ようやく状況を掴んだ景華が、そう言葉を発する。その様子に、連瑛が満面の笑みで頷いた。そして、月桂樹の冠を差し出す。
「陛下、どうぞ私の息子に冠を。彼が、優勝者ですよ……」
大きく一息ついてから、冠を受け取る。その動作が、ひどく緩慢だ。手が、小刻みに震えている……。
「俺では不満ですか? 女王陛下?」
柳鏡が、いつもの意地悪の延長でそう言った。しかし、その頬は上気している。
「そうね……。仕方ないから、あなたでいいわ……」
対する景華も、いつものように素直ではない口調でそれに応じた。手に持った冠を、黒のくせ毛の上に載せようとする。しかし、意地悪な彼は決して屈んでくれようとはしない。景華がふくれっ面で文句を言おうとした、その時だった。
「きゃっ!」
浮遊感が、彼女を襲った。柳鏡に抱き上げられて、その深緑の瞳を見下ろす。
「これで届くか? チビの女王陛下?」
いつもの彼女なら、ここで憤慨していたことだろう。だが……。
「うんっ!」
そう言って笑顔をはじけさせて、彼の頭に冠を載せる。
「おめでとうっ! 柳鏡っ!」
「ああっ!」
彼も、今までに見せたことのないような笑顔で頷いた。