わがまま陛下と龍神 忠臣
そしてその二日後、勇の課題が執り行われることになった。勇の課題の内容は、城の北にある山に分け入って、次の日の正午までに一番凶暴な動物を仕留めた者が勝ち、というものだった。柳鏡が、さりげなく景華に訊ねる。
「なぁ、虎と熊っていうのはどっちが凶暴なんだ?」
「うーん……、虎、じゃないかなぁ……? 多分、虎が一番……」
「そうか、わかった」
普通に考えればありえないことを言っている柳鏡だったが、彼には自信があった。何しろ彼は景華と清龍の里で暮らしていた時に人食い虎や熊の退治依頼を受け、その賞金で生計を立てていたのだ。それらのいるような場所の見当のつけ方も、大体はわかっていた。明日の朝まであれば、何とかなるだろう。
「怪我、しないでね?」
人に聞こえないように俯いて小さくそう呟く景華に、笑いかけてやる。
「虎や熊ごときにやられる龍神がいるか、アホ」
そう、彼は。彼女の、龍神……。
「うん、頑張ってね!」
顔を上げて、笑って送り出す。そうすれば、彼が何倍も力を出せることを知っているから。他の候補者たちも、それぞれに出発して行った。全員の背中が見えなくなったところで、景華がふと口を開く。
「ところで、どうしてこんな課題になさったのですか、伯父様?」
そう、この課題を決めたのは亀水族の長、帯黒だった。
「どんな動物でも良いと知りながら、より強い者に立ち向かおうとするのは勇気です、陛下。しかし力量が備わっていなければ、それはただの無茶なのです。自分の限界と向き合うこともまた、私は勇気だと思います」
礼をとってそう答える伯父に、景華が笑いかけた。
「でも、清龍の里に私を匿ってくれていた時に、柳鏡はこういうことをしてくれていたんです。彼には限界がないわ。すごく有利な課題……」
「左様。陛下の龍神が動物ごときで限界を迎えるとは、私も思っておりません。陛下をお隠ししていた際に彼がどのようなことを行っていたのかは、凌江から聞き及んでおりました。ですから、このような課題にしたのです」
豊かな深緑の髪が、揺れた。彼女が小首を傾げる。
「普通なら、自分の息子が少しでも有利になるような課題を作るべきなのでしょう。しかし、私は思ったのです。彼以上に、陛下の御心に寄り添える者も、陛下をお支えすることができる者もいない、と。ですから私は一人の父としてではなく、一人の臣下として、国民としてこのような課題を作らせていただきました」
「感謝します、伯父様……」
景華の彼女自身としての、そして女王としての言葉に、帯黒は礼をしただけで応えた。明日が、待ち遠しい。