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わがまま陛下と龍神 代表

「どうやら、各部族とも代表を決めて下さったようですね、ありがとうございます」

 彼女の衝撃の発表から三日後、全ての部族からの申し出が出揃ったので、景華は各部族長とその代表者を招集した。

 結局、各部族の代表は皆、各部族長の子息となった。清龍族代表の柳鏡を始め、亀水族からは景華のいとこにあたる凌江リョウコウが、砂嵐族からは部族長の三男である大連タイレンが、緋雀族からは三男で春蘭の一つ下の弟である紅瞬コウシュンが、そして虎神族からは趙雨の次弟にあたる英明エイメイが名乗りを上げた。

「それでは、どういった方式で大会を行っていくのか説明いたします。まず、皆さんには文、武、勇、芸、忠の五つの課題で競っていただきます。それらの課題は、各部族長に一人一つずつ決めていただきます。その課題の出来具合で順位をつけ、一位から順に五、四、三、二、一点と点数をつけて行き、その得点の合計が一番多かった方が優勝となります。また、万一課題をこなすことができなければ無得点となります。よろしいですか?」

 単純明快なルールだったので、質問はないようだ。景華は、ほっと息をついた。

「では、各部族長は残って下さい。誰がどの課題を決めるのか、くじ引きで決めたいと思います。それと、勝負を公正に行うために大会期間中はご子息にはこの城に滞在していただき、できるだけ課題を決める部族長たちとは会わないようにしていただきます」

 全員が頷くのを確認してから、景華は候補者たちを退出させた。彼らを用意された部屋に案内するための侍女たちが、外に待機していた。

 戸が閉められて、室内の声も室外の声もお互いに聞き取れなくなる。

「俺の部屋は?」

 柳鏡が、女官の一人に問いかけた。他の候補者たちも、足を止める。

「西の対の南角の部屋です。ご案内いたします」

「いや、いい。場所がわかれば一人で行ける」

「そんなつれないことをおっしゃるな、柳鏡殿」

 踵を返して歩き始めていた柳鏡を、後ろから呼び止める声があった。

「女官殿が可哀想ではないか。なぁ? 仕方ないからこちらにおいで。彼女と一緒に私を部屋まで案内しておくれ」

 そう言って柳鏡の案内をするはずだった女官の肩を引き寄せたのは、虎神族代表の英明だった。

 柳鏡は、彼を一瞥して思った。この女好き、と……。見れば、彼は女官たちと楽しそうに肩を組み、ニヤニヤと笑っている。

 柳鏡の脆い堪忍袋の緒は、既に切れていた。修復の見込みもない程、派手に……。

「もし万が一俺に事故が起きてあなたが優勝するようなことになれば、もう女遊びはできませんよ、英明殿?」

 嫌味全開の口調で柳鏡が発した言葉に、英明はどこまでも軽薄に答えた。本当に、あの趙雨の弟なのだろうか……? 密かにそう思う柳鏡だが、それは口には出さない。

「あなたに事故が起きなくてもそうなると思うが……。宮廷は美人の宝庫だろう? そんな所に住めるというだけで十分だ。陛下もなかなかかわいらしい方でいらっしゃるし……」

 柳鏡の頬が、ヒクヒクと痙攣している。形の良い片眉が吊り上がった。本当は今すぐ掴みかかって、一発喰らわせてやりたい。

「ほぅ……あのわがまま陛下をかわいい、とおっしゃるのか……。それでは、一日付きっ切りで陛下のお世話をなさってみると良い。言っておきますが、死ぬ程大変ですよ? 陛下はドジで、無茶苦茶で、無鉄砲で、その上八つ当たりの常習犯でいらっしゃる……」

 周囲の他の候補者たちが黙り込む中、英明だけがおかしそうに笑い声を上げる。

「それは、それは。護衛の騎士としてさぞ苦労をされたことだろう。さぁ、行こうか女官たち。両手に花とはまさにこのことだな?」

 そう言って両肩を女官たちと組み、楽しそうに話しながら英明は行ってしまった。その後ろ姿を見て、柳鏡は誓う。

「あいつにだけは、男として負けられねえ……」

 たとえ彼女の絶対命令がなくても、英明にだけは絶対に負けられない。あいつに負ける位なら、今までの人生を無駄に生きて来たと思うしかない。彼は、本気でそんなことを考えていた。

 他の候補者たちは、比較的まじめで大人しそうだ。特に凌江は乱の時から会うことがあったので、気心の知れている友達となっていた。その彼も同じ西の対なので、一緒に移動する。

「しかし驚いたなぁ。まさか、お前が出るなんて」

 凌江のその言葉に、柳鏡は黙ってじろりとその横顔を眺めた。同じように、彼が候補として出たことに驚いているということを伝えるために。

「ああ、俺か? 俺は、辰南一の男になりたくて出たんだ。だってそうだろう? 各部族の代表の中で一位になれば、国士無双の男として評価される」

 それが、景華がこの大会を開いた理由だった。柳鏡が代表たちの中で一位になれば、各部族長も彼の実力を認めざるをえない。

「それに……」

 凌江の続きを何の気なく聞いていた彼だったが、何の心構えもなく聞いていたことをひどく後悔した。

「優勝すれば、明鈴さんも少しは俺のことを見直してくれるかと思ってな……」

「ぶっ! はぁっ? ゴホッ、お前、何をっ……?」

 予想外の名前、予想外の言葉……。柳鏡の頭に大打撃を喰らわせるには、十二分の台詞だった。彼があまりの驚きに、むせ込んでしまう程に……。

「な、何だよ? 悪いかっ?」

「いや、悪いことは言わない。姉さんはやめておけ……」

 慌てた様子で彼にそう訊ねる凌江に、柳鏡はそう言った。凌江が不満気な顔で応じてくる。

「な、どうしてだよ? 弟だからと言って、あまりな物言いじゃないかっ?」

 そう真剣な顔で食ってかかられては、柳鏡もたじたじになってしまう。

「……理解できねえ……。姉さんのどこがいいんだよ……?」

「お、お前にはわからないかもしれないが……。あんなに綺麗な人は、初めて見た……」

「そうかぁ?」

 凌江のその言葉に、柳鏡はさらに反応に困った。確かに美人な方だとは弟の自分の目から見ても思うが、性格の方が、ちょっと……。

「乱の時、怪我をしてな。もう戦線に出なくていいなどと卑怯なことを考えていた俺を、明鈴さんの叱責が目覚めさせてくれたんだ。だから……」

 それだけ聞いた柳鏡は、仕方ない、というように眉を寄せて笑った。

「まあ、優勝するのは俺だが、姉さんに認めてもらえるようにせいぜい頑張れよ。俺は一応警告したからな。尻に敷かれても知らねえぞ、義兄にいさん!」

 柳鏡のその言葉に、凌江は照れたように笑った。それから、恥ずかしくなった彼は慌てて話題を変える。

「とっ、ところで、お前はどうして出たんだ?」

 柳鏡が渋い顔をして、一言だけ答えた。

「聞くな……」

 そう言って柳鏡が視線を逸らす。

「ふうん、さては……」

 逆転の好機を見出した凌江が、含み笑いをして柳鏡の顔を下から覗き込んだ。

「お前、陛下に惚れているんだろう?」

「っ……!」

 図星を指されて、柳鏡は言葉が出ない……。凌江がニヤリとした。

「やっぱりな、そうだと思っていたんだ。しかし、驚いたな。陛下とお前は相思相愛だと思っていたのに、お前の片恋だったのか?」

「うるせえ、放っておけ!」

 自分の一方的な恋慕なら、ここまで苦労はしていない。両想いだからこそ、彼女の期待に応えたくて苦労しているのだ。

 長い指が、黒いくせ毛を乱暴に掻いた。

「安心しろ、柳鏡。俺が優勝したら辞退してお前を推薦してやる。そうすれば俺は国士無双の男だし、お前は陛下とめでたく結ばれる、という訳だ。悪くないだろ?」

「お前、最初から俺に押し付けるつもりだったんだろ……」

 大きく溜息をついてから、肩を落とす。それでは、意味がない。

「優勝しろっていうのが絶対命令だから、それじゃあ意味ねえんだよ!」

 ちょうど凌江の部屋の前についたので、柳鏡はそう不機嫌に言い放って足早に自分の部屋に向かって行った。

「絶対命令って、誰のだよ……?」

 残された凌江が、その背中にポツンと問いかけた。

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