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わがまま陛下と龍神 成長

「父上、柳鏡です。よろしいですか?」

 その夜、柳鏡は父である清龍族の長、連瑛の元を訪ねた。

「入れ」

 短く、入室を促す言葉。戸がキィ、と軋んだ音を立てて開き、その後すぐ閉じた。長身の陰が、一つ室内に増える。

「陛下のおそばに控えていなくていいのか?」

「今は姉上に代わってもらっています」

 父に勧められて、柳鏡は椅子に腰掛けた。酒が入ったひょうたんと盃を二つ出して、連瑛もその向かい側に腰掛ける。

「何かあったのか?」

「父上に、お願いがあって参りました」

 出された酒に口をつけてから、柳鏡が真剣な口調で話を切り出した。

「どうか、今日陛下が提案された大会に、清龍族代表として俺を出場させて下さい」

 連瑛が、酒をぐっと飲み干した。空になった盃に、柳鏡が酒を注ぎ足す。赤い盃が、透明な液体に満たされた。

「正直、なぜ陛下があんなことをおっしゃったのかわからない……。陛下はいずれ、時期が来れば必ずお前を選んで下さると思っていた……。違うか?」

 確かに、乱の最中の二人の様子を見ていれば、そう思うのが自然であった。

 そして連瑛は、別のことにも気がついていた。小さな変化なのだが、息子の表情がどこか今までと違う。今までは時間、というものを強く意識して生活していたせいか、どことなく追い詰められているような表情を浮かべていた彼だったが、最近では生きることに余裕すら見せ始めている。

 時間を意識せずに済むような出来事が彼の身に起きたのだろう、ということは、連瑛にもわかっていた。それが龍神の紋章からの完全なる解放であることを願うのは、愚かな親心なのかもしれないが……。

 柳鏡が、自分の盃の酒を見つめた。蝋燭の光が、その中でちろちろと踊る。

「……一緒にいられる現在いまが欲しい、と彼女は言いました。他の理由は、彼女が昼間言った通りです」

 柳鏡は、ここで敢えて彼女を女王陛下・・・・としてではなく景華・・として扱った。父は、これで自分が言いたいことを読み取ってくれるだろう、と思って……。

「そうだったのか……」

 その言葉には、二重の意味があった。一つは、彼女の思惑に納得したということ。そしてもう一つは、彼らがどういった関係なのかを把握した、ということ。

「お前がそう望むのなら、もちろんお前が代表だ。武芸に秀で、頭の回転も悪くない。そして、陛下に対する忠誠心も、それ以上の想いも揺るぎない。お前以上の代表など、いる訳がない……」

 そう言って、息子を力づける。彼の息子は、長年の想いを成就させるべく、戦う。そしてなによりも、その想い人のために……。

「若いのに、お前も苦労させられているな。お前の母親みたいだ……」

(いつの間にか、大人になっていたんだな……)

 小さく呟いた連瑛の盃には、月が浮いていた。

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