表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/144

女王と龍神 切愛

「その後、景華姫は……あら?」

 ふと異変に気付いて、母親が目を上げる。そして、その後微苦笑した。

 幼い兄妹は、安らかな寝息を立てていた。風邪を引かないように、そっと布団を掛け直してやる。その時、部屋の戸が静かに開いた。長身の陰が、入口をくぐる。それは、子供たちの父親だった。

「あら、迎えに来てくれたの?」

 目を細めて笑って、彼を迎える。

「ああ。明かり、消えただろうと思ったからな。不便だろ?」

 ぶっきらぼうにそう言う彼に、ありがとう、とまた笑って答える。大きな手が、自分そっくりの息子の髪を撫でた。彼は、本当に自分そっくりだ。同じ黒いくせ毛を、切り揃えるのを面倒くさがるところまで……。

「平和な寝顔だな。間抜けだ……」

「あら、あなたそっくりじゃない」

息子の寝顔にそう言った父親に、ほんの少し意地悪に母親が言葉をかけた。そして、そのまま立ち上がろうとする。

「きゃっ!」

「危ない!」

 ガクン、と膝が折れる。転ぶ前に、間一髪で父親がその体を受け止めた。

 母親は、二人分の体重をその細い腰で支えている。彼女のその体は、臨月を迎えていた。

「気を付けろ……」

「うん、ありがとう」

 ホゥ、と息を吐いてから、彼女を立たせる。一人で歩かせるのは不安だったので、隣から支えて二人で歩きだした。

「今日は何の話を?」

 何気ない調子で、彼が訊ねてくる。廊下に出て、子供部屋の戸を閉めた。

「あの時の話を……」

 彼の顔色が変わった。怒っている訳ではないようだが、非難めいた目つきをしている。

「早過ぎないか? 半分もわからないだろう?」

「ええ……。それでも、いつかあの事件を事実としていきなり知るより、今お伽話として聞いておいた方が衝撃が薄れると思って。それに……」

 顔を上げて、彼の瞳を捉える。月光のせいだろうか、その瞳は、いつもより色濃く見える。子供たちと同じ、深緑の瞳。それは、八年前も今も変わらず彼女の心を波立たせる。

「子供たちに話したお話は、結末が違うの」

 彼は、訝しげに片眉を上げた。城の渡り廊下からは、裏山がよく見える。そして、そこにある満月も。

「綺麗な月。満月ね」

「ああ……」

 ふと、二人の足が止まった。並んで月を眺めている内に、彼女の口から言葉が漏れる。

「子供たちに話したお話は、結末が違うの」

「さっきも聞いたぞ、それ……」

 彼の苦笑交じりの言葉に笑顔を向けてから、その胸に顔を埋める。温かい左手が、彼女の肩に添えられた。真紅の瞳が、嬉しそうに細められる。

「だって、私の龍神は、ここにいるもの……」

 そう言って微笑んだ彼女のその胸で、珊瑚の首飾りが赤く、淡く煌めいた。


 全ては異国恋歌、物語の世界の中に……。

今回で本編が完結いたしました。

最後までお読み下さった皆様、本当にありがとうございます。

次回からは番外編を投稿させていただきます。もしよろしければ、どうぞそちらもご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ