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女王と龍神 微温

 夜宴の明かりが、目に沁みる……。その眩しさに耐えられなくなった景華は、一人渡り廊下に出た。彼女の即位を祝って、各部族の長や今回の乱で大きな功績を残した者たちが宴を繰り広げている。景華ももちろん参加させられたが、本当は、早く一人になりたくてたまらなかった。そのまま、人の気配がない方に向かって歩く。

 少し歩いたところで、何かにドン、とぶつかった。

「チビ姫、じゃない、チビ陛下。どこに目くっつけてるんだ?」

 彼女がぶつかってしまったのは、柳鏡の背中だった。そのまま、肩越しに声をかけてきた彼の背中にしがみつく。

「ごめん、柳鏡。ちょっとだけ背中、貸して……」

 ギュッと、彼の衣を握り締める。やや沈黙があってから、彼が仕方ない、というように溜息混じりで答えてくれた。

「いいけど、鼻水つけるなよ」

 刺のある言葉なのに、優しい……。ふざけた調子でそう返してくれるのは、彼女の心情をおもんばかってのこと。

 静寂が、しばし二人の間を流れた。ぐるぐると巡る思考を、慣れた温もりと握った衣の安心感で落ちつけようとする。

「うん、もう大丈夫! ありがとう!」

 どの位そうしていたのかわからなかったが、景華は元気にそう言って柳鏡の衣を離した。それを合図に、柳鏡が振り返る。

「おかしな奴……。鼻水、つけなかっただろうな?」

「つけてないよ、失礼な!」

 いつものように怒ってむくれる景華の頭に、ポンと彼の手が載せられる。温かい、右手……。その後、彼がその膝を折って彼女の前に跪いた。

「何してるの? さっきの真似ごと? 柳鏡がやったら、気持ち悪いね……」

 どうしようもない奴だな、と思いながら、柳鏡がその顔を上げた。そして、景華の右手を取る。今度は、冷たい左手で……。

「俺にだって、一言位真面目なこと言わせてくれよ……」

 その彼の言葉に、息を飲む。そして、月光を受ける深緑の瞳を見つめる……。

「どうか良き王、民に愛される王として、良き時代を創り上げて下さいますよう。女王陛下の御代に、祝福を……」

 その言葉の後に、彼女の手の甲に柔らかい物が押し当てられた。時の歩みが、ゆるりと遅くなる。心臓の鼓動が、高鳴る。そして、止まらない……。

「ほら、戻るぞ。あんたは主賓なんだからな、嫌でもおっさんたちに付き合わなきゃならないんだぜ?」

 そう言って、彼女の手を引く。これが彼女に触れる最後だと、わかっていながら……。その温もりを覚えておこうと、強く握る……。

「痛いよ、柳鏡。ちゃんと戻るから」

 そう言って、景華がその手をパッと引っ込めた。彼女は、あれが最後だと知らなかったから……。

 彼女に顔を見られないように前を向いたまま、彼はいささか自嘲気味な笑みを漏らした。自分が人として生きたいと願う理由を、ゆっくりと手放す……。触れた温もりが、冷たい左手に僅かに残された。それを逃がさないように、きゅっとその手を握り締める。これだけは、永遠に、自分だけのもの……。

わりぃ……」

 柳鏡は、景華を後に残して祝宴が行われている部屋に入って行った。満月が、冷たい光を浴びせている……。

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