女王と龍神 崩壊
次の日、景華と柳鏡率いる清龍族軍は早々に出発準備を整えた。不本意ながらも、彼も鉄鎧を纏う。
「ちょうど今の時間に警備も交代するはずだ。行くぞ!」
柳鏡のその指示で、彼らは一斉に飛び出した。
「陛下! ご報告いたします! 東門に敵襲です!」
「何だとっ? 数はどの位だっ?」
「約三千と思われます!」
苛立ちを募らせていた趙雨の前に東門の守護を任されていた兵士が現われて、そう報告した。三千……。南門と東門を同時に攻められ、なおかつそれだけの人数がいれば、到底対応しきれない。
「くそっ……! ここまでか……?」
ギリリと歯噛みする。反乱軍のここまでの結束は、まったくもって予想外だった。南門を攻めていた軍が、囮だったということも……。そして、さらに耳を疑う知らせが舞い込む。
「陛下!」
それは、東門に配属されていた別の兵士だった。蒼白な顔をして、趙雨の前に転がり込む……。
「も、申し上げます……。龍神が現われました! 龍柳鏡が、東門に! 前線には出て来ていませんが、どうやら女将校を守っているようです!」
頭を、何かでガン、と殴られた気がした。強い衝撃が、彼の思考を停止させる。彼が、現われた。辰南の、龍神……。そしてその彼が守護をしているということは、その女将校の正体は……。
「増員を、陛下! 東門の常駐部隊は、皆龍神に臆して浮足立っています!」
周囲の声が、遠くに響いている。
東門の部隊が臆するのも無理はない。これまでの戦いで、彼らは龍神が戦場を舞う様を目の当たりにしている。味方だからこそもてはやし、頼りにしていた龍神だ。その彼が今、眼前に敵として現れた。もはやそれだけで、東門の兵士たちは戦意を喪失していた。いざ龍神が前に出れば、彼一人で自分たちの隊など壊滅させられてしまうだろう。その恐れが、彼らの思考を支配していた。
春蘭が、前に出る。
「これ以上の増員は無理よ! 南門に兵力を多く傾けてしまっているもの! その上、城の守護もさせないと……!」
喧騒が、近くに迫って来る。趙雨が小さく、まさか、と呟いた。春蘭の薄青の瞳が、見張られる。
「東門が破られた! 反乱軍が城に向かっている!」
最後に走り込んで来た兵士は、もはや趙雨に対して敬意を払うことも忘れていた。城にまで反乱軍の攻撃が及んだのは、初めてのことである。龍神の存在に完全に浮足立っていた東門からは、兵士たちが次々に脱走していた。それが原因となって、東門はこのような速さで破られてしまったのである。
「来るか……? 柳鏡……」
そして、彼女も。彼が築き上げた政権は、どうやら脆い砂の土台の上に立っていたようだ。体中の力が、抜けて行く……。