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女王と龍神 未来

「いよいよ明日だな……」

 景華と柳鏡が率いている清龍族軍は、ついに東門の正面にある林の中に辿りついた。途中で城の警備隊に見つかることもなく、奇襲攻撃を仕掛ける条件は、きちんと整えられている。

「うん……。城、よく見えるね……」

 この前並んでその姿を眺めた時よりも、近い。おそらく距離的な問題だけではなく、精神的な問題もあるのだろう。喧騒が止むことなく聞こえてくることから、連瑛たちが夜にも関わらず攻撃を続けていることがわかる。

「近くに来たんだから、当たり前だろ」

 そう言って腰を下ろした彼の隣に、自分も腰を下ろす。兵士たちは、明日に備えて各々休息に入っていた。

「明日、城に入ったら……私、本当に王様になるんだね……」

「そうだな……」

 そうしたら、彼女は彼の手が届かない存在になってしまう。元々あってないような距離だが、その間を詰める……。

「王様になったらね、やりたいことがたくさんあるの」

 そう言って笑うその姿を、横から見下ろす。今日も、月が出ていた。どうやら、明日は満月のようだ……。

「まずね、全国の戸籍を作るの。生活水準も調べて、必要な支援ができるように。それから、いつになるかわからないけど、五部族を全部統一したい。そうすれば、こんな争いが起きたりはしなくなるでしょう?」

「ああ……」

 しっかりとした目で、平気で未来のことを話す彼女を見つめる。自分には、望むことすら許されない世界。彼女の横顔が、ひどく眩しい……。

「それからね、王族の親戚を調べて、誰か一人を私の養子として城に招くの……」

「は……?」

 彼女が何を言おうとしているのか、彼には全く見当もつかない。なぜ、そんなことをする必要があるのだろうか? 彼女自身の子供を王位につければ、世襲が当たり前となっている辰南国では何の問題もないはずだ。

「だって……」

 彼女の顔から、目を逸らす。彼女が自分との約束を破るところなど、見たくない……。月の光が、彼女の頬を一筋になって滑った。

「決めたんだもん、誰とも結婚はしないって。柳鏡がいなくなっちゃうってわかった時に、決めたの……」

 彼に一番最初に叶えて欲しかった、普通の願い。それは、永遠に叶うことはないのだ……。

 彼の左腕が、横にいる彼女へと伸びる。呪われた、青い左腕……。しかし、それが彼女の背中に触れる寸前で、固く握りしめられた。自分には、彼女を慰めてやる資格すらない……。

「龍神は……」

 ふと空を見上げて、彼が話す。自分が約束を破っているところを、見ないようにしながら……。

「龍神は、普通天空を常に翔けているそうだ……。けれど、俺はそうはしない」

 言葉を切って、彼女を見下ろす。彼女が慌てて涙を拭うのが見えた。どうやら、約束は守ってくれるらしい……。

「どこかの誰かが、寂しくてメソメソと泣くからな……」

 その言葉に、彼女は笑ってみせた。約束を、守って……。それに、自分も応える。再び、柳鏡が空を見上げた。

「紋章を解放した時には、永遠の命とか、巨万の富とかって言葉にすげー惹かれたのに……」

 隣から見上げて来るその瞳は、月の光を受けて、赤い。彼が送った、珊瑚の首飾りを思い起こさせる。ただ赤いだけではなく、どことなく、淡く感じられる。

「どうしてだろうな。今更だけど、龍神になんかなりたくねえや……。普通、喜んでなるはずなのにな……」

 その横顔が、痛い……。

 彼は、以前までは龍神になりたいと思っていた。そうすれば、自分を疎む里の人々との関係を断ち切ることができ、手に入ることのない彼女を見つめて心を痛めることもないから、と……。

 それなのに、彼の人生はその紋章を解放した時から大きく方向を転換してしまった。ここまでの戦いで自分の一族の兵士たちが見せてくれた、自分に対する信頼。そして、手を伸ばせば触れられる距離にいる、彼女……。全てを手に入れたと思った時には、すでに刻限が迫っていた……。

「こんなに嫌々龍神になるの、後にも先にも俺だけだと思うぜ?」

 最後には、おどけた調子でそう笑って見せる。彼女からは、何も返っては来なかった。

第六十部まで来ました。本編も佳境に差し掛かっております。

改訂前の方にあげていた番外編の他にも、新たな番外編を書く予定ですので、最後までお付き合いいただけると大変嬉しいです。

どうもありがとうございました。

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