華と龍神 春風
「おじいさまたち、協力して下さるかしら?」
「さあな、俺には何とも言えねえよ。明日を待つんだな」
部屋に通された景華と柳鏡だったが、結局柳鏡は景華の部屋の戸口、彼女の守護ができる位置にやって来ていた。戸は開けっ放しにされていて、中の景華は入口をくぐってすぐの敷物の上で膝を抱えている。
「ねえ、柳鏡? もしもダメだって言われたら、どうなっちゃうの?」
景華が抱えた膝に顎を乗せて、視線を床に落したまま彼に訊ねた。横目で彼女の様子を窺ってから、彼女とは反対に天井を見上げて答える。
「そうだな……。先に砂嵐族にでも助力を求めるかな? ほら、あそこだって趙雨の無茶苦茶な人事のせいで酷い目に遭ってるんだから、何らかの形で協力位してくれるだろ。それに、襄厳様は絶対に協力して下さる。あんたが頼んだんだからな」
彼が笑顔でそう言ってくれると、本当にそんな気がしてくる……。
「うん、そうだね!」
景華は明るく笑って、久しぶりの柔らかい寝台に横になった。しばらくすると、柔らかい息の音が聞こえて来る。
「いつものことだけど、早いな、寝付くの……」
規則正しい吐息を立てる彼女に仕方なさそうに笑って、柳鏡は溜息をついた。いつまで彼女のそばで、こんな生活を続けることができるのだろうか? 柳鏡はそんなことを考えながら、景華が眠る寝台、その向こうの窓が切り取る空に浮かぶ月を眺めていた。
次の日、景華と柳鏡が朝食を取り終えたところに祖父がやって来た。後ろには、亀水の次代を担う帯黒を連れている。
「一晩、帯黒や他の一族の者とともに考えたよ」
どうやら、彼らの結論が出たようだ。景華はぐっと拳を握りしめた。心臓が、早鐘を打っている。たとえ祖父や叔父がどのような結論を下したとしても、彼らが自分たち一族のことをよく考えた末に出した結果なのだ。決して責めたり、恨んだりしてはいけない……。景華は、自分にそう言い聞かせた。そして。
「私たちも、趙雨の王朝と戦いたいと思う。彼らの横暴なやり方には納得ができないからね。ましてや、その政権は罪の上に成り立っているんだ。許すわけにはいかない」
「ほ、本当? おじいさまっ?」
景華は目を見開いて、ぱっと立ち上がった。興奮のあまり、無意識にしてしまった行動だ。その様子に祖父は昨日のように目を細めて笑い、頷いてみせた。
「本当だよ、景華。ただし、お前は誰もが認めるような正しい王にならなければならない。それが、私たちの条件だ」
景華は、祖父のその言葉に強く何度も頷いてみせた。その目尻から、熱いものが滑り落ちる。
「わかっています、わかっています、おじいさま。私、そのために色々と勉強しているの。王様になったらまず最初に何をするのか、とかも考えているわ……」
柳鏡は、彼女のその言葉にはほんの少し驚いた。まさか、彼女がそんなことまで真剣に考えているとは思ってもいなかったのだ。彼女は、もう昔の彼女ではない。昔は持っていなかった、強さや責任感というものを持って、今大きく羽ばたこうとしている。いつかは、自分の助けがなくても歩けるようになるだろう……。そうしたら、その時は。
(不細工な顔……)
いつものように彼女の泣き顔に頭の中でそう悪態をついて、彼は窓の外を眺めた。桜の蕾が膨らんでいるのが、深緑の瞳に映る。いよいよ、本格的な春が来るようだ。
(夏、いや、せめて秋には間に合わせたい。それまで、持つだろうか……?)
彼の右手が、その左腕をぐっと握り締めた。




