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華と龍神 好機

「趙雨、本当に王様になるんだね。前の王様を殺したくせに!」

 兄の方が憤慨してそう言った。

「そうね……。でも、彼の罪を証明できる人が城にはいなかったの。それに、お城は彼の味方ばかりになっていたから、本当のことは皆黙っていたのよ」

「ずるいわ! 悪いことをしたらごめんなさい、って習わなかったのかしら?」

 妹の方も、かなり怒っている……。しかし、そのふくれっ面がなんともかわいらしい。

「うーん、大人はそれじゃあ済まない時があるの」

「変なの。わからないよ」

 母親が苦笑する。子供には納得のいかないことだろう。だが、説明するにも方法がない。

「さあ、続きを話しましょうね」

 結局、母親は話を続けて気を逸らす、という選択肢を取った。好奇心旺盛な子供たちなので、続きとなれば必ず聞きたがるだろう、と思って。

「そうだよ、お母様。早く、早く!」

 案の定、子供たちは話の続きの方に興味を示した。戻るのがまた遅れてしまうな、と思いつつ、言葉にしてしまった以上は仕方がないので続きを語り始める。

「それから十日して、趙雨の即位の式に出席していた清龍族の長が里に戻って来ました」


「柳鏡、いる?」

 昼過ぎの柳鏡の家に、明鈴がひょっこりと顔を覗かせた。景華は食事の後片付けをしていて、柳鏡は何やら書物とにらめっこをしている。

「何ですか?」

 彼は一瞬本から目を上げたが、その後すぐに視線を戻して明鈴に訊ねた。どんな難しい本を読んでいるのか知らないが、眉間にしわが寄っていることから、かなり苦戦していることが窺える。

「何の本?」

 何の気なく明鈴が覗こうとしたが、柳鏡がぱっと本を引っ込めた。

「用事は何ですか、姉さん? 俺は今忙しいんです」

 隠すところが怪しいな、と思いつつ、明鈴は自分が訪ねて来た理由を話した。

「いや、父上が呼んでるよ。景華も」

「え、私も?」

 景華が軽く目を見開いて訊ねた。

「うん。本当は自分が足を運びたい位だけど、景華の身分が露見したらまずいから、二人で屋敷の方に来てくれないか、って……」

「ちっ、なるべくなら近付きたくない場所なのによ……。行くぞ」

 あきらかに柳鏡は不機嫌になったが、先程まで読んでいた書物からも相当な打撃をくらっていたようだ、いくらなんでも短気が過ぎる。

「ちょっと、待ってよ!」

 景華が慌てて彼の後を追う。その後ろ姿に手を振りながら、明鈴が叫んだ。

「いってらっしゃい。留守番してるからね!」

 くるりと踵を返して、明鈴はニヤリとした。そして家に戻り、先程彼が隠した書物を引っ張り出して開く。

「へ? 何よ、これ? 語学?」

 柳鏡が隠した本は西の国の言葉について書かれた本で、あちこちのページに折り目があることから、彼がすでに何度か読了していたことがわかる。

「あいつ、こんなもの勉強してどうする気なんだろ……?」

 明鈴には全く訳がわからなかったが、誰かに理由を聞く訳にもいかず、何とも後味が悪い悪戯となってしまった。


「父上、柳鏡、只今参りました」

「入れ」

 初めてここを訪れたときと、同じような会話がされる。景華は、ふとあの時の緊張感を思い出した。まさか、彼の兄や継母たちもいるのだろうか……? だが、戸が開かれて室内を見渡した彼女は安心した。そこにいたのは、連瑛のみだった。すでに人払いもされていて、部屋の周りに人の姿はない。

「姫君、このような所までご足労願いましたこと、お詫び申し上げます」

「いいえ、当然のことですから……。明鈴さんから、連瑛様が私たちをお呼びだと伺いました」

 深々と礼をしてみせた彼に、景華は首を振って答えてから用向きを訊ねた。

「はい、城の即位式から今朝方戻ったことをお伝えしたかったのです。おそらく、亀水の長も里に帰りついた頃と思います。会いに行かれるのですよね?」

 景華が頷いてはい、と答えた。おそらく、柳鏡は父親には計画の全てを話して聞かせているのだろう。あるいは、助言などをもらっているのかもしれない。

「亀水の長は公明正大な人物と聞いております。姫がお話をされれば、必ず力を貸してくれるでしょう。ましてや、城ではあまりにも無茶な人事がされた後ですから……」

「無茶な人事、ですか?」

 ピクリと眉を動かすと言う反応をして、柳鏡が父に訊ねた。景華もそれは気になったので、黙って続きに耳を傾ける。

「王の即位とともに人事の改正はよくあることだが……。趙雨は、ほとんどの役職に虎神族と緋雀族を起用した。彼が信用できる人物ばかりを起用したつもりだろうが、その偏りはこの清龍族だけではなく、砂嵐族や亀水族が不満を持つ原因となっている。今決起の話を持ちかければ、亀水族は間違いなく乗ってくるだろう。それに、姫が趙雨の罪を明かしてくだされば彼を退位に追い込むこともできるからな、おそらくは砂嵐族も協力を申し出るだろう」

「それは、願ってもいない好機ですね……」

 柳鏡がそう呟くのを聞いて、景華は複雑な気分になった。自分たちが好機を迎えているということは、一方の城にいる友人たちは絶体絶命の危機を迎えているということだ。そして、王という立場の複雑さも同時に思い知らされた。部族間の力関係。そんなものまで考慮に入れて人事を行わなければならないのだ。単に信用の置ける人間や、有能な人間のみを登用すればいいという訳ではない。

「それでは父上、明後日の朝には出発したいと考えているのですが、通行証を発行していただけませんか?」

 景華は柳鏡の声で、ハッと現実に引き戻された。彼女は今、自分が王になったらどのような人事を行うべきかを考えていたのだ。いくつかの空きが残ったが、大体の役職は決まっていた。もちろんそれには、虎神族や緋雀族の人々もいる。よく知っている分、清龍族の人間が二、三人他の部族よりも多くなってしまったが……。

「通行証のことは心配しなくていい。明日にはできるだろうから、取りに来い」

「それから、決起の際に奥方様や兄上たちに妨害をされる可能性はありませんか? 清龍から兵士を出せないなんてことになれば、勝ち目がありませんよ?」

「心配ない」

 やけに確信に満ちた表情で、連瑛が頷いた。どこからそんな自信が来るのだろう、と景華は彼の表情を見つめながら密かに思っていた。あれだけ底意地が悪そうな人たちだ、何をしでかすかわからない……。

「反乱が成功する可能性が高いと考えたのだろう、清龍からも兵を出せと言っている。そして、姫君にくれぐれもよろしくということだ……」

「なるほど、これを機に中央に取り立ててもらうつもりですね。相変わらず考えることがせこい人たちだ……」

 連瑛は、柳鏡のその言葉には反応を示さなかった。ただ、柳鏡をたしなめることはできず、なおかつ彼に賛同することもできなかったのだ。

「わかりました。即位後の人事のことは姫の胸三寸ですが、邪魔が入らないということには安心しましたよ。それでは失礼いたします、父上。明日、通行証を取りに伺います」

 柳鏡が礼をするのに倣って景華も礼をして、二人で連瑛の部屋を後にする。半歩の距離は、やはり変わることはなかった。

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