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華と龍神 夜祭

「すごい、大蛇の妖怪も一人で倒しちゃうなんて、柳鏡って本当に強いのね!」

 妹の方が、嬉しそうに歓声を上げた。兄の方もその言葉に頷く。

「私ね、大きくなったら柳鏡みたいな人と結婚するの!」

「お前、この前まではお父様みたいな人と結婚するって言ってたじゃないか!」

 目をキラキラとさせて自分の夢を話す妹に、兄が間髪をいれず疑問を差し挟んだ。妹の方がふくれっ面になる。本当に、子供の頃の母親とそっくりだ。

「きっとできるわよ。もう少し、大人になってからね。それから、お姫様が待ちに待ったお祭りの日がやってきました」

 母親の声で、兄妹の目には今見えている光景とは別の光景が浮かんで来た。明るい篝火かがりびに、それを囲んで楽しそうに踊る人々、たくさんの商人の姿……。


「ねぇ、見た? 柳鏡! 見た?」

 興奮した声でそう問いかける彼女に、彼はああ、見た見た、と気のない返事を返した。まったく、人ごみの中に出ることだけでさえ面倒なのに、と思いながら。景華たちは今、明鈴たち青龍の神殿に仕える巫女の踊りを見たところだった。先程から彼女は、人だかりを見つけては分け入って行くのだ。さすがの彼も、それにはうんざりしていた。

「もういいか? そろそろ帰ろう」

 おそらく納得はしてくれないだろう、と思いながらそう提案する。

「えぇ? まだお店見ていないもの。もう少しだけ、ね?」

「……」

 惚れた弱み、とでも言うやつだろうか、彼女に上目づかいでそう言われては彼もなす術がない……。時々、彼女が計算ずくでそうしているのではないかと思えるほどだ。

「まぁ、まだあちこちで催しをやっているから店の方もそんなに混んでいないし……。いいか? 混んできたらすぐに帰るからな」

「うん!」

 明鈴から、彼があまり里の人に近付きたがらないということは景華も聞いていた。景華にもそれはわかる。彼は行く先々であからさまな敵意を向けられているのだ、そんな人々に近付きたい訳がない。それでも自分のわがままに付き合ってくれているのだから、あまり困らせたくはない。

「わぁ、見て見て! いろんなお店が出てる!」

 景華がそう言って辺りを見回す様子に、柳鏡は苦笑した。確かに、彼女にしてみればこれはかなり珍しい光景なのだろう。しかし、小さな子供のようにはしゃぐその姿がなんともおかしい。連れてきて良かったかもしれない、と彼は密かにそう思った。人ごみは面倒だし周囲の刺すような視線も痛いが、それ以上の価値があった、と。

「あんまりチョロチョロとするな! はぐれるだろうが!」

 彼のその言葉が耳に入っているかどうかは、疑わしい。

「わぁ、綺麗!」

 景華が一つの店の前で足を止めて、歓声を上げた。つられて柳鏡もそれを覗きこむ。

「お嬢さん、お目が高いね! それは上等な珊瑚の首飾りだよ。滅多に見られないような品だ」

 店番の中年の男が、愛想よく笑いながらそう言った。真っ赤な色の珊瑚が、篝火の光を受けてより赤く煌めく。

「あんた、こんなのたくさん持ってるだろ?」

 柳鏡がこっそりと呟く。なぜそんな物に惹かれるのか、彼には理由がわからなかった。城では、彼女はよく珊瑚の首飾りを身に着けていた。それも、今眺めているような物とは比べ物にならないほど素晴らしい物を。そして、彼女はそのような宝飾品をたくさん持っていた。それなのになぜ、こんな物を欲しがるのだろうか。

 彼の問いに、景華が寂し気に微笑んだ。

「うん……。でも、もう全部なくしちゃったから……。ちょっと懐かしくなって見てただけ。さあ、次見に行こう!」

 そう明るく言って彼女は店を後にした。柳鏡もすぐに後を追ったが、あることを考えていた。

(あんなやつ、どこかで見たよな……。どこで見たんだ?)

「おい、柳鏡じゃないかね?」

 考え事をしていた彼を、道端の天幕からしわがれた声が呼び止めた。柳鏡の歩みが止まり、景華の足もそれに合わせて止まる。

「婆さん! まだ生きていたのか!」

 柳鏡が、いつもの皮肉な物言いでそう言った。どうやら、彼がこんな話し方をすることから考えて、彼を呼び止めたのは数少ない心許せる者だったようだ。天幕から、腰の曲がった老婆がその姿を現した。その姿から、彼女がかなりの高齢であることが窺える。

「当たり前だ。お前こそ、まさかこんな所に足を運んでいるとは……。たいした変わりようだな。おまけに、女連れとは……。……ん? 娘さん、随分変わった相をしているな」

「私、ですか……?」

 景華はその言葉に自分を指差した。老婆に下からじっと覗きこまれて、彼女は少々たじろいだ。

「こんな所ではなんだからな、中に入るといい。あんたの運命を見てやろう」

 景華は困った顔をして柳鏡を見上げた。

「ああ、この婆さん、占い師なんだ。人としてはともかく、占いの腕は確かだぜ。せっかくだから見てもらえよ」

 柳鏡の言葉に彼女は素直に頷いて、老婆の後に続いた。その後ろから、柳鏡も続いて天幕に入ってくれた。

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