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龍神の随想 其の四

 次の日柳鏡は、再び連瑛に連れられて彼女がいる城へとやって来た。父と並んで廊下を歩き、ちょうど角を曲がった、その時。

「あっ! おろして、おとうさま!」

 彼女の元気な声が聞こえて、彼はふと顔を上げた。父親に抱き上げられていた彼女は、ゆっくりと下ろしてもらうと、とことこと廊下を走って来る。

「りゅーきょー!」

 そのままの勢いでガバリと抱きつかれたので、彼はほんの少し後ろに仰け反ってしまった。だが体格差があるせいだろう、何とか持ち堪えることができた。彼女はそのまま彼を見上げて、昨日と同じ人懐っこい笑みを浮かべる。

「きょうかとあそんで!」

「……うん、いいよ」

 しばらく硬直してから彼がそう返事をしてやると、やったあ、と嬉しそうに声を上げて、彼女はまた昨日と同じように彼の手を握った。その様子を見た彼女の父親が、娘に問いかける。

「景華、お父様とお散歩に行くんじゃなかったのか?」

「……うんとね、あのね、りゅうきょうと、いくの!」

 そう言って、つないだ手を父親に示す。白髪交じりの王は優しく笑って、娘の髪を撫でてやった。

「そうか、わかったよ。お父様は柳鏡君のお父さんと話しているから、行って来なさい。気をつけるんだよ」

「はーい!」

 柳鏡はそのまま、またもや半分彼女に引きずられるようにして歩いて行った。

「景華は余程柳鏡君が気に入ったらしいな。昨日お前たちが帰った後も、しばらく機嫌が悪くてな。早く寝たら早く明日になるぞ、と言ったら、本当にすぐに寝てしまったよ」

 珎王のその言葉に、連瑛は一礼してから答えを紡いだ。

「恐れながら陛下、私の息子も、姫君の御相手をさせていただいてとても楽しかったようです。昨日もあれの母親に、楽しそうに話を聞かせていました……」

「そうか、それは良かった。またこれからも、度々城に連れて来てくれると嬉しい」

 珎王のその言葉に、連瑛は深々と礼をするだけで答えた。彼にとっても、これは好都合な話だった。蓮華と柳鏡の親子を、清龍の里ではなく城に住ませるよい理由となったからだ。

「……まさか、景華の婿候補がもう見つかるとはな……」

「御冗談を、陛下。私の息子にそのような大役は務まりますまい……」

 連瑛のその言葉に、珎王は含みのある笑みを返しただけだった。

 おそらく彼が、姫が三歳になったばかりである今からそのようなことを言うのは、自分が年老いてからの子供なので、最後まで面倒を見てやれないかもしれないと考えているからなのだろう。彼はすでに、自分の娘の祖父と言ってもおかしくないような年齢だった。一度結婚した王妃を早くに亡くし、失意の内に世継ぎもないまま王として暮らし続けていたが、その女性にそっくりな景華の母と出会い、再婚したのだ。

「そればかりはわからぬぞ、連瑛……」

 彼には、未来が見えていたのかもしれない。

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