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龍神の随想 其の三

「柳鏡、帰るぞ」

 彼が景華に三冊目の本を読み聞かせ終わった時、ちょうど部屋の入り口から父が顔を出した。先程会った彼女の父、珎王と一緒にいる。

「景華、柳鏡君はもう帰らなきゃいけないんだ。お見送りしなさい」

「ええー、もうちょっと!」

 小さな頬をぷっくりと膨れさせてそう抗議する彼女を見ていると、もう少しここにいたい気分にもなったが、彼女の父がその言葉に首を振った。

「ダメだよ。ほら、また明日も来てくれるから、な」

 父に抱きあげられて頭を撫でられると、景華は渋々と言った様子で頷いた。それを見た連瑛がホウ、と息をつき、息子を振り返る。

「柳鏡。……それでは陛下、失礼いたします」

「ああ。また明日も頼むよ、柳鏡君」

 どう返事をしていいのかわからなくて、彼は大きく二回、首を縦に振って見せた。そんな彼の頭を撫でてから、珎王は自分の腕に抱き上げた娘の顔を見る。

「ほら景華、お別れを言いなさい」

「……またきてね。ばいばい」

 寂しそうに小さな手を振って見せる彼女に、自分も手を振り返す。その日は、そんなふうに別れた。


「おかえりなさい。柳鏡、お城はどうだった?」

「楽しかったよ」

 家に帰った彼を迎えた母の最初の言葉が、それだった。そして彼の返答を受けて、彼女は深緑の柔らかい瞳を細めて笑う。

「そう、良かったわね。……ほら、お父様と一緒に手を洗っていらっしゃい。もうすぐ御飯だからね」

 母親のその言葉に見送られて、居間を後にする。彼らは現在、城下街の東の一角にある、清龍族の屋敷に寝泊まりしていた。代々の清龍族の部族長一家が使うことを許された屋敷で、行事や閣議が立て込んでいる時は部族長はこの屋敷から城に向かうのだ。今回は、柳鏡とその母親である蓮華もやって来ている。清龍の里と違って人目が少ないせいか、彼らは里にいる時よりものんびりと過ごしているようだった。

「お姫様はどんな子だった?」

 手を洗って戻って来た柳鏡と連瑛が席に着くと、蓮華は彼らの茶碗に米を盛りながらそう柳鏡に訊ねた。お姫様……。色が白くて、小さくて、真っ赤な目は大きくてまん丸で……。

「……うさぎみたいだった」

 そう彼が漏らした感想に母親は首を傾げ、父親は僅かに笑みをこぼした。

「姫君は色が白くて真紅の瞳をしていらっしゃるから、確かにうさぎに似ているかもしれないな」

 連瑛のその言葉で先程の柳鏡が漏らした感想の意味がわかったらしく、蓮華もニコリと笑って見せた。

「あら、かわいいお姫様なのね。よかったじゃない、柳鏡」

「うん、お姫様、かわいかったよ」

 笑顔でそう言う息子に、両親も揃って満面の笑みを返した。しばらく食事と何気ない会話で時間が過ぎたが、いち早く食べ終わった柳鏡が立ち上がった。

「ごちそうさま。おやすみなさい」

 そう言って自分の食器を洗い場に下げようとする息子を、母親が呼び止める。

「あら柳鏡、もう寝るの?」

「うん」

 そう言ってパタパタと寝室に向かって駆け出す息子の背中を、母親の声が追いかけて来た。

「ちゃんと歯を磨いてね」

「わかった」

 そう返事をするとくるりと方向変換をして両親の横をすり抜け、水場へ向かう。あっという間に歯磨きも終えて、また駆け戻って来る。

「おやすみなさい!」

 通りすがりにそう言って、彼は今度こそ寝室に行ってしまった。

「……疲れたんだろうか?」

 息子の背中を見送って心配そうに紡がれた連瑛のその言葉に、蓮華が柔らかい笑みを浮かべて首を振る。

「違いますよ。明日が楽しみなんじゃないかしら? だから早く寝て、早く明日になればいいと思っているんだと思いますよ」

「なるほどな……」

 柳鏡ののびのびとした様子は、両親にはとても嬉しいものだった。清龍の里にいては、どうしても確執の中に巻き込まれてしまうのだから……。そして。

「早く明日にならないかな」

 そう呟いて、彼は寝台に潜り込んだ。

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