龍神の随想 其の一
異国恋歌~龍神の華~の累計ユニーク人数が一万人を突破いたしました。
長い長いお話ですが、お付き合い下さっている皆様、本当にありがとうございます。
一万人突破記念というよりも、御礼ということで、彼らの子供の頃のお話を少し書かせていただきたいと思います。こちらにもお付き合いいただけると大変嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
少年は父に手を引かれて、見たこともないような大きな建物の中にやって来ていた。昨日城下の街に着いた時、明日はあそこに行くんだ、と父はこの城を指差していたが、まさか本当だったとは。少々不安を感じながらも、彼は父とともに歩いていた。
彼がこの城に呼ばれた理由は、二つ年下のお姫様の遊び相手としてだった。一体どんな子なんだろうか? 期待と不安に胸を膨らませながら、父についてやや早歩きに城の廊下を歩く。
「来たか、連瑛。ほう、その子が柳鏡君か?」
「はい陛下。私の末の息子の柳鏡です」
自分をじっと見つめる王の黒い瞳を物怖じすることなく彼は見つめ返していたが、やがて王がその顔をふっと綻ばせた。
「なかなか賢そうな子だな。ほら、景華。今日からお前のお友達になってくれる柳鏡君だよ。ご挨拶をしなさい」
そこで柳鏡は、珎王の視線の先に一人の子供の姿を見てとった。大きくて丸い真紅の瞳が、父親の影に半分隠れるようにして恥ずかしそうに覗いている。かわいい子だな、と彼は心の中で思った。
「はじめまして」
父に教えられたようにそう挨拶をすると、しばらく時間があってから、彼女は緊張が解けたかのようにぎゅっと握っていた父親の裾を離し、彼の真正面まで出て来た。その後、真紅の瞳がじっと彼を覗き込む。正直言って、彼は初めて見るその色を、今まで見た色の中で一番美しい、と思っていた。その色に深く魅入られてしまい、目を離せなくて困っていた、ちょうどその時。
「おんなじ!」
突如嬉しそうに笑う少女に、どう反応していいのか困って、彼は硬直してしまった。
「あなたのめ、わたしのかみとおんなじ!」
そう言って自分の髪を白い小さな手で持ち上げて、満面の笑みを浮かべる。どうやら、少なくとも自分は嫌われてはいないらしい。いやむしろ、初対面とは思えない程の信頼と好意をその少女から寄せられているように感じた。
「……」
そのあまりの衝撃に、彼はどうしようもなくなってその場にただ立ち尽くす……。これまでの人生で、あからさまな敵意や害意を向けられることはあっても、両親と姉以外からの自分に向けられる純粋な好意というものは、一度も感じたことがなかった。だからこそ彼は、こんなにも動揺してしまったのだ……。
「わたし、きょうか! おなまえは?」
純真な真紅の瞳に見つめられて、どうしようもなく緊張してしまう。覚束ない口調で、彼はなんとか自分の名を紡いだ。
「りゅう……きょう……」
しかしそんな彼の様子を意に介する様子もなく、彼女はニコリと笑って見せる。
「きれいななまえ!」
さらに笑みを深めてそう言うと、彼女は突然彼の手を取った。
「あっちであそびましょ!」
そう言って彼の手を引いて行こうとする彼女に困り、彼は一瞬父親を見上げた。
「行って来なさい、柳鏡」
父はそう言うと、目を細めて相好を崩す。どうやら彼女と遊んでいても良いようなので、彼は手を引かれるままに彼女について行った。つないだ小さな手の温もりが、後に彼の人生で最も大切なものになるとは、まだ知らずに……。
こんにちは、霜月璃音です。
累計ユニーク人数一万人突破御礼ということで書かせていただいている、景華や柳鏡の子供の頃のお話ですが、いかがでしたか?
また出来る限り毎日更新させていただけるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。