爆弾陛下と龍神 月光
「景華、ちょっと来なさい」
父に呼ばれて、彼女はその部屋を訪れた。室内に足を踏み入れると、連瑛と柳鏡が頭を垂れる。一体、何があったのだろうか……?
「お前に専属の護衛をつけようと思うんだが、どうかな?」
笑いながら、父親は娘の柔らかい髪を撫でた。かわいらしい真紅の瞳が、見上げてくる。
「いらないわ。四六時中びっちり見張られてるなんて嫌! ぜーったい嫌!」
そう言って、腕を上下に強く振りながら頬を膨らませる。彼女が甘え切っている相手にわがままを言う時にだけ見せるお決まりの仕草に、柳鏡は吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。
「そんなことを言うな。最近色々と危険な輩がいるからね、お前を危ない目に遭わせたくないんだよ」
「でもぉ……」
自分のためだと言われてしまえば仕方ないが、納得はいかないので口を尖らせて俯く。父がその様子を見て笑った。
「それにどうせ四六時中一緒にいた相手なんだから、今更いいじゃないか。なぁ、柳鏡」
「はい、陛下……」
普段の彼からは想像もつかない程恭しい様子で、彼が腰を折る。まさか……。
「お父様、まさか……。柳鏡を護衛に、なんて、言わないわよね……?」
「おお、そのまさか、だよ。どうだ、景華? 嬉しいだろう? これで私も安心だ」
珎王は、一人で満足気に頷いている。どうやら、彼は独りよがりなところがあるらしい。景華の肩が、ふるふると震える。
「やだーっ! 絶対に嫌! 柳鏡だけはダメっ!」
いつも意地悪で、口が悪くて、お小言ばかり多くて……。そんな彼に四六時中見張られているなんて、地獄だ。しかし、父は取り合ってくれない……。
「ははは、お前が素直じゃないのは父も承知だ。いやあ、良かった、良かった」
連瑛は、愛想笑いを崩さないように真剣になっている。かなり、辛そうだ……。
「本当に嫌ぁーっ!」
彼女の悲痛な叫びだけが、乾いた笑いが漂う部屋の中に響いた。
その夜、彼女は渡り廊下で膝を抱えて月を見ていた。その隣には、護衛の仕事としてそばに控えている彼の姿があった。
「意味わからない……。どうしてよりによって柳鏡なの?」
「あんたのドジに対応できるような器用な奴がそうそういないからだろ、反省しろ。俺だって嫌だし。あんたみたいなわがまま姫のおもりなんかするの、面倒くせえ」
本当は、そんなことは微塵も思っていない。ただ、彼女のそばにいられることが嬉しかった。ふと、景華の顔が曇る。
「……そう言えば、聞いたよ。柳鏡、お母様が亡くなられた、って……」
「ああ、先月な……」
二人とも、視線は相手には向けず、月に向けたまま話す。それで、ちょうど良かった。
「……寂しい?」
「あんたじゃあるまいし、そんなこと言わねえよ……」
そう言って月を見上げるその横顔は、大人びているが、辛そうだ。普段意地悪な彼にそんな表情を見せられると、胸がきゅっと苦しくなる。何とかして、元気づけてやりたい……。
「まあ、いいや。仕方ないから私の護衛で雇ってあげる! そうしたら、柳鏡もずっと一人ぼっちにならないでしょ?」
笑いかける彼女に対する答えは、いつもの調子で意地悪い。
「仕方ないのはこっちの台詞だ、アホ。俺に迷惑かけるなよ」
何かを企むかのような景華の含み笑いを、青白い月光が映し出した。