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最終話

 


 賢治は世斗の特別な相手に昇格した。


 甘い言葉を躊躇いもなく言うところも、たまに見せつけてくる財力の違いも、物の捉え方も、どれも賢治らしいという言葉で片付けられたが、一つだけ気が付いたことがある。


 賢治は意外にも朝が弱かった。


 ゆっくりと瞼を持ち上げる。何度か寝返りを打ってから起き上がった世斗は、まだ隣で寝ている賢治の髪を指で掬った。世斗の緩やかにウェーブする髪はパーマをかけていることもあるがもともと癖毛だ。セットをしていないとさらさらなストレートの賢治の髪は少しだけ羨ましくもある。ちょいちょいと軽く引っ張たりしていると賢治が眉間に皺を寄せた。


「ん、……おきたのか?」

「うん」


 腕を伸ばした賢治が時計を掴む。一度動きが止まり、二度寝したか?と思うタイミングで時計を顔の前に持ってきた。薄く目を開けて時間を確認するがそのまま時計を離す。代わりに髪をいじっていた世斗の指を掴んでまた目を閉じてしまった。

 恐ろしく寝起きが悪い。普段ちゃんとしているから余計にその姿が新鮮に見えて面白さが倍増する。もう一度横になった世斗が空いているほうの手で賢治の眉間の皺をつついた。


「おーい。そろそろ起きろって」

「……おはよう」

 人相が悪い顔で世斗を見る。まだ焦点がちゃんとあっていない賢治の頬に、世斗はわざと音を立てるようにキスをした。賢治の目が世斗にちゃんと合ってから「おはよう」と言うと、返事の代わりにキスをされる。


「賢治さんキス好きだよね」

 恋人という関係になったことでスキンシップが解禁された。こうしたキスは日常的なものに変わる。

「世斗君とすることは何でも好きだ」

 そう言ってもう一度キスをされた。賢治の言動から伝わってくる愛は世斗に自信をくれる。だから自分の中ではかなり我儘を言うようになったと感じていた。

「なぁ。たまには趣向を変えてやってみたりしなくていいの?」

 起きてすぐにする話じゃないが、ベッドの上でのキスが昨日の行為を思い出させた。

「世斗君はやりたいことがあるのか?」

「うーん、俺は別に変わった性癖とかないけど。ほら、色々あるでしょ」


 一度きりの相手と遊ぶのは世斗だけじゃない。

 世斗のように事情がある人間もいるがその多くは面倒がないからと言う。試してみたい体位、やってみたいプレイ、誰にも言ったことのない性癖。それらを試すのにちょうどいいという男はたしかに多かった。


 相手に合わせることを苦痛と思っていない世斗は、どんなことでも比較的柔軟に受け入れられる。


「俺はあまりそういったことに詳しくないからな」

「じゃ、試しにいろいろやってみる?」


 世斗の提案に賢治は苦笑する。

 この子は何を言い出したんだろう、と言いたげな視線に「だって」と続けた。


「賢治さん男初めてなのに、いつも俺ばっかり先に気持ちよくなっちゃうじゃん」

 それが悔しいと顔を顰めるときょとんとした賢治が肩を震わせた。

「そんな可愛い理由なのか?」

「笑い事じゃない。俺の自尊心?っていうか、そういうのが傷ついているってこと」

「そうか。それなら世斗君が出来ることをやってもらおうか」

「なにがいい?俺本当なんでもいけるんだよね。けっこう色々知っているほうだと思うよ。さすがに顔の上に座ってほしいとか、全身タイツ着てほしいとか、は笑ったけどさ。あっ、手錠してほしいとか尻叩いてくる奴とかもいたなぁ。SMっていうの?俺結構痛みに強いみたいだからそういうのも得意だし」


 過去の男たちとのプレイを思い返しながら世斗は指を数える。


「あとはコスプレものとか?俺の女装けっこう高評価だったよ。自分でやっているとこみたい、とかそういう恥ずかしい系が好きな人もいたな。なんか賢治さんやってみたいのあれば……」


 急に静かになったことに気が付いた世斗が顔を上げると、賢治が微笑を浮かべていた。


「賢治さん?」

「たしかに過去のことは気にしないと言ったが、嫉妬しないと言った覚えはない」

「え?嫉妬?」


 聞きなれない言葉に世斗はぽかんと口を開けたがすぐに気が付いた。

 今までの男たちなら世斗がこういうと喜んでくれた。自分の性癖も受け入れてくれると思ったのか、躊躇いつつも誰にも言ったことがないと打ち明けられたこともある。


 けれど賢治は恋人だ。


 恋人の前で過去の男としたプレイ内容の話をするのはよくなかったかもしれない。

 申し訳ないと思うより先に誰かに嫉妬されるということが初めてでむず痒い気持ちになる。


「賢治さん嫉妬してくれるんだ」

「何を当たり前なことを。……君はすぐに忘れるようだが、俺は恋人になったんだよ」

「忘れているわけじゃないって。慣れないだけ。でもそっか……嫉妬かぁ。えっ、じゃあさ、たとえば言葉攻めとか、電話で指示されて、とかそう言うのも嫉妬したりするの?」


 比較的簡単なプレイでも賢治は嫉妬してくれるのだろうか。

 さすがに怒られるかなぁと思いつつ緩んだ口元を手で隠しながら続けると、賢治はにっこりと笑って世斗を見つめる。


「世斗君の言う通りたまには趣向を変えようか」

「え?あ、……」


 野性の勘的なものがはたらく。

 (あれ。もしかしてなんか地雷踏んだ?)

 クールで綺麗な人の真顔は怖いというけれど、含みのある満面の笑みもそれはそれで不気味だ。


「なぁーんてね、冗談、冗談」

 ベッドから下りようとした世斗の腕を賢治が掴む。そのままぐいっと引っ張られバランスの崩れた身体は賢治のテリトリーに入った。


「恋人を揶揄う悪い子にはお仕置きをしようか」


 賢治はそう言うと貪るように世斗の唇を奪う。

(なんだ。そういうこと)

 えっちなお仕置きを期待した世斗が身体をくっつけると、賢治の左足に被さるようにころんと身体を転がされる。


「な、なに?」

「さっき世斗君が言っていただろ。ああ、でも。こういうのが得意なら罰にならないか」


 パチンと音がして驚いた世斗が振り返った。うっすらと笑ったまま賢治は指先をピンと綺麗に揃えた平手を見せる。そんなわけないよなと信じられない世斗の前で、賢治はその手を世斗のお尻に向かって振り下ろした。

「いたっ!賢治さん、これやだっ。こんなの叱られているみたいじゃんっ」

 抗議の声を上げると賢治はあっさりと「叱っているからな」と言った。もう一度お尻を打たれた世斗はいやいやと首を横に振る。賢治は手加減していないのか地味に痛い。


「やだってば。俺こういう意味で言ったんじゃねぇ」

「だから言葉って大切だろう?きちんと使わないとこういう目に合う」

「わかった、分かったからっ。痛いっ!もうわざと嫉妬させたりしないっ!」

「反省した?」


 世斗の顔が茹で上がったように染まった。

 完全に子ども扱いをされている。うぅと呻きながら「……した」と答えると賢治は体を起こしてくれた。真っ赤になった顔で睨みつけるが、賢治はフッと口元を綻ばせながらキスをする。


「良い子だ」

「こういうのは禁止!俺が言っているのはセックスのときの話なんだから。プレイのこと」

「あぁそっち」

「最初からそう言ってんだろ!」


 憤慨しながらそう言う世斗に堪えきれなくなったように賢治は声を出して笑う。

 この人がこうやって笑うところを知れたのは恋人になった特権なのかもしれない。おいで、と両腕を広げた賢治に飛びつくとギュッと抱きしめられる。


「でも世斗君は覚えておいたほうがいい」

「何が?」

「自分でも知らなかったが、俺は独占欲が強いようだ」

「えぇ、なんだよそれ」


 今度は世斗が笑った。

 特定の相手を作らず面倒なことから避けて生きてきたが、賢治に言われるとそれすら嬉しく感じてしまう。恋人というのは恐ろしい。


「世斗君が思い出すものは全部俺だったらいいのにと思ってしまう」

「どういうこと?」

「だから全て上書きさせてもらおうかな」

「……すべて?」

「ああ」


 恐る恐る問い返すとすぐに肯定された。微笑む賢治につられてぎこちなく笑みを浮かべる。冗談だよなと思う反面、期待しているのか体が疼いた。さっき言ったことすべて賢治がするのだろうか。……ほんとうに?


 なにより驚いたのはそう言われて強い反発心が生まれないこと。


 曖昧な笑顔を浮かべたまま「ところでさ……」と世斗は強引に話を変える。

 

 賢治同様、こうして世斗もまた新たな自分の一面を知るのであった。



二人の結末までお付き合いいただき本当にありがとうございました!

とりあえずこの二人のお話はここまで!

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