6.ハッピータイムクラッシャー
毎日、魔素を動かし、新たな管を繋げ、広げた。
管は硬くなりすぎず、ある程度の柔軟性を持たせるように硬化の際に加減する。
柔軟性を持たせることで、押し出された魔素の流れが早くなった際、急激に加圧されることを予防できる。
『圧が高いと技の発動スピードは早まるけど、体は痛む。柔軟性を持たせておけば、ある程度加圧も自由が効くから、ここぞという時だけ圧を上げればいい』
(とは言っても、そんな都合よく操作できなかったけどねぇ…)
師の言葉を思い返しながら、慎重に造成を進めていく。
一日に作り上げられる管は、径2cmのものであれば、長さは5cm程。径10μmであれば12cmを延長出来れば上出来といった具合だ。
成長期の終了までには短くとも、あと12年はあると思う。けれど、はっきりと終わりが分かるわけではない。ついつい焦りがちになるのを自分自身でコントロールしつつ、魔素の操作に専念する。
「ふう…おなかすいた」
昼の鐘の音を合図に、意識を浮上させると、すぐに空腹が襲ってきた。
とりあえず手元に用意しておいたビスケットを摘みながら、干し草のベッドを降りる。ランチボックスを持って階段を降り、今は使われていない馬舎を後にして、ガゼボに向かうことにした。
* * *
母をガゼボで見かけた次の日、この旧馬舎を見つけた。
今使われている馬舎も散策で見つけていて、そちらは二回りほど大きい建物だった。
おそらく、手狭になって建て替えた後、物置として使っているようだ。屋根裏は荷物を運び入れにくかったからか、干し藁が残っていた他は何もなく、埃が積もっているだけ。
日当たりはよく、窓を上げれば空気の流れもいい。何日か通って、人気がないことを確かめ、隠れ家にすることに決めた。
そして、しばらく経ったある日の午後。
ベッドで内省を行なっていたら、昼寝をしすぎていると勘違いしたアニーに乱雑に起こされるという事態が起きた。
それから内省をする日中はここに籠っている。
隠れ過ごすようになって二週間が経過した頃から、アニーの目が離れたタイミングにランチボックスが届けられるようになった。
おそらくベルの采配だと思うけれど、届けてくれるメイドが何か言うことはないし、シュリアから問いかけることもしていない。
「うわ〜きょうもおいしそう!」
蓋を開ければ、幼い手でも簡単に食べられるよう工夫された食材やカットされたフルーツが彩りよく配置されていた。ハムが花びらの形に飾り切りされていたり、チーズが蝶々の形にされていたりと目でも楽しめるような工夫がされていて、蓋を開けるのが毎日楽しい。
内省で魔素を消費したあとは猛烈に空腹だ。
シュリアはいそいそと手を伸ばしてサンドイッチを口に運ぶ。まずはチーズとハムのもの、そしてトマトとレタスのもの、次は卵。味の濃いものとさっぱりした野菜系のサンドイッチを交互に食べると無限に食べられそうな気がする。
「しあわせぇ…」
最後にとっておいた生ハムとレタスのサンドイッチを噛み締めるようにして味わう。
シャキッと小気味いいレタスの中に弾力性のある生ハムが隠れている。
食感の違いと絶妙な塩気が本当に美味しい。蓋を開けてすぐ、入っているかを必ずチェックするシュリアのお気に入りだ。
爽やかな屋外の空気がガゼボに穏やかに流れ込んできた。
すると余計、食事が美味しく感じられるから不思議だ。
小腹も満たされたことで、自然と笑顔になったシュリアはプチスイーツとフルーツに取り掛かる。
最初はフルーツだけが入っていたけれど、仕切りのレタスまで綺麗に平らげていたら、いつからから小箱に小さな焼き菓子が添えられるようになった。
「わ、ジャムクッキー!」
窪んだクッキーの中央に輝く紅いジャムの鏡面は陽の光を取り込んで宝石のように輝いている。甘酸っぱいベリーのジャムとクッキー部分の優しい甘さがたまらない、シュリアの大好きなお菓子だ。
果物の甘味が分からなくなってしまわないように、フルーツを食べて準備万端。
いざクッキーを食べようと、箱から持ち上げた時だった。
生垣が揺れる音がして、正面にのそりと少年が現れた。
(…誰かしら、この子)
身なりはそれなりだけれど、寝癖がついたままの赤い髪や不機嫌さを隠しもしない表情、そして何より歩くのにも一苦労しそうな体格からは品というものが感じられない。
歳の頃は5、6歳といった感じなのに、子どもらしい可愛さが欠落していた。
(兄は金髪だったわね)
食堂の絵とは似ても似つかない雰囲気の子ども。どうするべきか考えていると、少年は小さく舌打ちをしてこちらに足を鳴らして近づいてきた。
思わず身をすくめたシュリアを嘲るような笑みが見えた、直後。
「あっ!」
手にしていた菓子箱はその容姿からは考えられない程。素早い動作で取り上げられてしまった。
「かえして!」
手を伸ばして取り返そうとするシュリアを尻目に箱を開けると、躊躇いもせず一口で一枚。次は二枚を一度に口に押し込めてしまった。
「弁当じゃないのかよぉ。腹が一杯にならないじゃん」
顎の肉を揺らしながらグヒュっと不満そうに呟くと、少年はシュリアに箱を押し付けてきた。
「っ」
反動でシュリアが尻餅をついたのを面白そうに見下げてくる。
睨みつけても、どこ吹く風、といった様子だけれど、ニヤニヤとした口元からはシュリアの反応を楽しみに伺っている様子がありありと感じられた。




