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ティンバリー家令嬢は諸々ととのえる  作者: 綴伝助
一章 令嬢、家族関係をととのえる

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4.ぬくもり



 母の眼光が強すぎて、視線を外せそうにない。


 どうしようかと考えていたところで、母の食事が運ばれてきた。



「部屋に運んで。…部屋で食べるわ」

「奥様、しかし…」

「…気分じゃないの。マーサ、指示は受けなくてよ」

「…奥様、」



 高齢の使用人、マーサの言葉を待たず、席を立った母は、一瞬でも長くこの場に居たくないとでもいうかのように扉の向こうへと姿を消した。



(また、親運は悪そうだわ)



 また一つ前世の記憶が浮かんでくる。前世も親の愛情というのには縁がなかった。


 どうやら似たような体験をすると前世の出来事も蘇るらしいとシュリアは理解する。



 産まれは平民と大差ない子爵家。親は子どもに関心が薄く、家の存続と繁栄に夢中だった。祖父母によって育てられたが、それも義務的な世話の仕方だったように思う。



「ベル、私は奥様にお食事をお出ししてくるわ。あなたはこのままここへ」

「かしこまりました。」



 マーサは母と一緒にきた侍女に声をかけると、母を追って部屋を出ていった。


 

「うわ〜またお小言くらうわね、後妻様ぁ」



 アニーの失笑まじりの嘲りが食堂に響く。



「あら、こんな時間。旦那様のご用事に遅れてしまうわ。ベル、お嬢様をよろしくね〜」



 ベルという侍女は冷ややかな目で食堂を出ていくアニーを見ていたが、特に何かをいうことはなかった。


 食堂が再び静けさを取り戻す中、ベルは自然な足取りでシュリアの元にやってきた。



「お嬢様、よろしければこの後お庭に出られませんか。綺麗なブルーのお花が咲いておりますよ」



 ベルの小さな微笑みに、気遣われていることを感じる。久しぶりに与えられた優しさにシュリアの表情も自然と和らいでいた。



「そうね。つれていって」

「かしこまりました。少し遠いのですが、歩かれますか?」



 歩きか、ベルが抱えるか。

 選択肢を提示されて改めて、シュリアは自分年齢を意識した。



「…だっこがいいわ」



 前世は25歳まで生きた。死の間際の記憶があるせいで、子ども扱いに多少違和感がある。

 一方で、肉体の年齢に精神も影響を受けているのか、甘えたい気持ちがあるのも事実。



(生きたいように生きると決めたものね)



 手を伸ばせば、ベルがそっと抱き上げてくれた。落とさないように抱きしめ、歩き出す。

 その揺れはとても新鮮で、心地よかった。



「お嬢様、」

「…なぁに?」

「奥様は、お嬢様のことを大切に思われていらっしゃいます。ただ今は、少し、ご事情がおありなのです」

「……」

「もし、何かあれば私かマーサをお呼びくださいね。すぐにこうしてお迎えにまいりますから」

「…うん」



 シュリアは目を瞑り、優しく響くベルの声に耳を傾けた。





* * *





 ベルに気遣われ散歩をした後、部屋に着いた途端、どっと疲れがのしかかってきた。



(体調は改善したとはいえ、一進一退といったところね)



 内省をして魔素循環の改善に手を入れ始めたばかり。良くなったように思えたが、まだまだ油断はできないようだ。


 ふらふらとした足取りでベッドに向かい、倒れ込む。目を瞑り、呼吸を整えてから自分の内側へ意識を集中させた。

 魔臓に意識を集中させれば、臓器中に詰まった魔素がどろりと澱んでいる感触があった。



(すぐ滞るわね。それだけ生産が豊富ということだろうけど)



 狭い場所で詰まり、循環が滞った魔素は次第に硬くなる。

 柔らかな袋の中に固い石をぎゅうぎゅうに詰め込むような状態が続けば、最後、袋が破れる。礫となった魔素は他の臓器を痛めつけ、自身を滅ぼす剣になってしまう。



ーー重要なのは循環していることであって、排出することではない。排出すれば、圧が下がり一時凌ぎにはなるが、循環が作れれば魔素は攻撃性を持たず、体内に貯蔵することができる。



ーー内省を極め、体中に排出管を構築することができて漸く、魔素を余すところなく使いこなせる下準備ができたと心得よ。



 前世の教えを思い出しながら、まずは淀み始めた魔素を動かし、今のスペースの中でぐるぐると巡るようにした。


 魔素は意識しないと動性が生じない。

 魔臓には魔素を循環させる機能が備わっているものの、まだ未発達なため、魔素が澱んでくると効果が著しく下がってしまうという問題点がある。


 それらを意識して改善しながら、魔素を用いて魔臓から伸ばした排出管を延長させる。



(動性を無くして硬化させた魔素を管状にして両端を魔臓に接続。あえて魔臓に穴を開けて、管に魔素を流す。一つできたら、また次、それもできたら、また次…)



 体内という限られたスペースにどうやれば長く、長く、敷けるか。

 細すぎては圧がかかりすぎるが、太すぎては細部まで行き渡らせることが難しくなる。



(作り込みすぎてもいけない)



 体は日々成長している。大きくなればそれだけ、新たなスペースができる。今の時点で完成させてはいけないのだ。



(川のように、迷路のように、道のように、血の管のように)



 その後、どれだけの時間を流れの構築に費やしたのか分からないまま、限界を迎えたシュリアは眠りに落ちていた。



 夢の中、温かな風が優しく髪を梳いていく。


 風に囁かれたような気がしたけれど、深い眠りの淵、聞き返すことはできなかった。




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