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ティンバリー家令嬢は諸々ととのえる  作者: 綴伝助
一章 令嬢、家族関係をととのえる

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1/4

1.転生は罰として


ーーーどうしてこうなったの。


 細切れにしか続かない意識で×××は問いかける。

 答えが返ってくることはない。×××を取り囲む人々は皆目深に外套を被り、ひたすらに呪文を紡ぎ続けている。


 痛み、痛み、痛み。

 絶え間ない苦痛が襲ってくる。身体の中を鋸でこそげ取られるような、猛獣の爪で内側を滑されるようなそれは罰に相応しい。


ーーーどうして…?


 けれど、×××は分からない。この罰は、何の罪によるものなのか。


 ただ、政略的に決められた彼を慕い、隣にあるため相応しくあろうとしたはずだった。

 国母となることに誇りを持て、気高くあれと求められ、応じるままに励んだつもりだったのに。


 共に手を取り歩むはずだった彼は×××を悪だと言った。


 罪には罰を。悪には滅びを。


 何度目とも分からない猛烈な虚脱感が×××を襲う。命の終わりが近い。


 それは刑の執行の時でもあり、同時に救いの時でもあると思えてならなかった。


 そして、一つの命は徒いたずらに散らされた。





* * *




 確かに命の灯火が掻き消されたと思った。

 数瞬の後、もたらされたのは痛い程の光。


「奥様!おめでとうございます。元気いっぱいの姫様にございますよ」


 二つの泣き声が聞こえた。大人のものと、そして、もう一つはどうやら自分が発しているものらしい。


「女の子…それでは、名は、シュリアね」


 母らしき人の声は沈んでいた。


ーー罰、そう、罰だものね


 赤子として産まれ直した理由を思い、エレノオーラは母は自分を疎んでいると結論づけ、納得した。


 祝福されるはずなんてない。だって自分は罰として今ここに生を受けているのだから、と。


ーー酷く眠いわ…


 産まれたばかりの赤子とはこんなに体が重いものなのか。


 母の胸に必死に吸い付きながらも、意識はどんどん沈んでいく。あれほど眩しいと感じていた光もいつの間にか気にならなくなり、シュリアは気づかないうちに眠り込んでいた。





* * *





(って、これは大変不味いのではないかしら?!)


 エレノオーラの意識は、唐突にまた浮上した。


(この感じ、紛れもなく、過剰症だわ…)


 産まれた直後眠り込んで以来、ぼんやりと微睡んでいた意識。それが急速にはっきりとしてきた。それに伴って、遠のきかけていた前世の記憶も再び手元に戻ってきた。


(どれぐらいぼんやりしてたのかしら…多分、年単位…?)


 熱でぼやけた視界で自らの手を目の前にかざしてみる。明らか大きくなっている。

 視界の開け方も産まれたて、という感じではない程によく見えていた。


 うつ伏せていた体をどうにか動かし、横向きに寝そべる。

 

 どうやらここはシュリアの部屋のようだ。覚えのあるぬいぐるみが脇に転がっている。


「まあ!シュリア様、そんなとこで寝そべって!お行儀が悪いですよ!」


 声がした方にゆっくりと視線をやれば、そこには少しふっくらとした若い女性の姿が見えた。

 拙い記憶を浚い、前世の知識と合わせればシュリアの乳母らしいことがわかる。


(しかも、質の悪い、ね)


 明らか様子がおかしい主人の子に、行儀悪いと小言をこぼすあたり言わずもがな。

 余計体調が悪くなった気がするのは間違いじゃないだろう。


「ベッドにつれていってほしいの…なんだかとってもつかれてしまって」


 下手に伝えれば、乳母は一瞬息を飲んだ様子になる。まるで、反応されるとは思っていなかった、とでも言わんばかりだ。


(私、喋れる年齢よね…?私何歳、っても聞けないし…。困ったわ)


 怪しまれないよう、話すのは必要最低限にしておかなければと考えていると、我に返ったらしい乳母がぶつくさ文句を言いながらもシュリアをベッドまで運ぶ。掛け布団の上にポイ、の乱雑さだ。


「じゃあ、またお昼ご飯になったら来ますわ。それまで寝ていらっしゃい」


 自由時間が出来たことが嬉しいのだろう。弾むような声で、言い残し乳母は一片の躊躇もせず部屋を出ていった。


「ほんとうに、わたし、うまれかわったのね…」


 熱があるし、過剰症特有のチクチクとした節々の痛みもある。

 けれど、それが逆にシュリアに生きているという実感をくれた。


「いきてる」


 こんな体調で、幼い中放っておかれるような環境だけれど、確かに今、シュリアは生きている。


 なんの罪もない、罰もない状態で。


「じゆう、そう。じゆうになった…」


 罰としての転生だった。私情を振りかざして国を混乱させたと切って捨てられ、弁解も許されることはなかった。

 振り回され使い捨てらた過去。


 全ては終わった。


「こんどは、すきかってにさせないわ。…だれにも、だれにも。」


 窓の向こう、滲んでぼやけた、けれど、どこまでも広がる青い空がシュリアを祝福していた。





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