最初の雪と温かな夜
それから十日後。 まるで工事の完了を待っていたかのように、その日の夜半から雪が降り始めた。 朝起きると、世界は白一色に染まっていた。 例年より早い初雪。しかも、積雪量は足首が埋まるほどだ。もし改修が間に合っていなければ、確実に数人の凍死者が出ていただろう。
だが、今の村は違った。 分厚い土壁に覆われ、一見すると土饅頭のように不格好になった家々だが、それぞれの煙突からは細く白い煙が立ち上っている。
澤北はタケルと共に、各家庭を見回った。
「どうですか、寒くはないですか?」
訪ねた家々で返ってきたのは、満面の笑みと感謝の言葉だった。
「おお、澤北殿! 見てくれ、囲炉裏の火をいつもの半分にしても、こんなに暖かいんじゃ!」 「赤ん坊が夜泣きせずにぐっすり眠れたのは初めてだよ」
どの家に入っても、ほっとするような空気の層がある。 外気温は氷点下だろうが、室内は十度以上は保たれている感覚だ。現代の住宅には及ばないが、生存するには十分すぎる環境だ。
その夜、村長の家でささやかな宴が開かれた。 村の役職者たち――村長、タケル、ガンテツ、そして澤北が集まり、囲炉裏を囲んで自家製の濁り酒を酌み交わす。
「澤北殿に、乾杯」
村長の音頭で、粗末な木の杯を掲げる。 酸味の強い酒だったが、澤北には最高級のワインより美味く感じられた。
「正直、最初は疑っていた」
酒が回り、赤ら顔になったガンテツが口を開いた。
「知識があるだの何だの言っても、どうせ口先だけの軟弱者だろうと思ってたんだ。だが……お前、泥仕事から逃げなかったな」
ガンテツの太い指が、澤北の手を指差した。 その手は、あかぎれと切り傷だらけで、爪の間には取れない泥が染み込んでいた。
「その手は、働く男の手だ。……認めてやるよ。お前は、俺たちの仲間だ」
ガンテツがニカっと笑い、背中をバンと叩いた。 痛かったが、嬉しかった。 タケルも横で笑いながら、酒を注いでくれる。
「良かったな、澤北。ガンテツのお墨付きをもらえれば、もう村で文句を言う奴はいねえよ」 「ありがとうございます……。でも、まだこれからです。冬は始まったばかりですから」
澤北が謙遜すると、村長が深く頷いた。
「そうだ。冬は長い。食料もまだ十分とは言えん。だが……希望はある。こんな気持ちで冬を迎えるのは何年ぶりだろうか」
村長は目を細め、パチパチと爆ぜる囲炉裏の火を見つめた。
「タケルよ。お前が連れてきた男は、本当に『宝』だったようだな」 「へへ、俺の目に狂いはなかったでしょう?」
タケルが得意げに胸を張る。 その横顔を見て、澤北はふと思った。 タケルはこの村の出身のようだが、一度外に出ている。そして「戻ってきた」と言っていた。彼にも、語られていない物語があるはずだ。 だが、今は聞くまい。今はただ、この温かな空気に浸っていたかった。
外では風が唸り声を上げている。 しかし、分厚い土壁に守られたこの空間は、揺るぎない安息の地だった。




