表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再生の物語 つながりを紡ぐ  作者: 冷やし中華はじめました
土と炎と知識の苗床

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/56

「食べられるもの大全」の萌芽

 作業は困難を極めた。  まず、「見分けがつかない」という問題だ。  澤北にとっては図鑑の知識と実物が一致するが、村人にとっては「ただの草」と「食べられる草」の区別がつかない。

「澤北さん、これは?」 「それはドクゼリです! 絶対に食べちゃダメです。似てますが、根元の形が違います」 「こっちは?」 「それはただの雑草ですね……あ、でも繊維が強いから縄の代わりになるかも」

 澤北は森の中を走り回り、一人一人の手元を確認して回った。  効率が悪い。このままでは、自分が倒れるか、誤食事故が起きるかだ。  知識を「定着」させる仕組みが必要だ。

(紙があれば……いや、紙なんて贅沢品はこの村にはない)

 澤北は地面の土に枝で絵を描きながら説明していたが、ふと、村の一角に積み上げられた廃材――壊れた家の壁板に目が止まった。

「タケルさん、あの板、使っていいですか?」 「ああ、薪にする予定のやつか? 構わんが」

 澤北は炭を拾い、板の表面に大きく植物の絵を描き始めた。  美術の成績は良くなかったが、特徴を捉えることには集中した。葉のギザギザ、茎の色、根の形。

「いいですか、皆さん! ここを見てください。これが今日探す『オオバコ』の特徴です。葉脈がこう、縦に走っているのが本物。似ているけど網目状なのは偽物です!」

 板を掲げると、村人たちが集まってきた。

「へえ、絵にすると分かりやすいな」 「なるほど、ここを見ればいいのか」

 これが、後に村の宝となる**『食べられるもの大全』**の最初の1ページだった。  薄汚れた廃材に、炭で描かれた拙い絵。だがそこには、生き延びるための情報が詰まっていた。

 昼過ぎ、成果は上々だった。  籠いっぱいの野草、そしてタケルたちが持ち帰ったヘビやカエル(村人たちは悲鳴を上げたが、澤北は貴重なタンパク源として称賛した)。  村の広場に戻り、早速加工作業に入る。

「ヘビは皮を剥いで、骨ごと叩いて団子にします。カエルも同様です。見た目を誤魔化せば、鶏肉と変わりません」 「……本当に食うのか?」

 顔を青くする女性陣に、澤北は自らナイフを振るって見せた。  前世、魚を捌く動画を延々と見ていたのが役に立った。内臓を傷つけずに取り出し、皮をするりと剥ぐ。その手際の良さに、周囲から感嘆の声が漏れる。

「生きるためです。慣れれば美味いもんですよ」

 大鍋で煮込み、アクを丁寧に取る。  やがて、肉の焼ける匂いとスープの香りが漂い始めると、嫌悪感は空腹感に負けた。

 その日の夕食。  「ヘビ団子の汁」を恐る恐る口にしたガンテツが、目を見開いた。

「……なんだこれ。獣の臭みがねえ」 「泥抜きをして、香草と一緒に叩きましたからね。精がつきますよ」

 澤北が言うと、ガンテツは無言で汁を飲み干し、お代わりを要求するように椀を突き出した。  言葉はなくとも、それが認めた証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ