鋼鉄の解体新書
停泊四日目。 澤北は提督に、一枚の絵を見せた。 壊れたエンジンの絵と、工具を持った職人の絵。 「修理を手伝おうか?」という提案だ。
提督は少し迷ったが、長旅で機関部に不調が出ていたのも事実だった。 それに、この未開の地の住民に、高度な蒸気機関の秘密など理解できるはずがないという侮りもあった。 彼は鷹揚に頷き、機関室への立ち入りを許可した。
それが、致命的なミスだった。
送り込まれたのは、ガンテツ率いる鍛冶師集団と、北の山の民の精鋭たちだ。 彼らは機関室に入った瞬間、目の色を変えた。 「……宝の山だ」
ガンテツが震える声で呟いた。 彼らは修理などしなかった。 やったのは、徹底的な「計測」と「模写」だ。
ノギスや定規を当て、部品の寸法をミクロン単位で測る。 羊皮紙に詳細なスケッチを描き込む。 材質を調べるために、目立たない場所をヤスリで削り取る。
帝国機関士が「No! What are you doing!(何をしている!)」と怒鳴っても、ガンテツはニコニコしながら酒瓶を渡し、肩を組んで誤魔化した。 言葉が通じないフリをして、図々しく、かつ貪欲に。
三日間で、彼らは蒸気機関の「魂」を抜き取った。 ボイラーの耐圧構造、ピストンの連動機構、スクリューへの伝達軸。 すべてが羊皮紙に記録され、澤北の元へ届けられた。
「……解析、完了か」
執務室で報告を受けた澤北は、分厚い図面の束を撫でた。 これで、この都市も蒸気船を作れる。 準備は整った。




