将を射んとすれば
戦場は一方的な狩り場と化していた。 だが、タケルとガロウの狙いは一つだった。
「逃がすな! あの金ピカの鎧だ!」
ガロウが指差す先、親衛隊に守られて逃げようとするバルトロメウス伯爵の馬があった。 ガロウは走りながらクロスボウを構え、正確無比な射撃で護衛の騎士を射落とす。
「どけぇぇ!」
タケルが大剣を振るい、立ち塞がる歩兵を吹き飛ばして進む。 伯爵の目の前に躍り出たタケルは、馬の足を剣の腹で払い、伯爵を落馬させた。
「ぐわっ!」 「チェックメイトだ、領主様」
タケルは泥まみれの伯爵の首元に、剣先を突きつけた。 肥満体の伯爵は、顔を青ざめさせ、震えながら命乞いをした。
「た、助けてくれ! 金ならやる! 領地もやる!」 「金なんかいらねえよ。……俺たちが欲しいのは、静かな暮らしだけだ」
タケルは伯爵の襟首を掴み上げ、引きずっていった。
正午過ぎ。 戦闘は終わった。 村の広場には、武装解除された数百人の捕虜と、縛り上げられたバルトロメウス伯爵が座らされていた。 澤北は、まだ硝煙の匂いが残る大砲の横から降りてきた。
その顔に、勝利の笑顔はない。 あるのは、仕事を終えた事務的な冷徹さだけだった。
「……死傷者は?」 「味方は軽傷が十数名。死者はゼロだ。……敵は、三百以上死んだな」
ガロウの報告に、澤北は短く頷いた。
「三百の命か。……重いな」 「だが、俺たちが生きるためだ」
澤北は伯爵の前に立った。 伯爵は澤北を見上げ、憎々しげに、しかし怯えながら言った。
「き、貴様……ただの農民ではないな? あの雷は何だ? どこの国の魔術師だ?」 「私はただの、この村の『責任者』ですよ」
澤北は静かに答えた。
「伯爵。あなたを殺しはしません。……ですが、これから長い長い『商談』をさせていただきます」




