消耗と犠牲
三日目。 戦況は膠着状態に陥っていた。 領主軍は攻め手を欠き、村の周囲を遠巻きに囲む「兵糧攻め」に切り替えたのだ。 投石機による岩の投擲が、時折村の中に着弾する。
村の中にも疲労の色が濃くなっていた。 負傷者が運び込まれる仮設病院(集会所)。消毒用アルコールと清潔な包帯のおかげで死亡率は低いが、うめき声が絶えない。
「先生……いつまで続くんですか?」
看護に当たっていたリクの母が、血に濡れた手で澤北に尋ねた。 その目は責めているのではない。ただ、終わりが見えない不安に耐えている目だった。
「……もうすぐです。あと少しで、終わらせます」
澤北は彼女にそう告げ、病院を出た。 嘘ではない。だが、確証もない。 もし敵が援軍を呼べば? もし食料が尽きれば? 不安が、黒い澱のように胸に広がる。かつての「弱い自分」が顔を出しそうになる。 逃げたい。謝りたい。許されたい。
澤北は一人、村外れの教会――と言っても、十字架があるだけの小さな小屋に入った。 誰にも見られない場所で、彼は膝をついた。
澤北は手を組んだ。 特定の神を信じているわけではない。 だが、祈った。 自分の内なる良心、あるいは「大いなる意思」に向けて。
(どうか、私に力を。敵を憎む心ではなく、ただ任務を遂行する冷徹さを。……そして、この選択が間違っていたとしても、背負い続ける強さを)
リクの顔が浮かぶ。 北の雪山での後悔。 それを忘れてはいけない。感傷で判断を鈍らせてはいけない。 自分は、この村の三百人の命を預かる「システム」そのものにならなければならない。
数分後。 小屋を出た澤北の顔からは、迷いが消えていた。 そこへ、ガンテツが煤まみれになって走ってきた。
「澤北! できたぞ!」
その言葉に、澤北の目に鋭い光が宿った。
「……完成しましたか」 「ああ。俺の最高傑作だ。……あんな化け物、見たことねえぞ」
澤北は頷き、ガンテツの工房へと向かった。 そこには、布に覆われた巨大な筒状の物体が鎮座していた。 最終兵器。 戦況を一撃で覆し、中世を終わらせるための鍵。
「青銅の大砲……」
澤北はその冷たい金属の肌を撫でた。 北の山の民の鋳造技術と、ガンテツの精緻な加工技術、そして澤北の知識が融合した悪魔の兵器。
「明日の朝だ」
澤北は告げた。
「夜明けと共に、全てを終わらせる。……革命の砲声を上げよう」




