夜の悪夢
夜が来た。 領主軍は村から離れた場所に陣を敷き直していた。初戦の敗北による動揺は激しいが、まだ兵力差は圧倒的だ。 彼らは夜明けと共に、数で押し潰す総攻撃を仕掛けてくるだろう。
「眠らせるな」
作戦会議で、澤北は短く言った。
「恐怖を植え付けるんだ。この村には、人間の力では太刀打ちできない『何か』がいると思わせろ」
深夜。 敵陣営が静まり返った頃。 ガロウ率いる「赤狼隊」――山岳移動に長けた特殊部隊が、闇に紛れて敵陣の背後に忍び寄っていた。 彼らが持っているのは、武器ではない。 土器の中に火薬を詰めた、特製の**「音響手榴弾」**だ。殺傷能力は低いが、音と光は強烈だ。
「……始めろ」
ガロウの合図で、導火線に火が点けられ、敵陣の馬繋ぎ場やテントの近くへ投げ込まれた。
カッ!! 閃光が闇を切り裂く。 直後、ドォォォォォン!! という雷のような爆音が連続して轟いた。
「な、なんだ!?」 「魔法攻撃か!?」 「馬が! 馬が暴れてるぞ!」
爆音に驚いた軍馬たちが手綱を引きちぎり、陣中を暴走する。テントが踏み潰され、兵士たちが逃げ惑う。 そこへ、ガロウたちが追い打ちをかける。 闇の中から、不気味な獣の遠吠えのような声を上げ、さらに爆弾を投げ込む。
「魔女だ……!」 「ここは呪われてる! 悪魔の村だ!」
誰かが叫んだ恐怖の言葉は、伝染病のように広がっていった。 未知の爆発音。見えない敵。そして初戦の惨敗の記憶。 領主軍の士気は、夜明けを待たずに崩壊し始めていた。
丘の上からその混乱を見つめながら、澤北は静かに目を閉じた。 恐怖を利用する。 それは、かつてリクを食った村人たちが持っていた狂気と同じかもしれない。 自分もまた、彼らを食い物にしているのだ。




