銀の騎士団
その日の朝、地平線が銀色に染まった。 朝霧の向こうから現れたのは、領主バルトロメウス伯爵が誇る正規軍、総勢二千。 先頭を行くのは重装騎兵団だ。磨き上げられた鎧が朝日を反射し、槍の穂先が森のような威圧感を放っている。その後ろには、徴用された歩兵や弓兵が蟻の列のように続いていた。
対する村の防衛戦力は、わずか三百。 老人や子供を北の山へ疎開させた後、残ったのはタケルたち自警団と、元赤狼村の男たち、そして武器を手に取った農夫や女性たちだけだ。
敵軍は、村の手前にある平原で布陣を敷いた。 指揮官らしき男が、騎馬を進み出させ、大音声で叫んだ。
「反逆者どもに告ぐ! 慈悲深い領主様は、今一度だけ機会を与えてくださる! 即刻武器を捨て、首謀者を差し出せば、他の者の命だけは助けてやろう!」
村の見張り台の上で、澤北はその様子を冷ややかに見下ろしていた。 隣には、同じく冷たい目をしたタケルと、ニヤリと笑うガロウがいる。
「……相変わらずだな。自分たちが絶対的な強者だと信じ込んでやがる」
タケルが吐き捨てた。 彼らの目には、村の周囲に張り巡らされた「異様な光景」が見えていないのだろうか。 村の周囲数百メートルにわたり、地面は奇妙に波打ち、泥だらけの溝が幾重にも掘られている。所々に、トゲのある鉄線が絡まった木の柵が乱雑に置かれている。
中世の騎士には理解できないだろう。 それが、騎兵を殺すためだけに設計された**「塹壕」と「鉄条網」**であることを。
「交渉の余地はありません」
澤北は静かに言った。 そして、傍らに設置された合図用の旗を振り上げた。 赤い旗。開戦の合図だ。
「撃て」
ヒュンッ! 風を切る音と共に、敵の指揮官の足元に一本の矢が突き刺さった。 宣戦布告だ。 指揮官は顔を真っ赤にして剣を抜いた。
「愚か者め! 蹴散らせ! 一人残らず皆殺しにしろ!」 「突撃ぃぃぃ!!」
ラッパが鳴り響き、数百の騎兵が一斉に地面を蹴った。 地響きが村を揺らす。 死の津波が迫ってくる。だが、澤北は微動だにしなかった。
「……ようこそ、キルゾーン(殺戮地帯)へ」




