黒色火薬の覚悟
村の隅、川下にある一角が封鎖され、「火薬工房」となった。 そこには強烈な異臭が漂っていた。 硝石作りだ。古民家の床下の土や、排泄物を発酵させた堆肥を煮詰め、結晶を取り出す。
「くっせえな……本当にこれが最強の武器になるのか?」
鼻をつまみながら作業する村人に、澤北は黙々と指示を出す。 自らも糞尿まみれになりながら、温度管理をする。
硝酸カリウム(白)、硫黄(黄)、木炭(黒)。 これらを粉末にし、混ぜ合わせる。 比率は、重量比で 75 : 10 : 15。 前世で覚えた知識が、指先を通して現実の物質になる。
静電気一つで爆発しかねない危険な作業だ。 だが、澤北に恐怖はなかった。 北の小屋で見た地獄に比べれば、爆死など安らかなものだ。
数日後。 試作品の黒い粉が出来上がった。 澤北はそれを壺に詰め、導火線を垂らして、村外れの岩場にセットした。
「みんな、離れていろ! 耳を塞げ!」
澤北が火をつける。 導火線がチリチリと燃え進む。
今、自分が作っているのは「殺戮の道具」だ。 それを認める。正義の武器などない。これは人を殺すためのものだ。 だが、それが必要なのだ。
ドォォォォォン!!
鼓膜を破るような轟音と共に、巨大な岩が粉々に砕け散った。 黒煙が舞い上がる。 村人たちが腰を抜かし、悲鳴を上げる中、澤北だけがその黒い煙を静かに見つめていた。
「……成功だ」
その威力は、剣や弓の比ではない。 これなら、騎士の鎧も、城壁も、全てを紙切れのように引き裂ける。
その時、見張り台の鐘が鳴った。 敵襲ではない。使者の到着だ。 領主バルトロメウスからの最後通告を持った、軍使が現れたのだ。
澤北は煤で汚れた顔を拭いもせず、振り返った。 その表情は、かつてないほど冷徹で、そして静かだった。
「タケル、ガロウ。……戦争の準備だ」
黒煙が風に流れていく。 硝煙の匂い。それは、自由への渇望と、血の匂いが混じった、新しい時代の香りだった。




