ドワーフの末裔
雪山を越え、黒い煙を吐く火山地帯へ足を踏み入れた時、澤北たちの消耗は限界に達していた。 だが、澤北の目は爛々と輝いていた。 硫黄の匂い。腐った卵のような、しかし今の彼にとっては希望の香りだ。
火口近くの洞窟に、彼らはいた。 「山の民」。 身長は低いが、岩のような筋肉をした一族。伝説にあるドワーフの末裔かもしれない。彼らは地熱を利用して暖を取り、わずかな苔や地中の虫を食べて生き延びていたが、彼らもまた飢餓の淵にいた。
澤北たちが姿を現すと、山の民たちは警戒して槍を構えた。 以前の澤北なら、ここで両手を挙げて「敵意はない」と笑顔を見せただろう。 だが、今は違う。
「ガロウ。威嚇しろ」
澤北の冷たい命令に従い、ガロウがクロスボウを発射した。 矢は山の民の足元、わずか数センチの地面に突き刺さった。彼らが怯んだ隙に、タケルが前に出て大剣を叩きつけ、圧倒的な武力を見せつける。
「……話を聞け。殺しに来たわけじゃない」
澤北は前に出た。 澤北は自問する。これは暴力か? 脅迫か? そうだ。だが、これが最も効率的だ。 以前のような「相手の善意に期待する」甘さは、リクを殺した欠点だ。その欠点を取り除くために、あえて強者の論理を振るう。
「取引だ。お前たちの長を出せ」
現れた長老に対し、澤北は単刀直入に告げた。
「この山にある黄色い石――硫黄を俺たちによこせ。それと、お前たちの持つ鍛冶の技術もだ。俺たちの村に来て、武器を作れ」 「……断ると言ったら?」 「このまま飢え死にするだけだ。俺たちが去れば、二度と助けは来ない」
澤北はリュックから、最後の食料である「乾燥芋」を取り出し、地面に放り投げた。 犬に餌をやるような仕草だった。
「俺たちの村に来れば、これが毎日腹いっぱい食える。暖かい寝床もある。……誇りを持って死ぬか、俺の下で働いて生きるか。選べ」
屈辱的な提案だ。だが、生存本能には抗えない。 長老は震える手で芋を拾い、齧り付いた。その目から涙が溢れる。 「……従おう。我々の命、あんたに預ける」
契約成立。 澤北は表情一つ変えなかった。 同情もしない。友情も求めない。ただ、利害の一致。 それが、リクを失った代償として手に入れた、新しい「関係の築き方」だった。




