白い地獄の晩餐
吹雪が強まり、視界がゼロになりかけた時。 風の切れ間に、黒い影が見えた。 集落だ。雪に埋もれるようにして、十軒ほどのボロボロの小屋が建っている。 驚くべきことに、一つの煙突から細く煙が上がっていた。
「人がいる! 助かった、暖を取らせてもらおう!」
澤北は声を上げた。 タケルとガロウは武器に手をかけ、警戒しながら近づく。 入り口付近に立つと、ギギィ……と音を立てて、小屋の扉が開いた。
中から数人の村人が出てきた。 彼らは人間というより、皮を被った骸骨のようだった。眼窩は落ち窪み、皮膚は土気色に変色している。ボロ布を体に巻きつけ、ゆらりとこちらを見ている。
「……旅の方、か?」
しわがれた声で、長老らしき男が尋ねてきた。
「突然申し訳ない。吹雪で道を見失ってしまったんです。一晩だけ、軒先を貸していただけませんか」
澤北は努めて明るく、友好的に接した。 そして、いつもの「成功パターン」を使った。懐から、干し肉の塊を取り出したのだ。
「お礼と言っては何ですが、食料もあります。皆さんに分けますから」
干し肉を見た瞬間、村人たちの目の色が変わった。 虚ろだった瞳に、ギラリとした異様な光が宿る。 彼らは無言で頷き、手招きをした。
「ありがとう、ございます……。さあ、中へ」 「澤北」
ガロウが澤北の腕を掴んだ。その声は鋭く尖っていた。
「やめとけ。ここはおかしい」 「どうしたんですか、ガロウさん。彼らは困ってるんですよ」 「匂いだ。……家畜の匂いがしねえ。畑もねえ。こんな雪山で、こいつらは『何を』燃やして暖を取り、『何を』食って生き延びてるんだ?」
ガロウの野生の勘が警鐘を鳴らしていた。 だが、澤北は吹雪で凍えるリクたちを気遣い、その警告を振り切った。
「外にいたら凍死します。警戒は解かずに、とにかく中に入りましょう」
それが、決定的な過ちだった。 澤北は、自分の良識が通じる相手だと、勝手に思い込んでいたのだ。飢餓という極限状態が、人の形をした何か別の生き物を生み出すことを、知識としては知っていても、肌では理解していなかった。




