武力か、服従か
その夜、集会所は怒号に包まれていた。
「殺しましょう!」
ガロウがテーブルに短剣を突き立てた。
「あんな豚一匹、夜中に寝込みを襲えば終わりだ。護衛の兵士だって十人程度。俺とタケルたちで奇襲すれば、五分で片付く」 「そうだ! ふざけるな! 八割だと? 俺たちが汗水垂らして作った麦を、何もしねえ奴らにくれてやる義理はねえ!」
赤狼衆の男たちも、地元の若者たちも、完全に臨戦態勢だった。 ガンテツすらも、腕組みをして唸っている。
「職人を差し出せってのは、俺たちの魂を売れってことだ。……俺も、戦う方に賛成だ」
村の世論は「開戦」で統一されていた。 今の村には鉄の武器がある。士気も高い。勝てる確信があるのだ。
「……澤北、お前はどう思う?」
タケルが尋ねた。 全員の視線が澤北に集まる。彼は今まで一言も発さず、羊皮紙に何かを書き殴っていた。
「勝てますよ」
澤北は顔を上げずに言った。
「あの代官と護衛を殺すのは簡単です。……ですが、殺したらどうなります?」 「どうなるって……せいせいするだろ」 「その後です。代官が戻らなければ、領主は調査隊を送る。それも消せば、次は正規軍が来ます。百人、五百人、あるいは千人の騎士団が」
澤北は羊皮紙を叩いた。
「我々は勝てても一回か二回です。籠城戦になれば、交易は止まる。塩が入ってこなくなる。畑は焼かれる。……結局、全滅です。感情で動けば、積み上げてきた全てを失います」
冷水を浴びせられたように、集会所が静まり返った。 誰もが、その未来図を否定できなかった。
「じゃあ、奴隷になれって言うのかよ!」
若い衆の一人が泣きそうな声で叫んだ。
「いいえ。税は払いません。技術も渡しません。……でも、戦争もしません」
澤北はニヤリと笑った。それは、昼間に代官に見せた卑屈な笑みではなく、商談の時に見せる「狩人」の目だった。
「奴の要求は『税』と『技術』ですが、奴個人の欲望は別にある。……『毒饅頭』を食わせます」 「毒……? 毒殺するのか?」 「いいえ。もっと甘くて、抜け出せない毒です。……タケルさん、ガロウさん、殺気は消してください。今夜は最高のおもてなしをしますよ」
澤北は立ち上がった。
「接待の時間です」




